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2021.11.14

新幹線1時間で行けるビール天国。いま、静岡のクラフトビールが面白い!【#4 醸造所・後編】

近年、静岡県がクラフトビールのブームに沸いている。県内には22のクラフトビールの醸造所があり、ビール好きから評価の高い銘柄も多く存在。そんな県のビールを各種試すなら、静岡市内のビアバーと醸造所を巡るのが効率的で楽しい。第4回目は市内にある気鋭の醸造所「West Coast Brewing」を紹介する。【#1 ルーツ編】【#2 店舗編】【#3 醸造所・前編】

シアトル出身の建築家で「West Coast Brewing」の代表であるデレック・バストンさん(41歳)。ワシントン大学に通っている時からクラフトビールが好きだった。

シアトル出身の建築家が静岡に人を呼ぶ醸造所を作った

静岡のクラフトビールブームの強烈な新星となっているのが、静岡市用宗(もちむね)を拠点とする「West Coast Brewing」(以下WCB)だ。2019年7月に誕生した新しいブルワリーながら、全国からファンを呼び、コロナ前は海外から「WCB」の樽生を目指して飛んで来る旅人もいた。

現在、静岡市内に5軒の直営店を展開し、今年11月には浜松店もオープン予定。タイ、台湾、香港への輸出も始まり、小さな港町から海を渡る存在となっている。

オーナーのデレック・バストンさん(41歳)は、自分たちのビールを「ゴリゴリのアメリカのIPA」と言うが、まさにその通り。なにせデレックさんは米シアトル出身で、「日本に来てから自分が飲みたいビールがどこにもなかった」との想いからこの醸造所を立ち上げた。フレッシュさに欠ける輸入缶ではなく、タップで好きな味のビールを飲むには、自ら静岡で作るほかなかった。

缶にはホップをイメージしたキャラクター“Hop Dude”が描かれている。左端の白い缶は2周年記念ビールの「TDHSSR CRYO」(トリプルドライホップド/ヘイジートリプルIPA)で、現在は2ndバッチがオンラインで販売中。旨味が強く新種のスープを飲んでいるよう。

そう思っていた当時、デレックさんが静岡で何をしていたかといえば、建築家だ。現在、静岡在住歴は18年。開業に到るまでの経歴も「WCB」のスタイルに関わっているので少しご紹介する。

語学、就職、結婚、ウイスキー。すべては麦酒に通ずる

シアトルの高校時代、大学進学のために3年間同じ外国語を必修しなければいけなかったデレックさんは、「一番難しそうだから、“やってやろう!”と調子にのったんです」と日本語を学びだした。その後、めでたくワシントン大学への進学が決定し、祖母が卒業祝いにプレゼントしてくれた1998年のニッポン旅行が鮮烈だった。

東京ではスーツ姿のサラリーマンの日常風景からレストランのフードの見本、時間通りに来る電車まで、すべてがエキゾチックで刺激的。次に広島と青森へホームステイに向かうと、広島ではホストファミリーのお母さんが好物と伝えていたトンカツを毎日揚げてくれて、隣でお父さんは「スーパードライ」を開ける。青森ではホストファミリーが毎晩カラオケに連れて行ってくれた。

「最高でしょ?これ以上ない第一印象。毎日が凄く楽しくていい思い出しかないから、また日本に来たいと思いました」と、未来に繋がる初来日を振り返る。

日本語を続けながらも、ワシントン大学では音楽(声楽)を専攻し音楽教師を目指していた。しかし、経済的な事情で早く稼げる仕事に就く必要があり、就職に有利となる日本語学部の専攻に変更。在学中に慶應大学へ1年間留学し、帰国後は早期卒業して静岡市に本社のある東海澱粉のシアトル支社に就職した。

元マグロ工場をリノベーションして「用宗みなと温泉」と「West Coast Brewing」が隣合う施設とした。

商社マンとして北米の魚介や農産物を買い付ける輸出入のノウハウは、のちにブルワリーとして原材料を仕入れるのに活きてくる。「WCB」は他社では得づらい特殊なホップを海外から仕入れているのが強みだ。何よりこの商社での最大の出来事は、本社勤めの元妻と出会い、結婚を機に彼女の地元・静岡へ移住したことだった。

来日後は義父の設計事務所で10年間経験を積み、8年前に建築家として独立。デレックさんが建築家になったからこそ、私たちは「WCB」のビールを飲める。というのも、彼は2014年にウイスキーの静岡蒸留所の設計依頼をきっかけに、ブルワリー設立の可能性を見出したのだ。

「最初は難しく感じた蒸留所の設計が、進み出したら思いのほか手応えがありました。それで学生時代から好きなクラフトビールの醸造所も作れるかもしれないと考えて、気付いたらここまできた。最近ちょっとビビっています。ブルワリーが思ったよりも楽しくって。ビールは事業から派生して色んなビジネスを生み出せるのが面白い。デザインもリサイクルも、ホテルを作ることだってできる。単純に言うと僕らは幅広い世代に“格好いい”と思われたくて、ビールをきっかけにそう思ってくれた人たちが、より楽しめる仕組みを作りたい」

用宗では計16タップを用意。おつまみの提供はないが持ち込みは自由。現在は休止しているが、通常は醸造所(左ガラス戸の奥)のツアーも行っている。

実際、ブルワリーの隣にビアホテルを作る準備を進めている。今年8月に発売した「ユナイテッドアローズ」とのコラボTシャツやキャップも好評だ。

根本として、「WCB」はオーナー自身が「これが格好いい」と思う世界観が明確にあるのが強い。ビールのブランディングはもちろん、西海岸的な建築もイベントもDJも、大人の遊びのセンスに長けているのだろう。ちなみに愛車は日本に一台しかない「マスタング シェルビー GT350R」。海沿いに似合うのが気に入っているとか。

ビール詣では用宗、新幹線に乗る前は駅前のビアバーへ

「WCB」のビールを飲むのにまずおすすめするのが、醸造所に併設する「用宗タップルーム」だ。用宗は静岡駅からJR東海で2駅隣(8分)にある長閑な港町。しらす漁で有名な漁港があり、近年は新しいお店が増えて若い旅人も多く見られるようになった。

デレックさんは用宗で企画された「用宗みなと温泉」の設計依頼を受け、その環境に惚れ込み、隣に「WCB」を設立。元マグロ工場が、リノベーションを経てお洒落な温泉とブルワリーに生まれ変わった。目の前は漁港で、晴れの日は港越しに富士山が見える。

「用宗みなと温泉」は漁港越しに富士山を望む絶好のロケーション。すぐ近くに生しらす丼を出す店もある。

銭湯の廊下とブルワリーはガラス一枚で仕切られ、風呂上りにブルワリーを覗けるのもここならではだ。露天風呂で温まったあとにタンクを見れば、ビール欲は最高潮に。サウナも備え、ととのったあとはクラフトビールが心底染みる。

“温泉×クラフトビール”のコラボは、豊かな天然水を汲める用宗こそ。なめらかな井戸水がサウナの水風呂とビールの仕込み水に活用されるという最高の一石二鳥だ。ビールの原材料の9割は水だから地の利は大きい。建築家になったら良水にも巡り合った。

「安倍川上流から河口まで流れてきて、海のすぐ手前で汲みあげる水は、自然のフィルターが最大限かかっているなめらかな軟水。うちのビールは軟水が理想で、IPAやピルスナーは特にそう。もともとピルスナーが生まれたチェコは、ミネラルが何も入っていない超軟水でした。その水がピルスナーのスタイルを作りあげたので、用宗のミネラルが少なめの軟水は最適。ヘイジーにもIPAにもめっちゃ合います。不純物も何もない。ビールを一番美味しくする天然水がここにはあって、本当にラッキーです」

用宗はそんなブルワリーのベースだが、静岡駅近隣の「12-twelve」も要チェック。駅から徒歩3分に位置するので、新幹線の到着後と出発前に一杯やるのに最適だ。最大24タップも揃えるので、飲み過ぎには要注意。

ブルワリー設立前の’17年にマーケティング目的に開業したビアバー「12-twelve」。ここで自分が造りたい味に近いビールを出すといい数字が出て、設立への弾みがついた。現在は「WCB」で約20タップを常備。るアップルサイダーも美味しい。

本場のクラフトビールとはこのこと

ビールの味わいは、デレックさんや醸造家たちの「いまこれを飲みたい」という気分や季節にもとづくもの。醸造家が日米仏の混合チームというのも人を飽きさせないアイデアが生まれる所以だろう。

頼りになるマネージャーのショーラー・グラントさんは、LAの人気ブルワリー「Highland Park Brewery」の出身。静岡でLA仕込みの腕がなっている。彼ら精鋭が造り出す、「ゴリゴリのアメリカのIPA」とはどんなビールかデレックさんに聞いた。

「うちのビールの特徴は、ホップを大量に使っていることと強炭酸。ホップはアメリカ、オーストラリア、EUなど世界中から選りすぐりを調達して、他の国内の醸造所よりもはるかに多くの量を投入していると思います。こんなにDankでいいのかな?ってくらいのビールも造ります」

Dankとはアメリカのスラングで麻の香りを連想させる飲み心地のこと。アメリカのクラフトビール市場ではDankな1本は売れ筋だ。奥ゆきある生きたホップの香りが鼻腔を抜ける感じで、日本のビール好きの間でも「本場の味」を含む褒め言葉となっている。

ヘイジーIPA(濁っていてジューシーなIPA)も十八番だが、国産では珍しいCBDビールにも注目だ。例えば10月にリリースされた「Yellow Light」には、通常の3倍ものCBDが入っている。味や香りへの影響はないとされ、飲んだ個人の体験談で言うと、その夜は快眠12時間だった。

クラフトビールが大好きな生物、“Hop Dude”とは?

味わいに劣らずラベルも個性的だ。ブランドのイメージキャラクターは“Hop Dude(ホップデュード)”なる謎の生物。英国マンチェスター在住のイラストレーターによって新作ごとに描き下ろされている。静岡各地で自由に遊び、時に宇宙の惑星に降り立つ彼らは何者か?

「ホップをあえて逆さにして擬人化しています。同じ民族だけど住み分けはあって、ダークビールがダークサイド、IPAがライトサイド、サワー系は中立系。中立系はお金次第でどっちにもいく人たち(笑)。世の中には派閥があって、だからみんなスターウォーズに共感しますよね。僕らも壮大なストーリーを描いていて、何年もかけて発表したい。海外にも出しているし、店頭で主張しないといけないからインパクトあるキャラを作りました」

右は謎の惑星に旗を立てようとしているHop Dudeが描かれた「Spacewatcher」(West Coast スタイル ダブルIPA)。左は静岡の海辺のフェスで盛り上がるHop Dudeが描かれた「Never Enough Bass」(ヘイジーペールエール)。

一度、「WCB」のオンラインショップで常時20種は揃う“Hop Dude(ホップデュード)”のラベルを見て欲しい。妖しくも陽気なイラストに、些細な悩みはどうでもよくなるかもしれない。実際にビールを飲めばさらにそうなり、現地で樽生を飲んだら確実だ。

Hop Dudeは謎の生物だが、「WCB」のチームの分身に見えたりもする。クラフトビールが大好きで、“今”を楽しんでいるイメージが共通項。ノリよく次々に造るビールは、どこか人を解放的な気分にさせる。新作を月6本以上、多い週は3本発表するスピード感もここの面白さだ。

「うちは基本、売り切らして次を作るスタイル。一期一会です」とはデレックさん。怒涛の勢いでこれまで110種類以上を販売し、人気の銘柄は即日完売することも。稀に復刻して再会するのも嬉しいが、今日のための1本という巡り合わせがいい。

そんな予定調和じゃないブルワリーは、詰め込まない旅で訪れるのがハマる。東京から1時間強で予約もいらないので、予定がない週末にふらりと訪れてみては?

シアトルが本拠地のアメフトチーム「シアトル・シーホークス」の大ファン。毎週末のお楽しみは17歳になる息子とPCに向かってEDMを作ること。

WCB用宗TAPROOM
住所:静岡県静岡市駿河区用宗2丁目18-1(用宗みなと温泉隣)
TEL:054-204-1747
営業時間:火曜~金曜(12:00~20:00)※缶商品のテイクアウト販売のみ。土曜・日曜・祝日(11:00~20:00)

12-twelve
静岡県静岡市葵区紺屋町7-14 小梳神社第2ビル1F
TEL:054-204-8188
営業時間:火曜~金曜(11:00~15:00、17:00~24:00)、土曜(11:00~24:00)、日曜(11:00~22:00)

【#1 ルーツ編】【#2 店舗編】【#3 醸造所・前編】

TEXT=大石智子

PHOTOGRAPH=松川真介

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