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2025.07.21
お布施を“払わない”選択はアリなのか?
「お布施はお気持ちです」をどう受け止めるべきなのか? 仏教学者・清水俊史さんが語る。『お布施のからくり 「お気持ち」とはいくらなのか』から一部抜粋してお届けします。

払わないという選択肢もあり得るけれど……
「お布施はお気持ちです」
法事の折に、いくらお布施を包めばよいかわからず僧侶に聞いて、こう返ってきた経験のある人も多いのではないだろうか。この言葉からわかることは、お布施は「お気持ち」だということである。それでは、僧侶の言葉を真に受けて、どうも気持ちが入らないので、法事に呼んでもお布施を払わないという選択肢はあり得るのだろうか。
確かに「お布施はお気持ちです」という言葉を真に受ければ、理論としては、法事をしてもらってもお布施を払わないという選択肢もあり得る。だが、実際にはそのようなパターン は稀有である。たとえ信心深くなかったとしても、法事の儀式を執行してくれた僧侶に対して、その対価としていくらかのお布施を包むことにまで違和感を覚える人は少ないだろう。むしろ焦点になるのは、いくら包むべきなのか、その金額を包む根拠はどこにあるのか、ということである。
日本では、ほとんどの物事に定価が設けられ、値札の付いた生活が一般的である。そのため、突然、「お布施はお気持ちです」と自主性を求められても、多くの人は戸惑うばかりであろう。特に、葬儀においてお布施を一〇万円にするか一〇〇万円にするかで違いが戒名のランク程度でしかない場合、「お気持ち」がどのような意味や価値を持つのか理解しづらいのが実情である。
株式会社鎌倉新書が実施している「お葬式に関する全国調査」(第五回二〇二二年、第六回二〇二四年)によれば、葬儀費用の平均相場は一一八・五万円であり、これとは別にお布施の平均額二二・四万円が足され、概算すると合計一四一万円ほどの出費になる。実に宗教者へのお布施は全体費用の一六%弱にも上る。この金額はどのように理解すべきなのだろうか。
信仰心はなくても先祖供養はしたい
多くの日本人にとって、先祖供養を執り行うことは、必ずしも仏教(あるいはキリスト教)を信じることとイコールなのではない。統計数理研究所の国民性調査によれば、「宗教を信じるか」の問いに「信じている」と答えた人はおよそ三割前後で推移しているのに対し、「先祖を尊ぶか」の問いに「尊ぶ方」「普通」と答えた人は九割前後で推移している(一九五三年より二〇一八年まで)。
要は、特段強い信仰心を持ってはいないが、先祖は尊ぶというのが日本人の最大公約数なのである。よって、葬式や七回忌などの法事を執り行ったとしても、それは故人を偲ぶという先祖供養に意義を認めているからであって、必ずしも特定の宗教に対する篤い信仰心に根差しているわけではない。
ゆえに、僧侶から「お布施はお気持ちです」と言われても、高額のお布施を包もうというマインドには傾かないし、むしろ適正価格が不明なことに困惑するばかりである。
この困惑を汲み取って、民間業者が、僧侶へのお布施も含めて葬式を明朗会計で提供するサービスや、そもそも僧侶を呼ばずに親族だけのお見送りと火葬だけを提供するサービスをはじめている。これと並行して、コロナ禍(二〇一九―二〇二一)を契機に、葬儀の規模を縮小する傾向が強くなった。二〇一五年の段階では全体の六割弱を占めていた一般葬(通夜・葬儀・告別式があり、第三者が自由に参列できる)が二〇二四年に は三割にまで急落した。
代わりに、二〇一五年調査で三割ほどだった家族葬(通夜・葬儀・告別式があり、参列者を親族血縁・一部の友人のみに限る)が二〇二四年調査では五割にまで拡大している。この他にも、より簡素な一日葬(告別式のみ)が一割、さらに宗教儀式がなく火葬のみを行う直葬・火葬式が一割弱ある(「お葬式に関する全国調査」第六回二〇二四年)。
むしろ、アフターコロナにおいて、葬式は親しい者たちだけ少数で小規模に行うことが普通になっており、その簡素化・非宗教化が進んでいると評価できるだろう。そのような会合に一人だけ僧侶を呼ぶというのはなんとも居心地が悪いし、僧侶を呼ばなくても故人を偲び先祖を尊ぶことは叶うと考えるのが当然であろう。
故人や先祖への供養の大切さは広く認められながらも、宗教心が深いからではなく、加速度的に法事の規模は縮小している。このような状況下にあって、法事と宗教者の関係――より端的に言ってしまえば、法事でのお布施をどのように我々は受け止めるべきだろうか。
「お布施はお気持ちです」という言葉が象徴するように、元来、お布施はサービスへの対価ではない。しかし、実際問題として、現代社会におけるお布施は、「サービスへの対価」として払っている側面が色濃く、その存在意義が根底から崩れようとしている。
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