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2024.10.06

「出張マッサージ」を頼んだ70歳の奥様。来たのはミニスカートのギャルで…【家政婦の爆笑エピソード】

57歳で家を飛び出し家政婦に! 派遣された家々では驚きの出来事が…!?  当時87歳だった「家政婦 金さん」こと石川金さんによる衝撃の実話エピソードをご紹介。書籍『家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記』より、一部を抜粋してお届けします。

「出張マッサージ」のチラシを見つけた奥様

ある日の午後、ポストに入っていた小さなチラシを見た奥様。

「この“マッサージ出張いたします”って広告、本当に家まで来てくれるのかしら? お店に行くのも面倒だから来てくれたら便利だわ。予約できるか、電話かけてみてくれる?」

とおっしゃいました。

住み込みでお仕えしていた奥様は70歳、コンビニにも行かれたことのないようなお嬢様で、とても優しく上品な方です。

「はい……でもこれはマッサージといっても本物ではないかもしれないですが

「えっ、マッサージに偽物と本物があるの?」

「はい、あるようです」

「一体どこが違うのかしら。とにかく一度、呼んでみましょうよ」

奥様たってのご希望ですので、私は早速電話しました。

「こちらは高齢ですから、指圧ではなくみほぐしの上手なマッサージ系で、女性の方をお願いします」

2時間後に来てくれることになりました。

「奥様、上手な人に当たるといいですね」

「あら、プロだから皆さんきっと上手いわよ」

やって来たのはミニスカートのギャル

さて夕方になって、チャイムが鳴りました。

「ご予約いただいたミラクルロージーです」

早速玄関に行き、ドアを開けてみるとそこには、茶髪のロングヘアに金色の大きなフープピアス、ミニスカートにハイヒールの女の子が大きなバッグを抱えて立っています。マッサージによく行く私にとって、マッサージ師さんといえば白衣。そこへギャル。予想外すぎる姿に思わず、

「はい……?」

と言うのがやっとでした。するとギャルは、

「ご予約いただいたミラクルロージーから参りました。よろしくお願いいたします」

礼儀正しい。しかしこれは、私たち賭けに負けたのではないかしら。でももしかして着いてから着替えるパターン? と、期待は捨てずに、

「どうぞ」

とスリッパを勧めると、彼女は持参した靴下をはいて上がりました。うんうん、白衣も持ってるかも。奥様は和室に敷いてある布団の横の、低めの椅子でお待ちです。

「奥様、マッサージの方です」

紹介すると、彼女は自分から、

「こんばんは。お電話ありがとうございました。アキと申します。よろしくお願いします」

礼儀正しい。さすがに奥様も一瞬戸惑ったお顔をされましたが、

「あらご苦労様、よろしくね」

するとアキさんは布団のそばにしゃがみ、バッグの中をガサゴソし始めました。ああ白衣着るとかズボンにはき替えるとか……とホッとしかけましたら、出てきたのは大きな青いビニールシートでした。ああ! アキさんはそれを布団に広げようとしています。

「アキさん、お布団にはもうタオルシーツが敷いてあるから大丈夫よ」

私が止めると、

「はい」

アキさんはシートをバッグにしまって、そのまま奥様に、

ここにおやすみください

と言います。

「あの、うつとか横向きとか仰向けとか言わないとわからないですよ」

また私が言うと、アキさんは、

どっちでもいいです

どっちでもよくありません。「ギャル」に価値があるといってもですよ。

「それは困りますよ、マッサージする順番があるでしょう?」

何十年もいろんなお店で揉んでいただいてきた私、マッサージにはちょっとうるさいのです。どうにも見ていられず、口を挟んでしまいました。続けて、

「奥様、どこが凝っているのかおっしゃってください」

「首と肩こりが酷いのよ」

「では横向きになってください」

私が奥様に指示するなんて考えられないことですが、仕方ありません。

家政婦・金さんのマッサージ指導

「アキさん、まず首から肩にかけて軽く揉みほぐして……横向きならやりやすいでしょ。力加減も伺って調整してね」

普通、首などには必ずタオルを使うのに用意していないようです。なのでタオルを持ってきて、

「これを使って。手が滑らなくていいですからね」

「はい」

しかしどう見ても首と肩を優しくでているだけです。そもそもオレンジ色の爪が長いこともあって、しっかりとは揉めないのです。

奥様が、

「もっと強くしてもいいのよ」

とおっしゃると、

「はい」

と返事はするのですが、動きに変わりはありません。私は、たまらず聞きました。

「アキさん、経験はどのくらいですか?」

「2年目です」

「マッサージの指導は受けました?」

「……はい」

「お客様にもっと強くって言われません?」

「いえ、別に……私の場合、かなり高齢の方が多いのでこの程度でいいみたいです」

「あのね、奥様はご高齢といってもまだ70歳なんですよ。こんなさすり方ではマッサージとは言えないです。私がこれから見本を見せますから

そう言って手を伸ばすと、アキさんは自分の手を引っ込めました。

「まず首にタオルを当てて、首筋を軽くつまむ要領で上から下、下から上へと動かすの。やってごらんなさい」

「はい」

「もう少し、力を入れて」

「はい」

素直。素直な子は伸びます。ですが、

「奥様、練習台で申し訳ないです」

「いいのよ」

寛大。寛大な方は慕われます。

「じゃ、次に肩は腕の付け根から5センチくらいの、首寄りのところを指で押しながら、けんこうこつの内側を揉みほぐす。そして背骨の両側に指先を入れて、骨をつかむ感じで。背中から腰のこの辺りまでね。腰のツボはここだからね」

「はい」

返事はいいのだけれど、やはり爪が邪魔して上手くはいきません。

「もっとここはこうして……」

とやっているうち、ほとんど私がマッサージすることに。アキさんはそれを見ながら、

あの、マッサージお上手ですね

私は揉みながら、

「アキさんもプロでしょう? もっと勉強しないと。この業界も競争が激しいでしょう?」

と言うのですが、

「えー……、でもそこまでは……」

アキさんは苦笑いするばかりでした。

1時間ほど私がマッサージした後、彼女にお支払いして終了。

奥様は、

「あなたが『偽物』って言った意味がわかったわ。勉強しないでやっているのね」

よく考えれば、マッサージが偽物であっても「ギャルのマッサージ」としては本物ですから、私たちが頼む先を間違えたということだったのでしょう。

「でも金さんは家政婦を辞めてもすぐ就職できそうね。芸は身を助く、よね」

アキさんと同じ事務所では無理そうですが、しっかり揉みほぐすマッサージならいつでもご指名くださいませ。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記
石川金,小栗左多里

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