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2026.02.07

パテックフィリップ、ジュネーブ近郊の新工房「PP6」に潜入

1839年創業。時間を文化として紡いできた時計界の最高峰メゾン、パテック フィリップ。そのジュネーブのすべての製造活動拠点が2020年よりジュネーブ近郊プラン・レ・ワットの新工房に集約された。ここでは現場に出向いた本誌編集長・池上雄太が、建築、ウォッチメイキング、希少なハンドクラフト──3つの視点から、工房を紐解く。そこは時計を生みだすだけの場所ではない。思想・技術・精神を次世代へ手渡すために邁進する場所だった。

パテック フィリップのムーブメント
パテック フィリップにとって、ムーブメント製造は究極の誠実さの証明。時計を手にした者が目にすることのない裏側にまで、完璧な美しさが宿る。もしかしたら、美しく磨きあげるのは100年後の修理職人も驚かせたいという意図もあるのかもしれない。職人の矜持が、世代を越えて愛される価値を生みだす。

静謐に鎮座する白き新工房は、継承のための建築

ジュネーブの空は高く、澄み切っていた。その静謐な空気の奥に、時間という文化を守り続けるための拠点がある。プラン・レ・ワットに建つパテック フィリップの新工房、通称「PP6」だ。メゾン6番目の中枢拠点として、2015年に着工。総工費6億スイスフランを投じ完成したのは2020年だ。

横に長く層を重ねた白い外観は、まるで静かに航行する巨大なオーシャンライナーのように見える。アイコンモデル「ノーチラス」を思わせる曲線、リーフ針を想起させる手すりが随所に配され歴史を感じさせる。また内部には299名を収容できるオーディトリアム(講堂)があり、講義や研修を通じて技術と哲学が語り継がれ、社員皆の意志が共有されていく。

PP6は単なる工房ではない。時間と技術、そして精神を、連綿と次世代へ手渡すための建築だった。

製造機能を再統合した継承の現場に足を踏み入れて

PP6に足を踏み入れて、まず気づくのは驚くほどの静けさ。急かす音も、誇示する言葉もない。時計づくりは、落ち着いた空間の中で黙々と進められていた。2020年、パテック フィリップはジュネーブ近郊に分散していたすべての製造機能を、このPP6に再統合した。ムーブメント部品製造から、ケースやブレスレット、ジェムセッティング、修復、研究開発、希少なハンドクラフト、さらにはトレーニング機能まで、時計づくりに必要なすべてがこの建築の中で完結している。

時計づくりの工程のひとつ、ムーブメントにペルラージュ装飾を施す体験をした。ルーペを目に当て、ドリル研磨機で円模様をひとつずつ刻んでいく。均一な間隔と深さを保つのは想像以上に難しく上手く施すことがまったくできない。だが職人たちには迷いがない。手早く、しかし確実に、同じ所作を積み重ねていく。その動きに、長年の経験の蓄積が凝縮されていた。

新工房で見て聞いて思う。この工房が伝えてくる最も強いメッセージは、規模の大きさや効率のよさではない。次世代に継承するための教育と訓練が最重要事項として据えられている点にある。時計師はもちろん、技術者やマーケティング担当や販売に携わる者など社員皆が学ぶ場が用意され、技術と同時に、判断の基準や時計づくりへの姿勢が共有されていく。そしてスタッフ皆がここで仕事をすることに誇りを持っている。

PP6は工房であると同時に思想を残す拠点だ。ここで生まれるドレスウォッチも、スポーツウォッチも、グランド・コンプリケーションも、ユニークピースも、高い技術によるものというだけではない。連綿と積み重ねられてきた時間と、研ぎ澄まされた美学が生みだしてきたものだとわかる。美学とは、急がず、増やさず、変えすぎず、選択を重ねることで、残すべきものを守ってきた姿勢だ。パテック フィリップの時計は、技術だけでなく、美学と継承を選び続けてきたメゾンの姿勢が結晶化した必然のカタチだった。

継承する技。静かな仕事。希少の意味

工房の5階に設えられた希少なハンドクラフトの空間には、効率という概念がない。職人たちがここで施すのは、エナメル装飾のクロワゾネ、手彫りのギヨーシェ、マルケトリ(木象嵌細工[ぞうがんざいく])といった極めて希少な装飾技法だ。いずれも時間をかけ、失敗を恐れず、やり直しを厭わず完成へと至る作品だ。

メゾンにとって希少なハンドクラフトとは、特別な技巧ではないのかもしれない。むしろ、継承すべき姿勢そのもの。習得よりも伝承を重んじ、完成よりも持続を選ぶ。例えば、クロワゾネでは800℃を超える高温の窯で何度も焼成を繰り返す。わずかな温度変化で色が変わり、ひび割れが起きればすべてが台無しになるのだそう。非常にリスクの高い工程だ。

時間を告げる道具から、永遠を閉じこめる芸術へと昇華させる、職人たちの静かなる熱狂がこの空間には息づいていた。

時を重ね、静かに研ぎ澄まされた時計たち

カラトラバ・トラベルタイム 5224R

知性を湛(たた)えたネイビーブルーの文字盤に、24時間表示という独創を宿したタイムピース。ケース側面のプッシュボタンを敢えて排除し、すべての操作をリューズに集約。PP6の高度な技術が、複雑さを誇示するためではなく、究極のシンプルさを実現するために注がれている。

カラトラバ・トラベルタイム 5224R
自動巻き、18KRGケース、径42mm。¥9,760,000

5235/50R 年次カレンダー・レギュレーター

年次カレンダーとレギュレーター表示という、個性の強いふたつの機構を端正にまとめた1本。中央の分針を軸に、時と秒を独立表示することで、時間の読み取りは直感的。年に一度の調整で済む実用性も魅力だ。ローズゴールドケースが、理知的な構造に穏やかな気品を添える。

5235/50R 年次カレンダー・レギュレーター
自動巻き、18KRGケース、径40.5mm。¥10,080,000

クロノグラフ 5172G

クロノグラフの本質である計測の明快さと、メゾンならではの端正な造形美を両立したモデル。スタート、ストップ、リセットという操作に、手巻きならではの確かな手応えが伝わってくる。

クロノグラフ 5172G
手巻き、18KWGケース、径41mm。¥14,100,000

問い合わせ
パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL:03-3255-8109

TEXT=ゲーテ編集部

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