5,000社以上が導入し、書籍も累計184万部を超えるマネジメント理論「識学」。2025年、同社はM&Aによるハンズオン支援で中小企業の成長と事業承継を支援する新会社「識学グロースキャピタルパートナーズ」を設立した。組織コンサル会社が、なぜ“投資”という形で企業支援に踏み出したのか。識学 代表取締役社長・安藤広大氏に、その狙いを聞いた。連載第7回。【その他の記事はコチラ】

製造業に風穴を開ける、識学の「ハンズオン支援」
創業以来、累計5,000社以上に導入されてきた識学。2025年5月、子会社として「識学グロースキャピタルパートナーズ」を設立した。
良い技術やサービス・製品を保有する製造業をターゲットにM&Aを実施し、識学の理論をもとに組織改革を行う。技術や事業の承継、企業の成長、そして賃金上昇による従業員への還元を目指すハンズオン支援事業だ。
「さまざまな企業の相談にのるなかで改めて気がついたのが、日本の製造業がいかに素晴らしい技術をたくさん持っているかということでした。ただその反面、私たちに相談がくるということは、経営や事業承継が順調にいっていないことも多い。その結果として、せっかくの優れた技術が海外に流出してしまうという現実があります。
そこで、そういった企業をM&Aし、ハンズオン支援を行うことで技術の流出を防ぎ、事業承継を支援する会社として『識学グロースキャピタルパートナーズ』を立ち上げました」
実は識学は以前から、SBI新生銀行とともに「新生識学ファンド」を運営。組織コンサルティングの知見を活かして、投資先企業の支援を行ってきた。
支援企業では、労働環境や生産性の向上に加え、売上などの経営数値も大幅に改善。最終的には株式売却により大きな成果を出すことに成功した。
次のステップとして安藤氏が仕掛けたのが、この「識学グロースキャピタルパートナーズ」だ。
「これまでのハンズオン支援ファンドは、対象企業の株式売却によって収益を得るモデルでした。ですが今回の事業では、識学の連結子会社にすることで事業改善後も長期的に支援していきます。
単なる資金提供やコンサルティングではなく、経営権を持つことで事業計画の策定はもとより、さまざまな会議への参加など、その会社の中枢に入ることになり、より直接的に組織改革も進められると考えています」
コンサルとして外から遠隔操作で改善を促すのではなく、経営の当事者として携わる。スピードと関与度の両面で、より踏み込んだ組織改革が進められるというわけだ。
「もちろん、僕らの役割はあくまでも組織を改善し、今いる経営陣や幹部が会社を伸ばせる状態を一緒に作っていくというスタンス。その会社が持っている技術面そのものには一切タッチしません。
すでに価値ある技術やサービスを持ち、それがこれからもしっかり残る体制をつくれる会社と組んでいきたいと考えています」
レッドオーシャンの製造業こそ、識学の組織改革が活きる
今回、ターゲットを製造業に絞った背景には、先に述べた日本の優れた技術やサービスの承継とともに、識学としての戦略的な狙いもあるという。
「これまで日本経済を支えてきた製造業は、いわばレッドオーシャンの業界です。我々は組織コンサルなので、新規事業や営業戦略を提案はできません。それよりも組織を強くすることが役割です。
そして、その力が最も活きるのが実はレッドオーシャンの業界だと考えています」
誰もまだ手をつけていないブルーオーシャンを目指すのではなく、競争が激しい、競合企業がひしめき合うレッドオーシャンに漕ぎ出すのは、一見すると難しい選択に思える。しかし安藤氏は、そこに識学ならではの強みを発揮できると見ている。
「普通は困難だと考えるでしょう。でもレッドオーシャンということは、すでに一定規模のマーケットが存在するということ。であれば、あとは組織力そのものに差をつければ勝てるはずです。
また、レッドオーシャンは成長曲線がゆるやかで、ある意味停滞している業界であるとも言えます。これまでの数々の企業コンサルの経験から感じるのは、そういう業界では実は競合他社が自ら成長を諦めていたりする。だからこそ、僕らが入って実績を出せば、確実に大きな成功へとつながるんです」
実際、2019年に新規上場した企業のうち約10%にあたる7社が識学を導入するなど、同社が企業価値向上に大きく寄与してきた実績はすでに示されている。
「識学グロースキャピタルパートナーズ」の事業はまだ始まったばかりだ。だが、かつては日本の経済成長の要であったはずの製造業に識学がどんな風穴を開け、新しい発展への道を切り拓くのか。その挑戦に注目したい。
※8回目に続く
安藤広大/Kodai Ando
識学 代表取締役社長。1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はラグビー部に所属し、勝敗と向き合う厳しい環境で4年間を過ごす。NTTドコモ入社後、営業としてキャリアをスタート。上場企業への転職を経てマネジメントに携わるなかで、「人のやる気」や「人間力」に依存する組織運営に限界を感じ、識学と出合う。誤解や錯覚を排した明確なルールと仕組みによるマネジメント理論に強く共感し、事業部の立て直しでその有効性を実証。2015年に株式会社識学を設立し、創業4年足らず(3年11ヵ月)東証グロースに上場。現在は延べ5,000社以上の組織改革を支援している。組織マネジメントに関する著書は『リーダーの仮面』などベストセラー多数。「がんばっている人が、正しく報われる組織を増やしたい」という思いが、識学の根底にある。

