「異彩を、放て。」という言葉を掲げる日本発のブランド、へラルボニーに今、世界が熱い視線をおくる理由とは──。【特集 日本のハイブランド】

ヘラルボニーという奇跡と必然
障害のあるアーティストの作品を知的財産(IP)化して、ブランドとして製品展開をしながら、障害の価値観を変容させることを目指す。そんな活動をするヘラルボニーが、奇跡的な躍進を遂げている。
2018年に岩手県盛岡市で創業して以来、着実に活動の質と量を増し続けてきたが、近年の動きはいっそう大きい。国内では盛岡に旗艦店「HERALBONY ISAI PARK」、銀座に「HERALBONY LABORATORY GINZA」を出店。ともに多くの人の耳目を集めている。
また、2024年にはLVMHが主催する世界の革新的なスタートアップを評価するアワードで部門賞を受賞。海外法人を立ち上げると、2025年には世界最高峰のクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ2025」で、グラス部門金賞に輝いた。同年にはパリ・ファッションウィークで、ブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」とともにランウェイに登場。世界にその名を轟かせた。
誰もまだやっていないことをやる
日本発のブランドとして注目されている現状について、Co‐CEOの松田崇弥氏はこう語る。
「そう見ていただけるのは、とてもありがたいことです。私たちは『障害のある人たちのイメージを変えていく』という活動を、ビジネスやアート、ファッションの力などを借りて展開していると思っています。障害を扱うというとそれだけで、『質は問わないし、きっと安いものだろう』と考えられがちです。私たちがブランドイメージを確立し高めることで、その既成概念を打ち破っていきたい。ギャップがあるほど、インパクトも強くできるでしょうし」
ここ数年の目覚ましい海外展開は、意図的に起こした流れであるという。
「グローバルに展開するぞ、というのは、このところ強く意識してきました。きっかけは数年前のこと。フランスでアール・ブリュット(正規の芸術教育を受けていない作者によるアート)を扱うギャラリーのオーナー、クリスチャン・バースト氏に会いました。私たちのやっていることについて話すと、『すごいイノベーティブな活動だ、なぜ日本の中だけでやっているんだ?』と驚かれました。
そのあと調べてみると、確かに私たちと似たようなことをしている人は、世界中を探してもほとんどいなかった。また、世界中の福祉施設を訪れてみると、彼らが生みだす作品の魅力は、まだ見出されていないとも、以前から感じていました。だったら自分たちが先んじて、どんどん世界中に活動を広めていこうという気持ちになったのです」
ラグジュアリーに対する考え方が変わった
創業から10年に満たない年月で、国内外を問わず活動の意義や魅力がすみやかに浸透しつつある、この理由はどこにあると考えているだろうか。
「障害者の作品であるといったこととは関係なく、彼らの作るものはシンプルに素敵で魅力的です。ヒューマニティを感じるというか、温かい気持ちになるというか、満たされた感覚をもたらしてくれます。へラルボニーとしてはそういう雰囲気を醸しだそうとしているし、それが多少なりとも伝わっているからこそ、受け入れていただいているのかな、と思います。
世の中のラグジュアリーに対する考え方も確実に変わってきています。私たちはこれまであまり人が目を向けておらず気づいていなかった美しさを提示して、『ほら、美しいでしょう?』と言う、そんなシンプルなことをやっているつもりです。特別なことは本当に何もしていません。もともとすごい作品がそこにあって、これまでは『これは障害者ががんばって作ったものです』といったベールが1枚かかっていた。その1枚を取り除いてみたら、こんなに美しいものがここにあったんだ、と皆に気づいてもらえただけ、という感じです」
ビジネスとして軌道に乗せられている要因についてはどうだろうか。
「へラルボニーを経営しているのは私と双子の兄の文登です。私たちには兄貴がいて、障害があります。彼こそがトゥルーファウンダー(真の創業者)です。へラルボニーとして何かやる時には必ず、『兄貴はこれでどう思うのかな、どう感じるかな』と考えます。私たちの両親もいつも熱心に応援してくれています。ファミリービジネスっぽい要素がかなりあって、そこが根っこになっているので、ブレることがまったくないのは、強みになっているかもしれません」
着々と狙いが実現している現状をどう捉えているか。まだまだやりたいことは尽きないのだろうか。
「まったく道半ばです。やりたいことは山ほどあります。海外に出ていけた喜びはもちろんありますが、今はまだ、ほぼヨーロッパのみです。アメリカにも進出したいし、もちろんアジアもこれから積極的に出ていきたいと思っています。これは販路を広げるというだけの意味ではなくて、現地の作家や福祉施設の方々と、どんどん一緒に活動していけたら、もっと面白くなるからです。そうなれば、お互い大いに刺激を与えられるんじゃないか、と思います。そうしたつながりや広がりを作っていくのに、へラルボニーというブランドが活用できるのであれば嬉しい。まだ生まれて10年にも満たないブランドですから、これからも挑戦と変化をし続けていけたらいいですね」

へラルボニー代表取締役Co-CEO。1991年岩手県生まれ。東北芸術工科大学企画構想学科卒業後、小山薫堂氏率いる企画会社、オレンジ・アンド・パートナーズのプランナーを経て、双子の兄・文登氏とともにへラルボニーを設立する。「異彩を、放て。」をミッションに活動を展開。
この記事はGOETHE 2026年3月号「総力特集:日本のハイブランド」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら



