慶應義塾大学教授・岸博幸先生が、各分野で活躍するいま気になる人と対談する不定期連載企画「オトナの嗜み、オトコの慎み」。今回の対談相手は、自由民主党幹事長代行の萩生田光一氏。

街の開発よりも「人をつくる」
岸 今回の対談は私の希望で萩生田光一先生にご登場いただきます。萩生田先生はいまだに“裏金の象徴”のように言われていて、僕にはそれが我慢ならない。政治資金収支報告書不記載の問題はきっちりと記者会見を開き、時間無制限で記者からの質疑応答にも応じた。結果、不記載だったお金はすべて政治活動に使われたと判明している。それだけ説明責任を果たしているのに、いまだに「裏金、裏金」と言われるのが腹立たしい。萩生田先生はもっと怒るべきです。
萩生田 不記載というミスを犯したのは私の責任。ですから捜査にも全面的に協力をして、自分なりにきちんと説明してきたつもりでいます。これ以上、私から言うことはありません。
岸 先生は安倍さんの後継者と目されていたから、不記載問題の中心人物であるかのような取り上げ方をされてしまった。正直、腹が立ちません?
萩生田 小学生の時から、みんなと同じことをやっても僕だけ怒られる。そういうキャラだったんです。今回もそういうものなのかなとは感じました(笑)。

自由民主党幹事長代行。1963年東京都八王子市生まれ。明治大学商学部卒業。八王子市議、東京都議を経て、2003年衆議院総選挙に東京24区から出馬し当選。以降、衆議院議員を7期務め、経済産業大臣、文部科学大臣などを歴任する。
岸 先生は東京・八王子の一般的な家庭に生まれました。どうして政界に?
萩生田 子供の頃、家のトイレが汲み取り式だったんです。うちだけじゃなく、近所の友達は全員汲み取り。でも都心の高校に通い始めると、級友の家のトイレは水洗。それが悔しくて、八王子市役所の下水道部に「僕が住んでいる地区にも下水を整備して水洗トイレが使えるようにしてほしい」と電話をかけました。
岸 それで?
萩生田 担当者は「下水処理が行えるようになるのは、あと15年先の予定」だと。下水処理場は海抜の低い地域から造るため、海抜が高い八王子は後ろになってしまうんです。政治や自治体に責任はないが、あの時は自分の大好きな八王子がダサく感じ、政治家になれば「自分の街がよくなるはず」と思いました。それが政治家を目指したきっかけ。被選挙権を得て、27歳で八王子市議に立候補しました。
岸 それから八王子のために尽くし続けている。
萩生田 当初は駅前再開発や橋を架けるといった街づくりに力を注ぎたいと思っていました。でも、そうした開発は時間とお金さえあればできる。それよりも「人をつくる」ということが大事じゃないかと。市議になり、子供たちの教育を第一に考えるようになりました。
岸 具体的にはどういうことを?
萩生田 背伸びすることなく、市民の率直な声を議会に届けようと思いました。例えば、公園のブランコ。ブランコの下の地面はだんだん削れてきて、雨が降ると水たまりになり、数日間ブランコが使えなくなってしまう。そこでブランコの下をゴムマットで舗装する事業を提案。工事が認められ、子供たちだけでなく、お父さんお母さんが喜んでくれました。ほかに乳幼児の医療費を無料にする提案も。この提案には公明党や共産党も賛成し、見事可決。1年後には東京都が乳幼児医療費無償化の条例を制定しました。
岸 八王子は東京都に先駆けたわけですね。こうした活動を行っているから、萩生田先生の地元での人気は圧倒的。演説を行えば大勢がつめかけ、2024年の総選挙では逆風が吹き荒れるなか、当選を果たしました。まさに八王子に根づいた政治家と言えますが、どうして衆議院選挙に出馬を。
萩生田 市議3期後、2001年に都議になりました。その1期目、当時都知事だった石原慎太郎さんに「国会に行ってくれよ」と言われました。「まだ都議は1期目ですし、地元の人に説明ができません」と断ったら、「東京のために国会に行くんだぞ」と返されました。その言葉がストンと腑に落ちた。どこにいても東京のために働くことができると思えたんです。石原さんはビデオをつくってくれて、そのビデオで石原さん自身が「私だって萩生田君に近くにいてほしいが、東京のために国会に行ってもらいます。皆さん理解してください」と話してくれました。とても名誉なことでした。
岸 萩生田さんはリーダーシップが強く、人を惹きつける。石原さんや安倍さん、小池都知事、みんな萩生田さんが大好き。そのうえ他党からの信頼も厚い。個人的に日本を率いるべき政治家だと思っています。萩生田先生はどんな日本をつくりたいですか。
萩生田 本当の意味で「自立した国」にしたいですね。日本は自らの手でたいていのことができる国だと思っていましたが、コロナ禍で脆弱な国だと思い知らされた。マスクや注射器、防護服などは日本のメーカーであっても製造は海外。日本はものづくり国家と言われながら、製造拠点は海外に移転し、国内は空洞化しています。ロシアとウクライナが紛争を始めると小麦が高騰し、パン店の倒産が増加。食糧自給率が4割しかないのは、ものすごく危険なことです。日本は高齢化が進み、人口の減少は避けられません。まずは必要なものを自分たちの手でつくり出せる国に戻す。そのクオリティが高ければ、小さくてもキラリと光る国であり続けられると思います。
岸 そのために必要なのはやはり教育ですね。
萩生田 学ぶこととともに、もっと当事者意識を持ってほしい。「あの政治家はダメだ」と批判するだけでなく、この国をよくするために「俺が政治家になってやろう」と考える人が増えてほしい。日本は資源が少ないこともあり、最終的には人で勝負すべきなんですよ。

1962年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。経済財政政策担当大臣、総務大臣などの政務秘書官を務めた。現在、エイベックスGH顧問のほか、総合格闘技団体RIZINの運営にも携わる。

