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2026.01.03

「苦手なものから逃げた先に、やりたいものがある」岸谷蘭丸&桝本壮志、挫折からの再起

かたや、売れっ子放送作家として活動する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年連続で人気No.1になった桝本壮志。こなた、彗星のように現れたZ世代の新たな論客、岸谷蘭丸。ビジネスパーソンがモヤモヤを抱きがちな言葉を取り上げ、異能のふたりが舌鋒鋭くぶった斬る。3回目

桝本壮志&岸谷蘭丸

【キーワード③ 挫折】

──今回のキーワードは「挫折」です。桝本さんは高校野球の強豪校で野球選手になることを諦め、その後は芸人になることも断念しました。岸谷さんは、中学受験で第一志望に合格しながらも堕落して辞めた。「挫折」から立ち上がりたいという人は多いと思いますが、おふたりはどうやって再起したのでしょうか。

逃げて逃げて、逃げまくれ!

桝本 僕は芸人を廃業していますし、小学生の頃の夢だった漫画家にも、高校時代に打ち込んだ野球選手にもなれなくて、いまがあるわけです。で、もし学校へ行くことのメリットがあるとしたら、それはクラスが30人だとしたら、30分の1になれることだと思うんです。30分の1として見ると、自分は何が得意なのかが見えてくる。

吉本の学校に入ったとき、当時780名の生徒がいたんですね。野性爆弾とかチュートリアル徳井とか、ブラックマヨネーズが一緒で、このなかで自分が売れるわけないと思ったんです。漫才を教えてもらったことよりも良かったのは、780分の1として自分を見ることができたことです。

自分はなにが得意なのかと考えると、芸人を廃業して裏方にまわって作家をやったほうがいいということに、早めに気づきました。確かに芸人にはなれなかったけれど、じゃあ僕はなにが得意なんだろうということを考えるきっかけがそこで、次へのステップになりました。

岸谷 桝本さんのエピソードはちゃんと再現性がある話でいいな、羨ましいな(笑)。僕の場合は、コンプレックスとか、こんなのはイヤだみたいな、そういう気持ちでしか動けないタイプなので、なるべく追い詰められれば追い詰められるほど力が出る、みたいな生き方をしてきました。

桝本さんの話でいくと、僕は780分の1になるのが怖いタイプだったんですよ。俺は780分の1じゃなくてオンリーワンのはずだ、みたいな驕りがあって、それだけは譲れねぇみたいな気持ちになって、中学校3年間ぐらいなにもしない日々を過ごして、「命がもったいない」と『ONE PIECE』みたいなことを母親から言われて。

自分がどうしたら結果を出せるかを考えて、追い詰められなきゃ駄目だと思って、最も追い詰められそうな環境が留学だったんです。

桝本 なるほど、そうだったんですね。

岸谷蘭丸

岸谷 まったく英語が喋れないのに日本人がひとりもいないところに行くというのは、そのときに考えた選択肢のなかでは一番プレッシャーが強いものでした。頑張りたい気持ちがあるならどうやったら頑張れるのかを考えるほうがいいと思っていて、「頑張らなくてもいいんだよ」は悪魔のワードだと思うので。

桝本 そう思います。

岸谷 頑張らなかった先の責任をとってくれる人はひとりもいないんだから、自分が頑張れるように環境を変えちゃおうっていう意識のほうがいいんじゃないかという気がしています。

桝本 自分が言葉を喋れない状態で海外に行ったら、モチベーションとかパフォーマンスが上がるんだっていう、確信みたいなものはあったんですか?

岸谷 めちゃくちゃあります、それは。ガワから入るのが好きで、仕事を始める前にスーツを買いたいみたいなタイプなんで。留学行く前にもマンガは1万冊ぐらい全部売って、プレステ4もDSも全部売ったり捨てたりして、それをやるとなんか頑張れる気がしてきました。

桝本 いまはそういう自身の経験を活かして、海外留学で学ぼうという人の後押しをするお仕事をなさっているわけじゃないですか。ほとんどの人は蘭丸さんの真似はできないと思うんですけれど、自分を成長させることについて、どんな言葉で伝えていらっしゃるんですか。

岸谷 僕は結構、甘えんなよ、って話が多いです。

桝本 いや、それ大切です。

岸谷 基本的にこういう事業をやっている人は、お金を払ってくれるんだから生徒様々、みたいなところも多いんですけれど、やる気がない奴にいくらやらせても無駄だと思っているので。

桝本 これは本当にそうですよ。

岸谷 お前それじゃ無理だよって、留学を止めることもあります。やる気がなくてもめちゃくちゃお金が余っているのならいいけれど、自分はどうしたいのかをしっかり考えてもらって、自分で答えを導き出してもらう方向で話をすることが多いですね。芸人さんの場合はどうですか?

桝本 吉本NSCにはいま、1400人ぐらい生徒がいるんです。

岸谷 そんなにいるんですか!?

桝本 僕は東京校と大阪校の両方をやっていて、最近はコンプラのこととかでタレント育成が難しい時期になっていて、割とソフトな講師が多いんです。だけど、僕はガツンと言うタイプの講師です。蘭丸さんの話を聞いて思ったのは、マンガもゲームもすべて捨てて単身で海外に渡ってやってきた人の言葉は響くだろうな、ということですね。

僕も暗闇のなかで手探りしてきていまがあるので、こいつ本当のことを言ってるな、愛情を持って接してくれるな、というのが通じるから生徒も聞いてくれるのかなと思っています。僕もやさしい講師ではないです。

岸谷 怖ぇ……(笑)。桝本さんがブチ切れるところを想像するとビビります。

桝本 いえいえ、ブチ切れたり殴ったりとかはないですけれど、卒業した後に、「刺さりました」とか言われることが多くて、それはやっぱりうれしいものですね。令和ロマンもね、入ってきたときに、「お前らおもしろいと思っているかもしれないけれど、そのままじゃ駄目だよ」って言って、絶対に僕の授業に来い、みたいな温度感で接しました。

岸谷蘭丸と桝本壮志
桝本壮志/Soushi Masumoto(左)
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。新著『時間と自信を奪う人とは距離を置く』が絶賛発売中! 桝本壮志へのお悩み相談はコチラまで。

岸谷蘭丸/Ranmaru Kishitani(右)
2001年東京都生まれ。中学校進学時に見事に第一志望の早稲田実業学校中等部に合格するも、環境に馴染めず悶々とした日々を送る。高校進学時に一念発起、ニューヨークへ留学し、優秀な学業成績を修める。欧米の大学に複数合格、2022年にイタリアのボッコーニ大学へ入学した。大学に籍を置きながら海外進学や英語資格試験をサポートするMMBHを設立、将来的には都知事を目指すことを公言している。

生徒たちの成功をどう感じているか

──おふたりにうかがいたいんですけれど、生徒をサポートするようなお仕事をなさっていて、それは自分が成功するよりも生徒が伸びるほうがうれしいみたいな感覚ってありますか? サッカー選手で、自分でゴールするよりもアシストするほうがうれしいという人もいますが。

桝本 それはありますね。みなさんはM-1を見て笑っていると思うんですけど、僕は自分の教え子が演っているのを涙を流しながら見ていますから。笑えないんですよ。ただし、それが自分の力だとはまったく思っていませんよ。彼らの力なんですけど、でもやっぱりうれしい。

岸谷 僕の場合は……、全部自分がゴールを決めたいんですよ。アシストしたいみたいな気持ちにならなくて、こう見えて情には厚いタイプなので、留学がうまくいくとうれしいし、感謝の言葉をもらうとやっていてよかったと思うけれど、でも意識としては、教育業界でだれにもできない事業をやってやったぜ! というのが強いんですよ。

桝本 蘭丸さんはそういうマインドだからいいんですよ。いずれ政界にも進出されるとうかがっていて、僕が有権者だったらそういう人に投票したいと思いますから。

やりたいことはどうやったら見つかるのか

岸谷 「挫折」というテーマに立ち返ると、大学なんかで講演するときに一番最初に来るのが、やりたいことをどう決めたんですか、という質問なんです。でも、僕は苦手なものから逃げに逃げていたら、やりたいものがあるような気がしているというだけなんです。

会社だって最初はIT企業として設立していまと関係ない事業で大失敗しているし、自分がメディアに出ることなんてあり得ないと思っていました。これだけ選択肢の多い世の中だと、どっちを選ぶかじゃなくて、どっちが嫌なのかを考えて、嫌な方を切り捨てるっていう戦略のほうが正解だという気がしています。

桝本 逃げて逃げて、最後に本当にやりたい仕事が見つかるっていうの、面白いですね。いま成功を収めている人も、逃げて逃げてたどり着いたという人が結構いるんじゃないかな。

僕の『時間と自信を奪う人とは距離を置く』という本も、自信や時間を奪うやつからは逃げていいよ、っていう本です。ゲーテに登場するような成功を収めた人に、「なにから逃げましたか?」って聞いてまわる連載をやったらおもしろそうな気がします。あと、「逃げる」っていうと弱い言葉に聞こえるけど「逃走劇」とかにするとドラマ感や前のめり感も出てくる。すべては捉えかただと思いますね。

※4回目に続く

TEXT=サトータケシ

PHOTOGRAPH=今 祥雄

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