「カステラに謝りました。『投げてごめんね』って」福地桃子の怒りとの向き合い方

是枝裕和監督作『ラストシーン』などでも注目され、先日行われた第38回東京国際映画祭では映画『恒星の向こう側』で最優秀女優賞を受賞した俳優・福地桃子さん。今回、2025年11月28日に公開される主演作『そこにきみはいて』を通して体得した、仕事との向き合い方を語ってもらった。インタビュー第2回は、怒りの感情との向き合い方について。

“怒る”って別に悪いことだけじゃない。人との関係を深めることだってある

婚約者の突然の自死のあと、その「親友」とともにあてのない旅に出る女性を描く映画『そこにきみはいて』。劇中では「怒り」を表現するシーンが何度もあるのが印象的だ。

主人公・香里を演じた福地桃子さんは、その「怒り」についてこう語る。

「香里って、大切な人のためだったら怒れる人なんです。でも、自分自身に向けられた怒りに対しては、すごく冷静になるところがあって。“怒る”というより、ぶつけられたものと“向き合う”人なんだと思います。受けた言葉を一度持ち帰って、それでも相手と向き合い続ける。その姿がすごく好きでした」

強い言葉をぶつけられながらも、けっして他者との関係をあきらめようとしない香里に、福地さんは演じながら勇気をもらうこともあった。

「人との関係って、感情のぶつかり合いがあるからこそ、深まる瞬間もあると思うんです。香里を通して、“怒る”って別に悪いことだけじゃないんだなって、少し思えるようになりました」

感情が動かない人なんていない。ただ感情の「癖」があるだけ

やわらかな空気を纏っている福地さん、役を離れれば「感情を露わにする」なんてことは無縁のように思えるが、そうでもないと笑う。

「『あまり怒らなそうだね』なんてよく言われますけど、そんなことはないです（笑）。いちど近くにあったカステラを投げたことがありました。怒りって、別に出してはいけないものじゃないと思う。ただし、それをぶつける前に、自分のなかで一度受け止める時間を持ちたい。そういう時間がないと、人に優しくできない気がします」

俳優は、感情を扱う仕事だ。大勢の前で泣き、笑い、怒る。常に感情と向き合い続けるからこそ、自分の感情の「癖」を理解できるようになるのだという。

「自分は怒らない人なのかなと思っていたのですが、ああ、上手くかわしていただけだったんだなとか。そういう自分の癖っていうのは、年齢を重ねながらだんだんわかってきました。そもそも感情が動かない人なんていなくて、その動き方の癖によって、怒りっぽいとか泣きやすいとか、どう表面に出ていくのかが変わっていくんです。

なんだか最近怒りっぽいなと思ったら、そういう癖がついちゃっているのかもしれないと考えてみるとか。癖とは反対のモードを意識してみるといいのではないでしょうか。私の場合は自分の怒りや悲しみをかわして、俯瞰してみる癖があったので、“今はかわさないでみよう”と意識したことがありました。その結果、カステラを投げちゃったのですが。でもそのときは、自分自身の感情をまっすぐ表現できたような気もします」

そう語ったあと、福地さんは一息ついて穏やかに笑った。

「でもね、カステラは悪くないんです。『投げてごめんね』という気持ちでしっかり反省しました」

襲ってくる怒りや悲しみの感情をなんとかコントロールしよう、平気な顔ができるようにしよう、そう試みた人は多くいるだろう。けれど「感情の癖」を理解して、癖とは別の方向に意識的に動いてみる、そんな方法もあるのだということを、感情を扱うプロの俳優が教えてくれた。

インタビュー第3回は、福地さんの日常の哲学を聞く。

福地桃子／Momoko Fukuchi
1997年東京都生まれ。2016年俳優デビュー。NHK連続テレビ小説『なつぞら』で話題となる。近年の出演作に大河ドラマ『鎌倉殿の13人』、『舞妓さんちのまかないさん』、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』、映画『サバカン SABAKAN』、『あの娘は知らない』など。舞台『千と千尋の神隠し』にて主人公・千尋役を務めロンドン公演も成功させた。映画『恒星の向こう側』（中川龍太郎監督）にて、第38回東京国際映画祭コンペティション部門 最優秀女優賞を受賞。

＜衣装クレジット＞
トップス￥44,000、スカート￥57,200（ともにマメ クロゴウチ／マメ クロゴウチ オンラインストア　www.mamekurogouchi.com）　靴￥137,500（ジェイエムウエストン／ジェイエムウエストン 青山店 TEL：03-5485-0306）　ピアス￥29,040、リング￥20,900（ともにSAMAC TEL：03-6434-1128）