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2025.04.12

J1町田躍進の裏側。30歳の若きCOOが主導する、他チームと一線を画す取り組み【後編】

2020年にサイバーエージェントから出向し、2022年末よりCOOを務めている上田武蔵氏。弱冠30歳の若きリーダーは、ゼルビアに新しい風を吹き込み、観客動員数や売上増など、着実に結果を残している。その成功の秘訣と、今後の目標について話を聞く。「FC町田ゼルビアの飛躍を支える、裏方仕事術」第2回、代表取締役COO上田武蔵氏・後編。

FC町田ゼルビアCOO上田武蔵インタビュー。

「ゼルビアを通じて、町田を世界から人が訪れる街に」

2024年シーズン、J2からJ1に昇格し、優勝争いを繰り広げたFC町田ゼルビア。チームの躍進と比例するように、ホームでの試合観客動員数もファンクラブ会員数も順調に上昇している。その裏には、上田氏が主導する、他のチームとは一線を画す取り組みがあった。

―――企業としての大きな使命は、観客動員数を上げ、売上を伸ばすことだと思います。それには、サポーターを増やすこと、そして、彼らにスタジアムに足を運んでもらうことが必須です。そのために、国立競技場での試合開催、ホームスタジアムでのユニークなイベントのほかに、力を入れていることを教えてください。

上田 親会社がサイバーエージェントという強みを活かし、インターネットサービスを駆使した取り組みを展開しています。その代表格が、ABEMAで配信していただいている「FC町田ゼルビアをつくろう~ゼルつく~」というサポーターや視聴者参加型の応援番組や、「ZELVIA 異端の新参者」というリアリティーショー番組です。

サッカーの試合は週末に1回。プロ野球やバスケットに比べ、試合数が少ないので、平日の試合がない時に楽しんでいただけるデジタルコンテンツを展開するのは、非常に大切だと思っています。地方在住で、ホームゲームになかなか足を運んでいただけないサポーターの方もたくさんいらっしゃいますしね。

コンテンツ制作は、ABEMAの担当チームの皆さんが主体となり、当社の広報スタッフが撮影協力するという形をとっていますが、テーマとしてこだわっているのは、チームの“裏側”を見せること。サポーターの皆さんがふだん目にしないような、選手の意外な一面やロッカールームの裏側、黒田剛監督のオフに密着するなど、試合とは関係ないチームの魅力を発信するのが、切り口のひとつになっています。

反響は予想以上ですね。ドキュメンタリーだと、ゼルビアを応援してくださっている人だけでなく、サッカーが好きな人やスポーツビジネスに関心がある人なども興味を持ってくれるようです。これがきっかけになって、Jリーグの試合を観に来てくださる方もいらっしゃるんですよ。ただ、視聴者数に関しては、もっと増やしていかなければと思っています。

―――1ヵ月に1回、サポーターとの交流会も開催されていらっしゃいますね。これは、上田さんの発案だとか。

上田 ええ。ゼルビアのクラブ全体の方針はもちろん僕らが責任を持って決定しますが、その時に、応援してくださるサポーターの気持ちを置いていってしまっては、絶対にうまくいかないと思っていて。僕自身も、みなさんがどういう想いでチームを応援してくれていて、何がきっかけで好きになってくれたのか、改善してほしい点は何かなど、知りたいと思っていました。

それで、地元の協賛していただいているお店などに15~20人くらいの方に集まっていただき、フランクな雰囲気で、チームへの要望などを伺っています。現状、ファンクラブの方限定で応募いただき、抽選で参加者を決定していますが、ファミリー層にシングル、年代など、参加者によって違う意見が聞けるので、毎回得るものは大きいですね。

FC町田ゼルビアは、もともと地域に根差した街クラブだったため、地元の方々からの認知度は以前から高かったんですが、サポーターになってくれるかどうかは、また別問題でした。けれど、チームが強くなるのと比例するように、応援してくださる人が増えてきたんですよ。実際、スタジアムの観客動員数は、2022年から2023年、2023年から2024年と、毎年倍くらい増加しています。この街のシンボルとして町田ゼルビアを応援しようという機運が高まっていると、ものすごく実感しています。

上田武蔵/Musashi Ueda
1994年東京都生まれ。2017年京都大学工学部卒業後、サイバーエージェントに入社。メディア事業本部に配属され、入社3年目には新規事業の営業責任者に就任。2020年ゼルビアに出向し、社長室長、経営管理部長などを経て、2022年12月より現職。幼少期にサッカーを始め、大学では体育会サッカー部に所属。

黒田剛監督のブレない哲学との融合

―――動員数が前年から倍増した2023年は、黒田剛監督が就任した年ですね。黒田監督の手腕が早々に花開いたという印象ですが、監督のすごさは、どんなところに感じますか?

上田 いろいろありますが、一番はブレない哲学、信念を持っているところです。強いチーム、負けないチームをつくることを目標に、そこから逆算をして、綿密に計画を立て、実践されています。それで、1年目から結果を出しているのですから、本当にすばらしい。経験値が高く、いろいろな引き出しを持っていて、信念がブレない。黒田監督の姿勢は非常に勉強になりますし、見習いたいと思っています。

―――FC町田ゼルビアのスローガンは、「町田から世界へ」。それも、現実味を帯びてきたのではないでしょうか。

上田 このスローガンは、チームがクラブワールドカップなどに出場して知名度が上がるとか、世界に羽ばたく選手が出るというだけでなく、町田を、世界から注目されるような街にという想いも込められているんです。FC町田ゼルビアというチームが世界的に知られるようになれば、日本を訪れた時に、町田に観戦はもちろん観光に寄ってくれる外国人が増えるのではないか。

ビッグクラブがあることで、その街の魅力が増している。そういう事例は、ヨーロッパには多数あります。いつの日か町田が、バルセロナやマンチェスターのように、サッカーをきっかけに、海外から多くの人が訪れる地域になればと、思っています。

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言うことは壮大に、やることは愚直に

―――最後に上田さんが仕事で指針にしていること、そして、仕事にしたいとまで思わされるサッカーの魅力について教えてください。

上田 就職してからずっと変わっていないのですが、「言うことは壮大に、やることは愚直に」がモットーですね。サイバーエージェントでは普及している言葉なんですが、大きなことを宣言し、単なるビッグマウスで終わらせるのではなく、やるべきことはしっかりと、愚直に取り組み続ける。それを、毎年体現することを心がけています。

世界に対するアプローチもいろいろな話を進めているところですが、去年は、フランスの1部リーグ(リーグ・アン)に所属している名門クラブチーム、オリンピック・リヨンとアカデミー分野で提携しました。こうした接点をつくることで、トップチームやアカデミーが海外に出る機会が増えますし、増やしたいと考えています。と同時に、ヨーロッパのチームが、FC町田ゼルビアを通じてJリーグにもっと注目してくれればという想いもあります。物理的な距離は遠くても、ビジネスとしてはクラブ間の距離が縮まればと。

サッカーの魅力については……、うーん、難しいですね(笑)。ひとつは、自由度の高さでしょうか。たとえば野球は、ピッチャーは必ずボールを投げなければいけません。でも、サッカーは、ドリブルもあればパスもあるし、シュートを選択することもできます。より多くのゴールを決めて勝つという最終目的はあっても、それ以外はどんなプレーをしてもいい。メジャーなスポーツの中で、これほど自由なものはそうはないと思います。だからクラブごとの戦術の色が出たり、選手の特徴が出たり、時代によってトレンドが変わったりと、生き物のようにどんどん変化する。それが、非常におもしろいと感じています。

もうひとつは、自由度が高いがゆえに、全世界で下克上が起きる可能性があるということ。普通に考えれば、資金力があって、選手の補強やトレーニング環境を整えられる国が有利なはずですが、アフリカや南米には、経済的には弱いのにサッカーはやたら強い国がある。ヨーロッパにしても、オランダは人口1800万人程度しかいない国なのに、サッカーでは強豪国ですしね。

そうした下克上やサッカードリームみたいなものがあるのも、サッカーというグローバルスポーツの魅力ですし、世界中の人がサッカーというスポーツに熱狂する理由なのかなと思っています。2026年はワールドカップが開催されますが、日本は、いいところまで行くんじゃないかと、個人的に期待しているんですよ(笑)。また、ゼルビアの選手が一人でも多く、本体化のメンバーに選出されることを、心から願っています。

FC町田ゼルビアは、今シーズン5位以上と、何かひとつタイトルを獲得することを、黒田監督が目標に掲げています。ピッチで闘うチームだけでなく、僕ら社内スタッフも、ファンサービス含め、J1のトップレベルを目指そうと話し合っています。スタジアムの収容人数の問題は今すぐ解決できるものではありませんが、グッズのユニークさやYouTubeのコンテンツのおもしろさなど、僕らの努力次第でできることはたくさんあるので、まずはそのクオリティをより向上させようと。それが体現できれば、自ずと集客目標も収益目標もついてくるのではないかと思っています。

前編はコチラ

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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