「身なりは人を表す」というように、辣腕の経営者が愛用する靴や鞄は、持ち主の人生哲学や思想を如実に表しているものだ。今回は、モルトンブラウンジャパン 取締役社長・小島正也氏のアイテムから垣間見える仕事哲学を、いざ拝見! 【特集 靴と鞄】

モルトンブラウンジャパン 取締役社長。1974年埼玉県生まれ。1996年カネボウ化粧品入社、営業、商品企画を務めたのち、2006年からフランス駐在、2009年から2012年までスイス駐在として現地マーケティングを担当。2021年カネボウと同じく花王傘下であるモルトンブラウンジャパン取締役に就任。2024年11月からは「ヴァルカナイズ・ロンドン青山」のストアにて、スペースを拡大して展開。
長く履き携え、幾度の商談を勝ち抜いた幸運のパートナー
「イギリス王室のために作られ、ビートルズのメンバーも履いたサイドゴアブーツは、イギリスを代表する靴であり、私の長年の憧れでした」
英国ブランドを取り揃えたストア「ヴァルカナイズ・ロンドン 青山」の一角で微笑むのは、英国のフレグランスメーカー、モルトンブラウンジャパンの小島正也社長。足元にはチャーチのサイドゴアブーツ、そのコードバンが艶々と輝いている。
「高校時代にイギリスに短期留学し、いつかはイギリスにまつわる仕事がしたいと、英国拠点のある企業を選んだんです」
カネボウ化粧品で営業を務めた小島氏は、2006年から同社のマーケティング担当として欧州駐在に。しかし行き先はイギリスではなくパリだった。
「このチャーチを購入したのもイギリスではなくパリ。仕事がうまくいき始め、いよいよ憧れのサイドゴアブーツを買おうと店舗に行き、ひと目惚れしました。そこから17年、大切な商談の日にはこのブーツを必ず履いていきました」

2021年に念願がかない英国ブランド、モルトンブラウンの日本支社社長に就任。日本で根付かせたいと、軽井沢のショッピングプラザやホテルなど自ら飛びこみ営業を行い、販路を拡大している。その商談の際に履いていたのもこのブーツだった。
初心を忘れずイギリスらしさを伝えたい
ブーツと同じ頃、同じくパリで購入したのはジバンシィの鞄。こちらもひと目惚れだった。
「一期一会、海外ではピンときたものがあれば迷わず買うことにしています。これはビジネスに使える鞄ですが、ラフな印象もあるところがいい。チャーチのブーツにも合うので今でもセットで使っていますよ」

カネボウの営業から、欧州でマーケティングを経て、モルトンブラウンジャパンのトップに就いた小島氏は、まさしく現場からの叩き上げだ。
「社長に就任した際は、やることがいっぱいあるぞ、と気合が入りましたね」
それまで1店舗だった直営店を4店舗に増やし、自社のeコマースも開拓。本国が見ていたアジア事業も、文化的に近いジャパンが管理すると名乗りでて各国で売り上げを伸ばした。
「香りは言葉で伝えづらいので店頭カウンセリングが重要。技術を持った販売員がアジアで研修を行っています。いくらeコマースに力を入れようとも、モノを届けるのは最後は人ですから」
こうして小島氏が社長就任後4年で売り上げは約4倍にまでなった。
「最初は各国各地でローカライズをと考えていましたが、お客さんは当初の私と同じ、イギリスらしさを求めているのでは、と。私もイギリスに憧れた初心を思いだして、忠実に良さを伝えることを意識しています」
イギリスの小さな美容室がハーブを調合してフレグランスを作ったことから始まったモルトンブラウン。穏やかで気品ある香りを届けるべくお気に入りの靴と鞄で小島氏は奔走する。
この記事はGOETHE 2025年3月号「総力特集:自分らしくいる、靴と鞄」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら