数多ある音楽、本、映画、漫画。選ぶのが難しいからこそ、カルチャーの目利きに最上級の1作品を厳選して語ってもらった。今回紹介するのは、演出家/タレントの鈴井貴之。【特集 最上級主義2024】
「30年経っても色褪せない人生訓を啓示した傑作」
「物語の結末は最後の最後まで観なければ分からない、ということを痛感させられた秀作サスペンス映画。観客は、映しだされる事件やエピソードを事実と信じこませられ、最後の最後で大きく裏切られる。それが実に見事で、僕自身も観終わったあとに、驚きとともに爽快感に包まれたのを覚えています。
緻密に重ねられていく嘘に、“正直者はバカを見る”という構造を痛感させられます。物事には表裏があり、裏にはさらに裏がある。人間というものの複雑さを突きつけられたようで、人の話を簡単には信用すべきではない、嘘も見事であれば讃えられるものだとも感じました。
最も印象的だったのは、ラスト直前の種明かしのシーン。取り調べが行われていた部屋に掲示された張り紙や写真、そしてコーヒーカップまでが、すべてのエピソード(=嘘)を構築するものであったと気づかされ、そこで今までの話がすべて“作り話”であったと気づく瞬間。もう30年近く前の作品ですが、複雑化、多様化していく社会のなかでの人間関係は、一筋縄ではいかないと思ったものです。
そもそも僕は人の話を鵜呑みにはしないタイプでしたが、その重要性をより深く感じた映画です。この作品を観たらオレオレ詐欺やフィッシング詐欺には遭うことはないと思いますが、相手に対してはやや懐疑的になってしまうかも。人間関係にヒビが入らぬよう、注意が必要な作品です」
この記事はGOETHE 2024年2月号「総力特集:最上級主義 2024」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら