数多ある音楽、本、映画、漫画。選ぶのが難しいからこそ、カルチャーの目利きに最上級の1作品を厳選して語ってもらった。今回紹介するのは、俳優/作家の松井玲奈。【特集 最上級主義2024】
「まるで蝋燭の火が消えるような儚い別れに心を揺さぶられた」
「この小説を映像化したい。自分が出演したい。ひとりでも多くの人に届けたい。そう願った唯一の作品が、島本理生さんの小説『よだかの片想い』です。この本と出合ったのは文庫化された2015年。渋谷のヴィレッジヴァンガードでした。小説なのに天体本のコーナーに置かれていて、なぜ? と手に取ったのが最初。生まれつき頬に痣のある主人公、アイコの初恋が丁寧にリアルに描かれ、ぐんぐん引きこまれました。
私は高校時代に芸能界に入って忙しいまま大人になったので、この作品が生まれて初めて読んだ大人の恋愛小説です。一番好きな小説の一番思い入れの強いキャラクターの素敵な姿を映画で観たいと感じ、親しいプロデューサーさんに映像化を強く訴えました。
とくに印象的なのは、アイコが大学のシャワー室に閉じこめられて恋人の飛坂に会いに行けないシーン。あの情熱を映像で自分も観たかった。島本さんは男女の別れを過度にドラマティックにせず、まるで蠟燭(ろうそく)の火が消えるように儚く描いています。それがとても美しくて、心を揺さぶられました。たとえフィクションであっても、装飾せずにありのままでもいいんだ、と知りました。
2019年、私自身が小説『カモフラージュ』でデビューしたのですが、担当編集の方によると、私の文章には島本さんの作品を好きなことが表れているそうです。執筆をするなかで影響を受けているのかもしれません」
島本理生『よだかの片想い』
この記事はGOETHE 2024年2月号「総力特集:最上級主義 2024」に掲載。▶︎▶︎購入はこちら ▶︎▶︎特集のみ購入(¥499)はこちら