20周年を迎えたアメカジの名店「スタンダード カリフォルニア(STANDARD CALIFORNIA)」。オーナーの阿久戸秀高さんに、変わらぬ支持を受け続ける理由と、ご自身の人生観やビジネス哲学についてお聞きした。
トレンドはちょっとだけ
移り変わりの激しいファッション業界で、20年にわたって安定した支持を獲得し続けるスタンダード カリフォルニア。開店当初の客は40代、50代になった今も店に通い続け、同時に若いファンも増えている。スタンダード カリフォルニアが愛され続ける理由はどこにあるのか? オーナーの阿久戸秀高さんは言う。
「カリフォルニアのカルチャーを追求しつつ、流行に流されない定番のアイテムを提供する。その軸がぶれないことが支持される理由でしょうね。もちろん、トレンドは意識しています。オーバーサイズや太めのパンツが流行れば、少しだけ身幅を広げる。細みのパンツが流行したら、テーパードをかけて足首をちょっと絞るくらいのことはやります。でも、ほんのちょっとだけ。基本的にスタンダード カリフォルニアは、ベーシックアイテムの店なんです」
開業から20年の間には、ビジネス的にうまみのある話もあった。「新しくできるショッピングセンターに2号店を出さないか」「こういう商品をプロデュースしてくれたらこのくらいの売り上げが見込める」など。だが、阿久戸さんはそうした誘いをすべて断った。
「会社を大きくしたいとか、資産を増やしたいっていう思いはほとんどないんです。ただ、コツコツと自分が考えるアメカジをやっていきたい。僕の思いはそれだけだし、だから56歳になった今も店に立ち続けているんです。
それに、出店の誘いをいただいても、もう一店出せる自信がなかった。今のスタンダード カリフォルニアとまったく同じクオリティで店を作ることができるなら考えたかもしれませんが、スタッフの数にそこまで余裕がなくて。新しい店用にスタッフを募集してもダメだと思いますし、スタンダード カリフォルニアの理念や雰囲気など、“スタカリらしさ”を理解してくれていないと」
スタッフはこう育てる
その言葉通り、スタンダード カリフォルニアのスタッフは、実に“スタカリ”らしい。ただ単にスタカリの服を着ているからということではなく、「スタカリが好きでたまらない」という空気感をまとっている。
「スタッフは元々お客さんだった人が多いんですよ。だから、愛着があるんでしょうね。最年長のスタッフは開業時から20年働いていますし、20代のスタッフもSNSでライブ配信をやったりしながら、スタカリライフを楽しんでいる。みんな明るいし、それが店の持ち味になっていると感じます」
ファッション業界はスタッフの出入りも激しい。長く働いてくれる人材を集めるのに苦労している店も多いと聞く。
「なんかね、みんな長く働いてくれるんですよ。僕が彼らに言っているのは、『商品は売れなくてもいい。お客さんに“また来たい”と思わせる接客をしてください』ということだけ。スタッフの売り上げの目標など決めないし、当然ノルマなんかもありません。スタンダード カリフォルニアのことを好きでいてくれれば、それで十分です」
ドラマ『HERO』の思い出
開業からの20年間、「売り上げに大きな波はほとんどない」と阿久戸さん。創業時より売り上げは少しずつ増えてはいるが、「今でも小さな店ですよ」と笑う。
「売り上げが急にぐーんと伸びるのは、ドラマや映画で商品が使われた時くらい。ドラマ『HERO』の時はすごかったですね。オープニングの映像で、毎回うちのTシャツが映りましたから。スタカリのお客さんじゃない方も、店にいらっしゃっていただいて。でも、そうしたブームは一過性のもので、すぐに落ち着きます。『HERO』の時も、うちから『Tシャツを使ってくれ』とお願いしたわけじゃないし、冷静に見ていました。ただ、役者の方やスタイリストが商品を気に入って使ってくれるのはうれしいことです」
好きなことを継続する
スタンダード カリフォルニアとともに歩んだ阿久戸さんの20年。基本的な考え方や人生哲学、趣味や趣向、1日の過ごし方もほとんど変わらない。
「Levi's501の古着を穿いて、ヘインズのTシャツを着る。酒とたばこは一切やらずに、高級料理もほとんど食べない。気が付くと、毎日、ファストフードばかり食べていますね(笑)。それでスタンダード カリフォルニアの店頭に立ち、客やスタッフと話して1日が過ぎていく。そういう不変の毎日にありがたさを感じます。
ただ、歳を取ったなとは思いますね。まだまだ今の生活を継続させていきたいですが、ゆくゆくは景色のいい自然豊かな場所でのんびり暮らしたい。山梨県の八ヶ岳の麓とか。その実現のためにも、若いスタッフにもうしばらく自分の働く姿を見せていたいです。僕の姿から何かを感じ取ってもらえれば」
スタンダード カリフォルニアのスタッフをはじめ、日本の若い世代に伝えたいことはあるか。
「とにかく好きなことを追求してほしいですね。僕は大学時代にアウトドアショップで4年間アルバイトしていましたが、時給はわずか500円。80年代でもものすごい安さでした(笑)。でも、その経験が僕の人生の入口になったし、さまざまな知識や経験を得ることができたのかと。あのアウトドアショップがなければ、今の僕はなかったと思います。
今の時代に好きなことを追求するのは難しいかもしれません。不況が長引き、明るい未来も描きにくい。将来安定した生活を送るために、好きなことを封印してしまうのもわかります。でも、なんとかなる。物事を突き詰めていくには、やっぱり好きであることが欠かせないと思うんですよ。僕はもう50代ですが、今でもそう考えて必死に生きています」
問い合わせ
スタンダード カリフォルニア TEL:03-3770-5733