2023年12月で35歳を迎えるベテラン。プロ11年目にして、キャリアハイの数字で首位打者に輝いたDeNA宮崎敏郎がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは
6年ぶり2度目の首位打者に輝く
2023年も多くの新星が登場したプロ野球。
一方でベテランと言われる年齢になりながらも、まだまだ輝きを見せている選手は確実に存在している。
セ・リーグの野手でその筆頭とも言える活躍を見せたのが宮崎敏郎(DeNA)だ。プロ11年目となる今シーズンも春先からヒットを量産し、5月下旬まで4割を超える打率をマーク。
夏場以降はコンディションを落としてスタメンを外れる試合もあったが、それでも最後まで打線を牽引し、6年ぶり2度目となる首位打者を獲得して見せたのだ。
ちなみに打率.326は宮崎自身にとってキャリアハイの数字であり、両リーグで次に高いのがパ・リーグ首位打者の頓宮裕真(オリックス)の.307ということを考えても、宮崎の打撃技術がいかに突出していたかがよくわかるだろう。
高校時代はまったくの無名
そんな宮崎だが高校まではまったく無名の存在であり、大学でも地方リーグである日本文理大(九州地区大学野球連盟)でプレーしている。
以前、宮崎がプレーしていた小学校時代のチーム監督(当時)に話を聞いたことがあるが、チームに入団したのは5年生の時と遅く、プレーに光るものはあったものの、とても将来プロ野球選手になるとは思わなかったとのことだった。
初めて宮崎のプレーを見たのは日本文理大2年で出場した全日本大学野球選手権の対神奈川大戦である。
この試合で宮崎は7番、サードとして出場し、ツーベースを含む2安打を放っているが、当時のノートには宮崎のプレーぶりに関するメモはまったく残っていない。
ちなみに同じ2年生では後に社会人でもチームメイトとなる澤良木喬之(さわらぎたかゆき・元セガサミー)が当時から4番を打っており、注目の打者だった。
翌年の大学選手権の龍谷大戦も現地で見ており、宮崎は5番に打順を上げていたが、この試合でもメモは残っていなかった。
大学卒業時点で社会人のチームにことごとく入社を断られたというのも有名な話だが、少なくとも大学時代にドラフト候補として見ていた関係者はいなかっただろう。
派手さはなくてもコンスタントに結果を残す
調べてみると、セガサミーに進んだ社会人1年目にも宮崎のプレーを2試合見ているが、その時も記録にも記憶にも残っていない。
ようやく注目し始めたのは、社会人2年目の4月に行われた東京六大学・社会人交流戦の対慶應義塾大戦だった。
第1打席でサードへの強烈なライナーを放つと、第4打席には注目の右腕だった山形晃平(当時3年・元日本生命)からライト前へ運ぶヒットを記録。
左方向にも右方向にもしっかりヘッドを利かせて弾き返すバッティングに目が留まったことを今でも記憶している。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。
「グリップの位置が低く、ヘッドを揺らしながらタイミングをとる独特のスタイル。無駄な動きは気になるものの、ボールを呼び込むのが上手く、リストの強さと柔らかさがある。引っ張るだけではなく、右方向へも鋭い当たり。セカンドの守備は平凡だが、バッティングについては社会人でも目立つレベル」
このように、社会人時代の宮崎はセカンドを守ることも多かった。
守備は特筆するようなものはなかったが、右打者でパンチ力があり、セカンドも守れるのであれば面白いのではないかと思ったのが気にかけた理由としてもあったように記憶している。
ただこの後も宮崎のプレーを見る機会はあったが、そこまで注目していたわけではなく、“少し気になる打者”という程度のものだった。
実際、ドラフトでの順位も6位と、支配下での指名ではチーム最下位であることが評価を物語っている。後で聞いた話だが、ほとんどの球団は指名対象として宮崎を見ていなかったとのことだった。
それでも指名されたのには何か理由があるはずだが、今回過去のノートを調べていて気付いたことがある。それは宮崎がまったく仕事をしなかった試合がなかったということだ。
大学、社会人で合計7試合の記録があったが、そのうち6試合でヒットを放っており、ノーヒットに終わった1試合でも犠牲フライで打点を稼いでいるのだ。
見た試合の相手はいずれもレベルの高いチームばかりであり、そのなかで派手さはなくてもコンスタントに結果を残してきたというのはやはり技術がなければできないことである。
DeNAが評価したのもそのあたりだったのではないだろうか。
初めて規定打席に到達して首位打者を獲得した2017年以降、規定打席に到達しての打率3割以上は5回とその安定感は特筆すべきものである。
2023年12月で35歳と完全にベテランと呼ばれる年齢となっているが、来年以降もその高い打撃技術で多くのファンを沸かせてくれることを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。