串カツ田中ホールディングス代表取締役社長CEO・坂本壽男と、Mizkan代表取締役社長 兼 CEO・吉永智征。お互い“食”に通ずる経営者同士のふたりのエピソードを紹介。【連載 相師相愛】
ウマの合う食の経営者
坂本 知人に誘われて行った飲み会でご一緒させていただいて。
吉永 実は僕が興味を持っていて、誘ってもらったんです。CFO上がりの若いカッコいい社長に会ってみたくて。僕とはまったく畑違いですから。
坂本 歴史もある超大企業のトップなので、どんな人が来るのかと思っていたら、気さくな方でびっくりしました。
吉永 坂本さんのような金融出身の経営者だと、事業そのものには関心がない人もいるんです。でも、坂本さんは意外にも食に興味があって、急にソースの話が出てきたりして、叩き上げみたいなことを言う人だなと。
坂本 そこから新しい串カツ用ソース「串ポン」の開発につながったんですよね。さっぱり味の新ソース。ちょうど、ソースがもうひとつあってもいいなと思っていたところだったんです。
吉永 ずっと同じ味のソースではなく、さっぱりした味があったら、もう1本食べたくなると思ったんです。売り上げ増になりますよ、という提案でした。
坂本 私はミツカンさんがソースも作っていることを知らなくて。いいお話をいただきました。
吉永 お店によく行きますから、僕が食べたかったんです(笑)。大阪支店の近くにあって、社員と飲みに行くとなると、いつも指定されるんです。僕のホテルに近い店とかではなく、支店に近い「串カツ田中」を。
坂本 ありがとうございます。でも、大衆店こそが実は学びになる、ということですよね。
吉永 やっぱり坂本さんは自分の事業に興味があるんですね。学ぼうという情熱がある。こういうところがいいんです。正直なところ、今はミツカンの事業としては大きくない。でも、坂本社長の会社なら、と将来性を大いに買っているんです。
坂本 まだ300店くらいしかない会社なのに、「串ポン」の開発では、8種類のソースをご用意いただいて。聞けば、30種類、300本以上もの串カツを合わせて食べられたとのことで、ありがたい限りでした。おかげさまで、今や消費量は既存のソース4に対して、「串ポン」が1まで来ています。
吉永 新しい味ができて、しかもミツカンが手伝わせていただいたということで、社員も喜んでいるみたいです。「そのきっかけをつくったのはオレだぜ」とか言うと、ウザい社長になるので黙ってますけど(笑)。
坂本 そういう自然体なところも含めて、経営者としてどんなスタンスでいるべきか、いつも学ばせてもらってます。
吉永 それにしてもほんと、常にまじめですよね。いい意味でエリート感がまったく崩れない。シュッとして、ちゃんとしてる。僕もこんなふうになりたいですけど、無理ですね。
坂本 いえ、大企業のトップながら、ここまでフランクでいらっしゃるというのは、私にとっては本当に大きな学びです。学びといえば、「串ポン」の記者発表のとき、会場になったお店の隅っこで調味料の青唐醤油の味見をされていましたよね。さすが、調味料メーカーのトップだな、と感じたんです。
吉永 いや、僕はなんでも舐めちゃうクセがあるんです(笑)。
坂本 部下を前にしても、自然体は変わらない。社長はいつでもやめるよ、なんてことを普通におっしゃいますし。次の社長を育てるという意図もおありなのかと。
吉永 いえいえ。僕がやりたいのは、やっぱり商品開発なんです。お客さまに直接、喜んでもらえる商品を作ること。でも、このポジションでは、それはできないですから。
坂本 でも、こうやって自然体でいらっしゃるのは、本当に実力があるがゆえ、だと思うんです。私も家でいただいていますが、納豆事業を大きくされた立役者ですよね。
吉永 在庫型の事業と非在庫型の事業は違うんですよ。だから、構造を変えたんです。こんな話もしたかな。僕は飲んだら飲まれるほうなので、どこまで話したか覚えてない。
坂本 あ、私もそうなんですが(笑)。次は12月に食事会の約束をいただいています。今から楽しみです。
■連載「相師相愛」とは……
師匠か、恩師か、目をかける若手か、はたまた一生のライバルか。相思相愛ならぬ、相“師”相愛ともいえるふたりの姿を紹介する。