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2023.10.29

“老いることは素晴らしい”新宿二丁目「クイン」を閉店して、今りっちゃんが思うこと

2023年9月30日、これまでテレビや雑誌などで多く取り上げられた、新宿二丁目のアイコン的存在である深夜食堂「クイン」が閉店した。オープンから53年間、名物ママを続けてきたりっちゃんに、独占取材。4回にわたってクインの歴史を紹介する最終回。【1回目はコチラ

加地律子/Ritsuko Kaji
1945年福岡県生まれ。1963年に上京した後、5つ年上の姉が営む神田の喫茶店で働き始める。23歳の時、喫茶店の常連客であった、加地孝道さんと結婚。夫婦で新宿二丁目の深夜食堂「クイン」を営みながら、ふたりの子供を育て上げた。

老いてみてわかることがある

2023年9月30日、新宿二丁目で長く愛され続けた深夜食堂「クイン」が突如閉店した。二丁目を訪れる一般客だけでなく、営業明けのゲイバーの人々が朝食を食べる場としても親しまれてきたこの場所。

低価格で美味しい料理が食べられるとあって、平日も多くのお客で賑わっていたが、長年お店を続けてきた夫婦の健康状態が、閉店の大きな理由だったという。

「足が坐骨神経痛になっちゃってさ。普通に歩くだけでも辛くて。健康だったら言うことないんだよ。でも、歩くたびに激痛が走るの。これはやったことがない人にはわからないね」

そう語りながらも、大きな声を出しながら注文された料理をテーブルに運ぶりっちゃん。足の痛みに耐えながらお店を切り盛りする、そんな生活の中で、“老い”に対して考え方の変化が生まれたそう。

「老いるってことは、素晴らしいことで。オレが50歳くらいまでの時は、ババアがゆっくり歩いていると、なんで年寄りはこんなにゆったりと歩くんだろうって思ったもんよ。『この忙しい時に、よたよた歩きやがって、オレは忙しいんだ!』ってさ。

でも、その人たちはゆったり歩きたいんじゃないの。ゆったりしか歩けないの(笑)。今、お店まで徒歩5分くらいのところに住んでいるんだけど、オレが歩いたら30分以上かかるからね。老いてみなきゃわかんないことがあるんだよ」

取材当日もキッチンから出される料理をテーブルに運ぶりっちゃん。

しかし、りっちゃんのパワフルな営業スタイルは今も健在だ。意気揚々とお客と話し、大好きなビールを飲みながら働く姿からは、足の痛みを感じさせない溌剌(はつらつ)とした勢いが伝わってくる。

そんなりっちゃんに、クインを閉店してからやりたいことを聞いてみた。

「もうやりたいこともないんだよ。男遊びもしたし、博打もやったし、商売だって思うようにやってきた。でも、スナックの経験が1回もないんだよね。30年くらい前に、夫に『クインはあんたにあげるから、私はスナックをやりたい』って言ったことがあったんだよ。そしたら怒られちゃった。

『子供がいるババアが何を言ってるんだ』って。確かに、その頃は今より若かったよ。でも、定食屋で酒を飲むなら、スナックで酒を飲んだ方が面白いじゃん。だから、夫に『今より儲かるぞ』って言ったら、『儲けるだけが、商売じゃないだろ』ってさ」

クイン閉店後、何をするかはまだ“未定”だという。

クインの入り口に貼られていた「閉店のお知らせ」。

大事なのは“らしさ”

インタビューも終わりかけた頃、最後の質問として、りっちゃんに“いい女であり続けるコツ”を聞いてみた。すると、りっちゃんらしい“ママ”としての答えが返ってきた。

「いい女であるコツは、ないんじゃないかな。簡単にいうと、役者さんは舞台に上がるまでは楽屋でくつろいで、出る寸前に役を作ってから舞台に上がるじゃない。オレだってそうだよ。クインって店に入った瞬間に、クインのママを演じなきゃいけない。

要は“らしく”できるかどうか。学校の時は、PTAの会長らしく。子供の前では、母親らしく。でも、その実態はないんだよ。実態がないからこそ、その時に応じて、どの引き出しから役を出して演じるか。それをできるかが、人間として大事なんじゃないかな」

クインのママであり、家庭を支えてきた妻であり、子供たちを育ててきた母親であるりっちゃん。そんなりっちゃんだからこそ、クインは多くの人に愛されてきた。

いつも通りビールを片手にお客に接するりっちゃんの姿からは、二丁目で53年の間お店を守り続けた力強さを感じられた。

クインの名物であるベーコンと卵を炒めた料理「カイブツ」。
日替わりの定食は、若い人にお腹いっぱい食べて欲しいという思いで、オープン当初から500円という価格を維持し続けてきた。
ベレー帽やアクセサリーなど、りっちゃんはどんな時もおしゃれを欠かさない。

TEXT=坂本遼佑

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

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