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2023.09.18

小澤征爾・野茂英雄・山中伸弥、安藤忠雄が考えるパイオニアの思考法【まとめ】

建築家の安藤忠雄氏と、各界のパイオニアである小澤征爾氏、野茂英雄氏、山中伸弥氏の対談をまとめてお届け! ※2015年6月掲載記事を再編

安藤忠雄が考えるパイオニアの思考法【まとめ】

1. 安藤忠雄が小澤征爾と会って考えたパイオニアの思考法

安藤小澤

80歳の誕生日を迎える夏に開催されるイベント「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」へ向けて過密スケジュールを戦う世界的指揮者、小澤征爾さん。5年前にがんの手術を受けたとは思えないほどエネルギッシュだ。その活力ある姿に、同じがんから復活した安藤さんも強烈に刺激される。

安藤忠雄(以下・安藤) 小澤さんの著書『ボクの音楽武者修行』、私はくり返し読んでいます。

小澤征爾(以下・小澤) ほう! ありがとうございます。

安藤 読むと、すごく元気になるんですよ。感激し共感した行に線を引いています。好きな本はいつもそうするんですが、次に読む時は新しい1冊を買って、また新しく線を引く。すると、以前とは違う行に線を引いているんです。自分の年齢や、その時の気持ちしだいで興味を覚える箇所が違います。小澤さんの青春期も、それだけ魅力的で奥深い内容でした。最初の渡欧は1950年代ですよね?

小澤 59年です。

安藤 あの時代に武者修行に出るとは、まさにパイオニアです。

小澤 海路でね。神戸港から出国して、フィリピン、シンガポール、インド、スーダン、イタリアをまわりマルセイユからパリへ入りました。

安藤 私も若い時期に別のルートでヨーロッパへ行きました。

小澤 そうでしたか! どんな経路で?

安藤 横浜港から船で旧ソビエト連邦ナホトカに行き、陸路、シベリア鉄道でフィンランドに入り、ヨーロッパを巡りました。その後マルセイユからケープタウンに渡り、ムンバイからフィリピンを経て、帰国しました。

小澤 それはいつ頃ですか?

安藤 小澤さんの6年後。65年です。小澤さんはスクーターを持っていかれたんですね。

小澤 そう。スクーターとギター。富士重工のお世話でラビットジュニア125ccにまたがってヨーロッパをね。

安藤 すごい発想です。

小澤 私のラビットは、名前の通り、まさしくうさぎでね。時速60キロくらいしか出ません。ところが、ヨーロッパには当時すでに、イタリアのランブレッタとかべスパとか、150キロくらい出るスクーターが走っていました。だから、どんどん追い越されていくの。抜きざまに彼らは「お前変な乗り物に乗ってるな」という目で振り返る。楽しかったですよ。

安藤 できるだけ若い時期に、自分の目で海外を見ておくことは大切ですね。

小澤 ものすごく大切。日本製の地球儀を眺めると、日本が赤く塗られていますでしょ。世界全体から見ると、日本語圏はあれっぽっちです。そこだけの価値観で一生を過ごすのは、もったいないですよ。

ただね、空港で若い日本人の姿を見ると、ちょっとがっかりさせられるの。私はいつも「外国を見たほうがいいよ」と言ってはいるけれど、1週間くらい観光して帰国するというのはねえ。できることなら、じっくりと勉強してほしい。まあ、1週間でも、行かないよりはましかもしれませんけれど。

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2. 安藤忠雄が野茂英雄と会って考えたパイオニアの思考法

安藤野茂

世代を超え、活躍するフィールドを大きく超え、親交を深めている安藤忠雄さんと野茂英雄さん。安藤さんは野茂さんが主宰するNOMOベースボールクラブの活動を応援し、野茂さんは安藤さんをプロ野球のキャンプにアテンドした。1995年からメジャーリーガーとして、野茂さんが海を越えて活躍してきた背景にも、何人もの人生の先輩たちのサポートがあった。

安藤忠雄(以下・安藤) 野茂英雄さんと出会ったのは、近鉄バファローズ時代にバッテリーを組んでいた光山英和さんの紹介でしたね。

野茂英雄(以下・野茂) はい。光山さんを交えて一緒にご飯を食べたのが最初でした。

安藤 まず、事務所に来られた時、私はびっくりしました。

野茂 びっくり、ですか?

安藤 こんな身体が大きな人がいるんだ、と。これが世界レベルの身体なんだと。

野茂 ああ、それで……。

安藤 よく食べるし、よく飲む。でも、野茂さんの場合、それを全部吸収することで自分の活力にしている。食べるのも仕事の内なんだなと思いました。普段は寡黙で、飲まないとあまり喋らない人だとうかがっていたので、最初は少し不安だったのですが、食事を始めて30分後には大いに喋り、笑っていました。野茂さんの話は、現在と過去が入り乱れて型破りだけど面白い。

野茂 いえ、そんなこともないですけれど。

安藤 世界を相手に闘ってきた男の神髄を見たように思います。

この対談のテーマは「パイオニア」です。パイオニアとはそれまで誰も見たことのないものを見させてくれる人だと思っています。そういう意味では、95年に野茂さんが海を渡って、ドジャー・スタジアムのマウンドに立った時、その姿はまさしくパイオニアでした。

野茂 あのゲーム、日本で見ていてくださいましたか?

安藤 もちろんです。テレビ画面に映るアメリカの観客は日本からやってきた見たこともないフォームのピッチャーに興奮していました。そして、そんな野茂さんやアメリカの観客を見て、私たちも興奮した。幸せを共有させてもらいました。

バッターに向けて大きなお尻を向けるトルネード投法でね。「こんな投げ方でストライク入るのか!?」「なんでバッターの前であんなにストン! とボールが落ちるんだ!?」という驚きが、スタンドのファンの表情からよくわかりました。

あの頃、アメリカでの野球人気も少し落ち気味でしたが、野茂さんのパフォーマンスを見に野球ファンが球場に戻ってきた。今思い出しても痛快です。これだけ人を引き付ける力を持った日本人がいるんだと。

野茂 私のフォームはアメリカでも最初は批判されたんです。

安藤 そうだったんですか!?

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3. 安藤忠雄が山中伸弥と会って考えたパイオニアの思考法

安藤山中

2015年3月17日、「山中伸弥さんを支える会」が発足した。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授の研究を、経済面で支援する会である。呼びかけ人は建築家の安藤忠雄さん。「世界中の難病に苦しむ人たちを救う研究の役に立ちましょう!」と主に関西の企業に寄付を募り、5年間で4.5億円が集まる見通しだという。

安藤忠雄(以下・安藤) 山中さんと出会ったのは2010年、京大のiPS細胞研究所のオープンの時でした。以来、何度かお会いしていますね。

山中伸弥(以下・山中) はい。

安藤 2014年の11月、兵庫県の元知事だった貝原俊民(かいはらとしたみ)さんが急死されました。兵庫県から創造力のある子が育っていくことを楽しみにされていた貝原さんを偲んで、2015年の4月に兵庫県立芸術文化センターで「未来を担う子どもたちへ」というテーマの講演をしてほしいと山中先生にお願いしたところ、「やります」と、即決してくれました。

山中 子供たちに話すということでしたから、是が非でもと。

安藤 スピードある判断に感激したのがきっかけで、「山中伸弥さんを支える会」に発展しています。今回は関西の企業限定で寄付を募ったのですが、ほとんどの企業が「山中先生のためなら!」と即決です。私自身が大阪出身で、大阪人はケチだから難しいのではと、不安いっぱいでスタートしましたが、すぐに集まりました。人々が山中先生に寄せる期待がいかに大きいか、実感しました。

山中 安藤さんのひと声の大きさにものすごく驚いています。

安藤 建築の仕事もそうですが、創造性は常に不安の中から生まれるものと考えています。山中先生も研究のなかで、多くの困難を乗り越えてこられたからこそ今の成果があり、そしてそれが人々の信頼へとつながっているのだと思います。

安藤 最近は、日本国内よりも圧倒的に海外の仕事が多いのですが、外国では今、日本の経済よりも、科学や文化に信用があります。以前は、日本といえば家電や自動車でしたが、最近は「あのiPS細胞でノーベル賞をとった日本」という評価をよく耳にします。

そのiPS細胞ですが、医療現場で実用化されると、人間の手、足、内臓……などを失うか損傷しても、自分の身体から取りだした細胞で再生できるといわれています。あらゆる病気やけがに苦しむ人を救える夢のある研究で、山中さんはそのパイオニアであるわけですが、どこまで研究は進んでいるのでしょう。最初は、再生医学が目的だったわけですね。

山中 はい。安藤さんのおっしゃるように、病気やけがで失われた機能を取り戻すのが目的でした。細胞を移植する治療法の開発です。けがで切れてしまった神経をつなぐとか、糖尿病ならばインスリンをつくる細胞をつくって移植するとか。でも、それだけではなく、創薬に役立つことがわかってきました。

安藤 新薬の開発ですね。

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TEXT=神舘和典

PHOTOGRAPH=伊藤徹也、安藤忠雄建築研究所、鞍留清隆

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