PERSON

2023.08.19

病気になって気づいた、残りの人生をかけてやりたいこと【岸博幸】

治療をすれば、あと10年や20年は大丈夫。そう主治医に告げられた岸博幸氏は、「残りの人生が10年だとしたら、自分がやりたいことを思う存分やろう」と決心する。岸氏が残りの人生をかけて新たに挑戦したいことは⁉ 連載6回目。

治療のため首筋にカテーテルを指したままの岸博幸氏にオンライン取材を行った。

いつのまにか変化や挑戦を避けていた

大学卒業後の1986年に通商産業省(現経済産業省)に入省し、2006年の退官まで官僚を務めた岸博幸氏。もっともその間に、コロンビア大学留学(1990~1992年)や朝鮮半島エネルギー開発機構出向(1995~1998年)、小泉内閣下での経済再贅政策担当大臣補佐官や金融大臣補佐官などを務めるなど(2001~2006年)、職場も仕事内容も大きく変化している。

「もともと変化を好む人間で、5~10年周期くらいで新しいことにチャレンジしてきたんです。それなのに、官僚を辞めてからの15年間は、ほぼ同じことをしている。大学教授と言う安定した職業に就きつつ、テレビでコメントを言ったり、講演会で話をしたり。それはそれで充実していてハッピーではあるんですけど、この先もそれを続けるのはどうなんだろう。主治医から『あと10年』と言う言葉を聞いた時、そう自分に問いかけてみたんです」

答えは、「そんな生き方は自分らしくない」というものだった。

「自分の心のままに生きてきた人間ですからね、これまでの仕事をしかたなくやっていたとか、ガマンしていたわけではないんです。大好きな格闘技やライブがあれば、なんとか仕事を調整して海外まで観に行くなど、かなり好き勝手やってきたとは思います。でも、その一方で、仕事に関しては新しい挑戦や冒険することを避けてきたような気もしているんですよね。だからここらでもう一度、自分らしく、新しいことにチャレンジしてみようかと」

日本の未来のためにプレイヤーに戻って汗をかきたい

それがどんなことなのか。「具体的には進んでいないから」と言葉を濁しつつも、岸氏の口から出たのは、「もう一度プレイヤーになる」という言葉。

「今のままでは、日本の将来はかなり暗くて、きついものになると思うんですよ。そんな未来を子供たちに残してこの世を去るのは、大人としてかっこ悪い。だったら少しでも日本がいい方向に進むよう、自分ができることをしないといけないのではないか。今はそう思っています。安全な場所から日本が抱えている問題について、ああでもないこうでもないと評論しているだけでは、何も変わりませんからね。もう一度プレイヤーに戻って、自分が汗をかかないと。

何を目的に、どんな方法で汗をかくのか。それは、これからじっくり詰めていきますが、自分が先頭になるより世の中を変える人間を増やすこと、その後押しをすることの方がいいのかなという気もしています。それが、残り10年かけて自分がやるべきことかもしれないなって」

そう言った後、「ただ、僕が先頭に立っている可能性もゼロではないですよ」と笑う岸氏。

「いずれにしても、これから先10年は、誰にも遠慮せず、自分がやりたいこと、やるべきだと思っていることに、思う存分取り組むつもりです。それは妻にも宣言していますよ。本当のところ家族がどう思っているかはわかりませんが、妻は案外どっしり構えていて、『はいはい、お好きなようにどうぞ』って感じです。もっとも彼女が異を唱えても、僕は自分の意志を曲げませんけどね(笑)」

取材中、いつもと変わらぬ笑顔で、明るく語ってくれた岸氏。

次回のインタビューは、抗がん剤治療後に設定。治療の様子や体調の変化などを語ってもらう。

TEXT=村上早苗

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