「これを書いていた時、ちょっと怒っていたんですよ」。 著書『夢と金』の製本前、本に挟みこまれるサインを書きながら、西野亮廣氏は話し始めた。
夢と金って、ずっと徹底的に切り離されてきた
本書では「生活の困窮」が日本の自殺動機の第2位であることを1ページ目から滔々(とうとう)と語る。
「今、日本ではむっちゃ人が死んでるんです。お金がないことが死ぬ原因になっているにもかかわらず、大人はきちんと子供にお金のことを教えない。というか、お父さんお母さんも知識がないから教える術(すべ)がない。自分たちのせいで子供たちが死ぬかもしれないんですよ、もういい加減ちゃんとやりませんか」
本書では、クラウドファンディングやNFTなどを説明しながら、顧客の摑み方や金の仕組み、そしてどう金と向き合い、夢をかなえるべきか、西野氏の体験をおりまぜて伝えている。事実、西野氏が運営する「西野亮廣エンタメ研究所」では、作品づくりのためにNFTやクラウドファンディングを資金調達の手段として確立させている。
「それらの手段を使う使わないというより、選択肢として持っておいたほうがいい、知っておいたほうがいい。僕のエンタメを見に来てくれる子供たちの顔が浮かぶんです。その子たちにちゃんとお金のことを教えなかったら、いつか自殺してしまう日が来るのかもしれない、それはやっぱり嫌だ。それにクラウドファンディングをよく知らずに、芸人を辞めてしまった人を僕はたくさん見ています。もしあの時、もう少し知識があったら、夢を諦めずにすんだかもしれない。これ以上、そういうことを繰り返してほしくない」
夢をかなえるためには、金がいる。そのためにまず金を知るべきだ。当たり前のことだが、けれども「夢」と「金」を同等に語ると、常に批判を受ける。
「夢を語る人が、同時にお金の話をするとめっちゃ叩かれる。夢はいいもの、お金は悪いものって、日本の教育がそうでしたから。正直、このタイトルが浮かんだ時も『どうせもうそういうタイトルの本や映画とかがあるんだろうな』と思ったんですけど、検索にひっかからなかったんです。絶対ありそうなのに、すごくないですか!? 夢と金って、そのくらい徹底的に切り離されてきたんです」
「夢」と「金」という言葉を使い、金は単なる手段であることをわかりやすくとく本書。「不便を戦略的に配置してコミュニケーションを生む」「NFTが売っているのは意味」など、興味をそそる言葉を選びとれるのは、長年自身のメッセージを伝えるべく葛藤してきたからだろう。これまで西野氏は、西野亮廣エンタメ研究所の会員制サロンにて、毎日自身の思いを文章で発信してきた。朝、メモを見ながら文章を書き始めるのが日課だ。
「ストレッチみたいなものですね。頭の体操になるし、自分の考えを整理できる。それに興味のあることを書いているから楽しくて、ニヤニヤしながら毎日書いています。だけど本作を書いている時は、ちょっと違った。冒頭で申し上げたとおり、根底にずっと怒りがあったんですよ」
西野氏はこの1冊に生き抜く術を詰めこんだ。金のせいで命を落とす、そんな悲劇が少しでも減るよう願いをこめ――。
西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年兵庫県生まれ。1999年漫才コンビ「キングコング」を結成。絵本作家としてこれまで7作を発表。『えんとつ町のプペル』は絵本から、映画、オフ・ブロードウェイミュージカルなどさまざまに展開。「CHIMNEY TOWN」などの会社を運営し、オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」は会員数約3万人を誇る。