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2023.04.13

東京五輪で挫折を味わった、愛称・カツオのスイマー復活劇

2023年7月に福岡で開催される競泳の世界選手権。代表選考会を兼ねた日本選手権(2023年4月4~9日、東京アクアティクスセンター)で、松元克央(26歳・ミツウロコ)が100、200m自由形、100mバタフライを制して3冠を達成した。3種目ともに世界選手権で表彰台を狙えるハイレベルなタイム。愛称・カツオのスイマーは挫折を味わった2021年の東京五輪から、いかに復活を遂げたのか。連載「アスリート・サバイブル」とは……

競泳・松元克央

競泳・松元克央、圧巻の3冠! 3種目で代表入り

2022年11月。松元克央はイギリスにいた。約3週間の日程で、東京五輪200m自由形の覇者トム・ディーン(22歳・イギリス)の所属するチームの練習に参加。

「五輪金メダリストと一緒に練習して、自分の弱さを改めて感じたい」との思いで、関係者を通じて武者修行を実現させた。

現地では日本に比べて重い重量でのウェイトトレーニングに取り組んでいることを痛感した。帰国後はイギリスで体験した負荷の高い筋力トレーニングを継続。重量を挙げるスピードも管理した。レースに向けて段階的に重量を軽くする工夫を凝らすなど、五輪金メダリストの練習法をアレンジ。パワーとスピードが両立した体作りに成功した。

迎えた日本戦選手権。大会2日目の200m自由形を1分44秒98で制して6連覇を達成した。2021年4月にマークした日本記録まで0秒33に迫るセカンドベストで、昨夏の世界選手権(ブダペスト)銅メダル相当の好タイム。

大会3日目の100m自由形は47秒85の日本新記録を出して初優勝を果たした。昨夏の世界選手権5位相当のタイムだった。

圧巻は大会5日目の100mバタフライ。自己ベストを0秒22更新する50秒96で3年ぶり2度目の優勝を飾った。2022年の世界選手権銅メダル相当のタイムで、50秒台は日本人2人目。日本記録保持者の水沼尚輝(26歳・新潟医療福祉大職)に勝利して3冠を達成した。

東京五輪の挫折から、世界を獲る

バタフライは数年前から“息抜き”のような位置づけでレースに出場し始めた種目で「難しいことは考えず体重を前に乗せて、丁寧に水をとらえることだけを意識している」と言う。

2020年日本選手権の初優勝を機に世界で戦うことを意識するようになったが、練習は本職の自由形の2割程度しかしていない。

世界でメダルを狙える位置だが「自由形が速くなればバタフライも速くなる。そこはぶらさずにやる」と、今後も練習の割合は変えない方針だ。

本命種目はあくまで2019年世界選手権(韓国・光州)で銀メダルを獲得した200m自由形。

100m自由形は前半強化の一環として取り組み、バタフライは自由形強化の副産物と捉えている。一流は何もやっても一流。本命種目を極めた先に、世界選手権でのメダル量産があると信じている。

東京五輪では200m自由形で金メダル候補に挙がりながら、予選17位で敗退。

大会後に約5年間師事した名伯楽・鈴木陽二コーチの下を離れ、中川智之コーチとタッグを組んだ。所属もセントラルスポーツから新興チームのミツウロコに変更。「世界で勝つために何かを変えないといけない」との思いが挑戦を後押しした。

日本選手権が開催された東京アクアティクスセンターは東京五輪でも使用されたプール。

松元は「(日本選手権の)最初のレースで入場した時は悪いイメージが頭をよぎったが、それは自分自身で覆さないといけない」と泳ぎで苦い思いを払しょくした。

自国開催の世界選手権は2023年7月14日に開幕する。

松元は「世界と戦えるタイムを3種目で出せて、やってきたことは間違いじゃなかった。世界選手権では自由形の200mはメダル、100mはまずは決勝に残れるようにしたい。バタフライもメダルを視野に入れてやっていく。ここからがスタート。メダルを獲るために、覚悟を決めて、もう一段階、追い込みたい」と力を込めた。

名前の読みは「かつひろ」だが、愛称はカツオ。2020TOKYOの借りを2023FUKUOKAで返すため、残り約3ヵ月、カツオ節のように身を削る覚悟で猛練習に励む。

松元克央/Katsuhiro Matsumoto
1997年2月28日福島県生まれ。千葉商大付高から明大に進学後、セントラルスポーツを経て、2022年4月からミツウロコに所属。2017年に日本代表に初選出。2019年世界選手権(韓国・光州)は200m自由形で銀メダルを獲得。2021年の東京五輪にも出場した。200m自由形の自己ベストは日本記録の1分44秒65。愛称はカツオ。身長1m86cm、体重85kg。

 
■連載「アスリート・サバイブル」とは……
時代を自らサバイブするアスリートたちは、先の見えない日々のなかでどんな思考を抱き、行動しているのだろうか。本連載「アスリート・サバイブル」では、スポーツ界に暮らす人物の挑戦や舞台裏の姿を追う。

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TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=松尾/アフロスポーツ

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