PERSON

2022.12.29

【倉科カナ】私、騙されやすいんです。だからこそ慢心しません!

倉科カナのこの2年間の活躍は目覚ましい。10本の連続ドラマなどのテレビ出演は無論だが、注目はその合間に4本の舞台公演に立っていることだ。2022年1月には読売演劇大賞優秀女優賞を受賞し、舞台女優としての評価もメキメキと上げている。

2023年上演の舞台最新作は、シェイクスピア4大悲劇『マクベス』を、黒澤明監督が翻案した『蜘蛛巣城』。戦国の世を舞台に、怪しげな予言を受けた忠臣・鷲津武時とその妻・浅茅が、秘めた欲望を目覚めさせ、疑心暗鬼の末に破滅してゆくさまを描いた作品だ。倉科は夫の欲望を焚きつける妻・浅茅を演じている。

倉科カナ

演じる役によって、人相は変わってくる

「私が演じる浅茅はマクベス夫人にあたる役柄で、夫をそそのかす悪女として描かれることが多いんですが、演出の赤堀雅秋さんの解釈には愛が感じられるんです。浅茅はその時代には珍しく、武時と恋愛結婚した女性なんですが、跡継ぎの子供を産むことができていません。政略結婚して子供を産んだ妹に対しては、優越感と同時に嫉妬も感じています。そういうなかで、愛する夫が出世できるならと、つい欲を出してしまったのは、すごくわかるなあと。

演じる上で大事にしたいのは、夫・武時とのシーン。特に浅茅が精神的に壊れてしまう前、夫婦の結びつきを描いた部分ですね。やっぱりふたりがすごく愛し合っているからこそ起こってしまう悲劇だと思うので、そこがしっかりできあがっていないと茶番になってしまう。武時役の早乙女太一さんと大切に作っていけたらなと思っています」

連続ドラマ『寂しい丘で狩りをする』で演じた探偵、舞台『お勢、断行』で演じた小説家、そして本作で演じる浅茅に共通するのは、時に「殺人」さえもいとわない、いわゆる悪女であることだ。

「日常では味わえないことを味わえるのは役者のいいところだなと思います。普通なら経験できない状況下に置かれた役柄って、自分自身と「どう思う? 今どんな感情?」と対話しながら作っていくんですが、今までの自分にはなかった視点や、そこからの景色が見えてくるんですよね。悪女には悪女なりの事情があり、思いがある。

そういう役を演じていて単純に面白いのは、人相が変わってくること。人の顔って筋肉で出来てるからずっと同じ筋肉を使っているとそこが発達して、すごい目がつり上がったりしてくるんです。やっぱりその役として生み出されたからには、中途半端な悪女を演じたくはない。そのキャラクターを存分に引き出したいし、それで嫌われてもいいかなって」

倉科カナ

倉科カナ

精一杯生きること。それが積み重なった先に、何かが見えてくる

8年間レギュラー出演してきた連続ドラマ『刑事7人』を、この夏の放送をもって「卒業」したことも大きな話題を呼んだ。キャストの紅一点、まっすぐで正義感の強い女性刑事・水田環役は倉科の代名詞ともいえる役だったが、新たな挑戦をするために退路を断つ。それも倉科の性格のようだ。

「『刑事7人』は私にとって本当に家族みたいな安心できる場所。一応卒業ということですが、私も番組のみなさんが大好きだし、ありがたいことに「いつでも帰ってきていい」と言ってくださって、いつか戻れたらなと思っています。ただそういうなかでも、もっともっと他の役柄を演じてみたい、挑戦してみたいという思いが強くあって。同じ役を演じ続けることも素晴らしいことだと思うんですが、安住するより新しい場所を切り拓いていくことも好きなんですよね」

そうやって切り拓いた場所――舞台では、映像とはまた一味違う面白さを感じている。

「今の時代って、映像などでは表現するテーマや方法が制限されてしまうことって多いですよね。そういう意味では、舞台演劇ではより社会を反映した物が作れるし、それを演者の生身を使って伝えることができる場所なんです。演者が照明や音楽などスタッフと、その場で足並みを揃えて作品のテーマに臨んでいると実感できるのも魅力です。映像だと音楽や編集によって演技の印象が変わり、それはそれで面白いんですが、演じた時点で自分の手を離れてしまうんですよね。でも舞台だと『ここでこういう音楽を流すんだ、じゃあこの役はこういう人なのかな』と考えトライ&エラーしながら、作品の完成まで関わることができるんですよね。そういう部分にすごくやりがいを感じます」

実は本作で演じる浅茅のように、彼女もまた「予言や占いを信じてしまうほう」なんだとか。

「騙されやすいんですよね」と笑うが、そうだとわかっているからこそ慢心はしない。

「占い師に私に向いている職業を聞いたら“慈善事業”って言われたことがあるんですよ。え?え?私が人を救うんですか?って、思わず笑っちゃいました。人が占いに頼るのは“上手くいきたい”という思いがあるからで、それ自体は悪いことではないと思うんです。でも私の場合は、その思いによって空回りしたり、気負いすぎてこわばってしまったりして、上手くいかないことが多いんです。自分以外の誰かが関わることって、思い通りにはいかないと思うし。目標は設けるんですよ。でも今を精一杯生きること。それが積み重なった先に、何かが見えてくるのかなと思います」

倉科カナ

倉科カナ/Kana Kurashina
1987年熊本県生まれ。2009年から連続テレビ小説 『ウェルかめ』のヒロインを演じ、注目を集める。その後は多くの舞台、ドラマ、映画に出演。近年の主な出演作に舞台こまつ座『雨』『ガラスの動物園』『お勢、断行』などがある。2023年春、舞台『蜘蛛巣城』に出演予定。

『蜘蛛巣城』
日程:2023年2月25日(土)~3月12日(日)
会場:KAAT神奈川芸術劇場 <ホール> ※以降、全国ツアーあり
主催・企画制作:KAAT神奈川芸術劇場
出演:早乙女太一、倉科カナほか
神奈川公演に関するお問合せ:
チケットかながわ TEL:0570-015-415(10:00〜18:00)
https://www.kaat.jp

TEXT=渥美志保

PHOTOGRAPH=斎藤大嗣

STYLING=道端亜未

HAIR&MAKE-UP=草場妙子

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