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2022.10.26

星野リゾートはなぜ、大阪・新今宮という地に“ラグジュアリー”ホテルをつくったのか

2022年4月にオープンした“なにわラグジュアリー”を掲げるOMO7大阪。交通の便はいいがお世辞にもいい立地とは言えない大阪・新今宮に、ホテル運営のプロ、星野リゾート代表・星野佳路氏はなぜフルサービスのホテルをつくったのだろうか。星野リゾートの新生ブランド「OMO(おも)」の魅力にハマってしまったというホテルジャーナリスト・せきねきょうこが直撃した。【対談の前編】

星野佳路「ああいう場所にこそチャンスがある」

ところで都市型ホテル「OMO」の最高カテゴリーである「OMO7」は、なぜ大阪を舞台にし、東京ではなかったのだろうか。そのうえ、大阪のなかでも観光開発が遅れ、やや置き去り感のある新今宮という場所を舞台に選んだ理由を知りたかった。決してメディアが飛びつく素敵な場所でもない、環境が“素晴らしい”とは誰も言わなかった場所だ。

「なぜあの場所につくったのか皆さんが疑問に思われているのは感じています。OMO7大阪がある場所は大阪市の所有地だったので、OMO7大阪のスタートは提案公募でした。駅前のあれだけ大きな敷地を開発することによって、地域全体にとってプラスになる効果をつくりたいという大阪市さんの意図はよくわかっていましたし、その内容に沿った提案をしたつもりです。

なぜあそこにつくったのかいうと、あれだけの広大な敷地かつ交通の便がよいというのが一番の理由です。新今宮駅というのは周辺の駅も含めると8つの路線が通っています。しかも、新幹線側からみると逆に見えるかもしれませんが、(インバウンドを意識して)関西国際空港を中心に考えてみた時に、“大阪の入口”なんですよね」

関西国際空港からのアクセスも非常にいい駅であり、7つの路線が使える。駅との距離と交通機能だけを考えると、あれだけ広くてよい土地が空いているということはまずない。

「なぜ残っていたのかというと、あのエリアが抱えるいろいろな課題や歴史的なものがあり、少なくとも関西在住の方にはあまり印象がよくないということもあり、結果的に残されていた。ですが、私はシカゴに住んでいましたし、ニューヨークの学校にも行っていました。アメリカの各都市を見ると、新今宮のような場所から価値ある文化が生まれているんです。私がニューヨーク州の学校に行っていた時は、危険なところがたくさんありましたからね。シカゴに住んでいた’80年代後半も、シカゴ大学の周辺は本当に危なかったんですよ」

星野氏は続ける。

「私が住んでいたのは1984〜86年ですから、その後のホテル業界の発展とか不動産開発とかをみると、やはり、どの都市もああいった場所にこそチャンスがある。危険な場所ではあるけれども、その地域独特の文化が根付いている場所に、新しいコンセプトのホテルが入り、また新しい開発が入っていくことで地域のイメージが変わっていく。それがホテルづくりの価値であり、その地域に貢献することにもつながります。今さら、我々が梅田の駅前などわかりやすい場所に出しても、チャンスは少ないでしょうし、私たちがつくらなくても投資家がホテルをつくってくれます。あえてチャレンジすることが、私たちが成長する機会だと思っています」

常に前向きで、明解で、そして自分の思考にブレのない星野氏。そういえば、東京に初めてできた「OMO5 東京大塚 by 星野リゾート」も、ホテルのカテゴリーは違うがどこか似ている匂いがする。JR大塚駅の目の前に立つが、ほんのわずかな距離にラブホテルが数件あり、初めはややうらぶれた飲み屋街にあるホテルという印象だった。実は人生初下車だったJR大塚駅。当初は駅とその周辺には正直なところ魅力を感じなかったが、OMOレンジャーとの散策で開眼。ローカルの面白い店やブランド力のある老舗店、若い世代の斬新な店も多く、地域に根付いた東京人が暮らす庶民派の街の魅力に圧倒されてしまった。

「東京も同じです。東京ではまだOMO7大阪のようなチャンスがないので、ああいうかたちのものはできていませんが、OMO5 東京大塚は似たようなイメージでつくりました。大塚の場合は土地を所有されている方が、どうしても隣の池袋に人が集中してしまって、大塚という街にはもっと魅力があるのに、それをアピールできていないとおしゃっていて」

大塚特有の街の魅力に対して、星野氏はすぐにポジティブなイメージがわいたという。

「人が集まる場所、有名な駅の周りというのはナショナルチェーンが多いですよね。それは不動産価格が高く、それによってテナント料も高くなるので、高収益を出せるお店しかなかなかテナントとして入れないからです。でも、例えば大塚に行くと、そこで商売しているのは地元の方が多いですし、新今宮もそうなんですよ。新今宮から新世界のエリア、あの周りというのは、地元のおじちゃんおばちゃん、昔からお店を営んでいる人たちがいて、自分が売りたいものをつくって売っているんですよね。そういった場所には地域に根付いた文化があります」

“おせっかい”という文化

そこで「OMO7大阪」に話題は戻り、なぜ「7」を付け、フルサービスのホテルにしたのとかの理由を尋ねた。

「大阪市さんの提案公募から始まったOMO7大阪ですが、大阪市さんの意向から上質なホテルを望まれていると私は感じたのです。ですので、新今宮の地域のイメージを変えていくためには、上質なフルサービスのホテルをつくることが大事だと考えていました。

ラグジュアリーの観点から見ると、星野リゾートの競合というのは基本的には外資のホテルチェーンです。外資のホテルが定義しているラグジュアリーと、私たち日本のホテル運営会社が定義するラグジュアリーというのは差別化する必要があります。また、今、世界的にラグジュアリーの定義が変わってきています」

旅行業界全体として、豪華絢爛な物質的ラグジュアリーさから、時間の豊かさや希少性といったところにラグジュアリーの方向性が変わってきていると星野氏は話す。

「そういったところで私たちは観光で大阪にいらしている方々をターゲットとして、大阪らしいラグジュアリーというものを考えていくことから始まりました。東京と同じでもいけないですし、ニューヨークと同じでもいけない。大阪らしいラグジュアリーがなんであるかを考えて、進化していくことがOMO7大阪にとって非常に重要です。大阪・新今宮に観光に来ている日本人や海外の人たちに、“大阪らしいラグジュアリー”を感じていただくことが、私たちが提供できる付加価値であるという判断から、最初に“なにわラグジュアリー”という言葉が出てきました」

OMO7大阪の方向性を決めるにあたって、サービスやアクティビティの内容からではなく、“なにわラグジュアリー”という言葉が発端となり、そこから具体的な内容を決めていったという。

「僕らが定義していた“なにわラグジュアリー”の内容に大阪のチームから最後の最後に新しい要素を提示されまして、“おせっかい”ということを提案してきたんです。意外でした。“おせっかい”が大阪なのであって、“おせっかい”をなにわラグジュアリーの要素のひとつとして加えたいと。提案された当初はしばらく考えましたけど、僕は結果的にそれがすごく面白かったなと思いましたし、星野リゾートらしいラグジュアリーになることを感じています」

実際に“なにわラグジュアリー”を体験してみて、たしかに“おせっかい”は大阪らしさの根幹を担っていると感じた。そこで具体的に星野氏が考える“おせっかい”について聞いてみた。

「“おせっかい”というのは、OMO7大阪から新世界あたりまで歩きながら、いろんなお店の人たちと話していて感じた、提案型というんですかね。受け身になっていないお店の姿勢のようなものをイメージしています。

買ってもらいたいものとか、食べてもらいたいものを明確に持ってる人たちが多いんですよね。ちょっと押し付けがましい印象とも捉えられるのですが。一見いいと思えないようなものをこれがいいんですと主張してくる強さ。東京との違い、文化的な違いでもあるし、その話しかけ方もフレンドリー。親しくなりやすい大阪の人たちのコミュニケーション術でしょう」

OMO7大阪に宿泊した際に、OMOレンジャーとの散策(OMOに宿泊したら体験してほしいアクティビティのひとつである)で、大阪木津卸売市場のかつお節の老舗店に連れて行ってもらった。そこで、かつおの削り節を頼んだら、それもいいんだけど、こっちもいいんだよと言ってお薦めされたのがマグロの削り節。これは最高級だからとあれよあれよとお薦めされ、結局、かつおの削り節と一緒にマグロの削り節も購入した。まさにこれが“おせっかい”だろう。

庭園で憩う人々をホームにいる通勤客に見せつける

通勤する人であふれるホームと、憩う人によってゆったりとした時が流れるOMO7大阪のガーデンエリア「みやぐりん」。星野氏は、OMO7大阪から目と鼻の先の位置にある新今宮駅を利用する人や電車に乗っている人たちに、「みやぐりん」を見てもらいたいという発想から広大なガーデンエリアをつくったという。

「通勤ラッシュの時間帯、新今宮駅のホームには人があふれ、電車は満員なんですよね。駅を利用する人や電車に乗っている人たちに『みやぐりん』でビールを飲みながら、ホテルの外装膜に投影される花火を楽しんでいる光景を見てもらうことで、新今宮が変わったんじゃないか、今度降りてみようかなと思ってもらうきっかけになったらと考えました」

「みやぐりん」にあるテラスの一部はホームが同じ高さ(目線が同じ)になっている。そうすることによって、新今宮駅の利用者や電車に乗っている人たちに「みやぐりん」で楽しんでる人たちの様子が目に入る。それは大阪市への提案のひとつだった。

「駅に向かって建物を建てて、その手前に新今宮駅のホームと同じ高さのガーデンエリアをつくり、ビールを飲んでいる様子やお風呂に入って浴衣を着て楽しんでる姿を見せつける。これがあの場所にこのような配置でホテルをつくった一番大きな理由で、大阪市さんも我々を採用してくださった一番の理由だと思っています」

外資のホテル運営会社と対等に戦う

ところで、将来的にインバウンドの観光客が戻ってきたら、OMO7大阪は大阪のなかでどのような位置づけになるのだろうか。OMO7大阪の建築デザインの監修に「星のや」を担当する東 環境・建築研究所を登用した理由とともに聞いてみた。

「436室しかありませんが、それでも我々にとって大きなホテルです。新今宮という場所の機能、交通の便の素晴らしさを知ってもらうことで、大阪らしい文化をもった地域として関西の人たちにも認識してもらいたいですし、インバウンドの観光客が戻ってきた時には、大阪観光の拠点として、選んでいただけるようなホテルにしていきたいと思っています。

また、ホテルの内装を“なにわラグジュアリー”という発想で考えていた時に、星のやの建築デザインでお世話になっている東 環境・建築研究所の東 利恵さんがすごく興味を持ってくださったんですよね。お父さまの東 孝光先生が大阪出身だからということもあるかもしれませんが、大阪駅のプロムナードも東 環境・建築研究所が設計してましたし、大阪という場所に対する理解がすごくありました。新今宮というところにこういうものをつくりたいと伝えた時に、建築家としてビビっときたものがあったのかなと思っています。設計ではなく監修というかたちですが、常にアドバイスしてもらったというのは我々にとって非常にプラスなことでした」

ところで星野氏が考えるラグジュアリー、ラグジュアリーな旅とは一体どのようなものなのだろうか。

「ホテル業界にいて、僕は経営もしているので、どうしても競争視点になりがち、ならざるを得ないのですが、ラグジュアリーが物質的な豪華さの競争になっていくと、日本のホテル運営会社には勝ち目はないんですよね。それは投資家にとってもいいことではありません。部屋の面積を広くしたり、豪華なものを部屋に入れたり、豪華な家具を並べたり、そういった豪華なもの合戦になっていくとつまらない。前から僕は思っていたんですけれども、今、世界の旅行者のラグジュアリーに対する考え方が変わってきています。豪華なもの合戦から、上質な時間とか希少な体験といったものがラグジュアリーな旅の定義へと変わってきています。

地域にある自然の環境や文化・歴史を体験し、学ぶことを目的とした旅行スタイルのエコツーリズムが今注目されていますが、せきねさんの専門分野ですけれども、あれは決してチープな旅ではなくてラグジュアリーな旅なんですよ。豪華な空間=ラグジュアリーではなくて、上質な体験といった方向へとラグジュアリーの定義は変わってくると僕は思っています」

そこの場所にしかない自然に出合う、その場所でしか味わえない食体験をする、つまり希少な時間を過ごすことがラグジュアリーな旅の定義になってきていると星野氏は話す。

最後に星野氏にとって都市型ホテル「OMO」がどのくらい重要であるのか聞いてみた。星野氏にとってすべてのブランドが大切なのはわかっているが、ラグジュアリーラインである「星のや」から始まった星野リゾートの異端児ブランドである「OMO」について、どのようなテンションなのか知りたかった。

「難しい質問ですね(笑)。『OMO』は成長ポテンシャルが一番あるブランドだと思っています。日本旅館ブランドの『界』も、今すごく成長していて、『OMO』と『界』というのは、我々のホテルブランドのなかで一番成長のポテンシャルがある。ちょっとビジネス的な表現になって申し訳ないんですけれど、星野リゾートが日本のホテル運営会社として、外資のホテル運営会社と対等に戦う、戦える企業になるためには、OMOが一番重要なブランドだと思っています」

海外進出も見据えているのだろうか。

「海外進出も将来的には考えています。OMOブランドで都市に進出するなかで、外資のホテル運営会社と対等に戦う日本のホテル会社っていうのが出てくるとすれば、まあ、我々もそこに挑戦して出て行きたいんですけれども、星野リゾートが挑戦するうえで、OMOなくして外資の運営会社と対等に戦うことはできないと思っていますから」

星野リゾートには「OMO」のほかに、「BEB(ベブ)」という若い世代に向けたカジュアルブランドもある。だが「OMO」の重要性を強く感じたこの対談は、ローカリゼーションや文化の多様性、観光客を魅了するいくつもの仕掛けで、今後も「OMO」誕生が相次ぐのではないかと思わせた。「OMOなくしては、海外の運営会社と対等には戦えない」という星野氏の言葉に、「星野リゾートの未来展開」の展望が見えてきた。

【関連記事】今注目の都市型ホテル「OMO」に見る、星野リゾート・星野佳路のビジネス戦略とは

【関連記事】世界的ジャーナリストがハマった! なにわラグジュアリー「OMO7大阪」とは

Yoshiharu Hoshino
1960年長野県生まれ。’83年慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程終了。’91年星野温泉(現・星野リゾート)社長(現・代表)就任。「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外に60ヵ所の施設を運営。

Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト。仏国アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地の観光案内所に勤務。期間中に3年間の4ッ星ホテルに居住。仏語通訳を経て1994年、ジャーナリズムの世界へ。ホテルの「環境問題・癒し・もてなし」の3テーマで現場取材を貫く。世界的ブランドホテル「AMAN」のメディアコンサルタント、他ホテルのアドバイザーも。連載・著書多数。

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