“テンションあがる「街ナカ」ホテル”カジュアルなホテルとして、全国展開を続ける星野リゾートの都市ホテルブランド「OMO(おも)」。まんまと「OMO」の魅力にハマってしまったというホテルジャーナリスト・せきねきょうこが、“観光をヤバくする”と公言する星野リゾート代表・星野佳路氏を直撃した。
「OMO」が生まれた必然性
星野リゾートに生まれた新生ブランド「OMO(おも)」は、それぞれに3、5、7というナンバリングがつけられ、ホテルのカテゴリーが明解に分かれている。都市ホテルを謳ってはいるものの、「OMO7」ともなるとフルサービスが提供されるホテルだ。食事も施設もサービスも高級感に溢れ快適な滞在が約束されている。とはいえ、「星のや」ブランドのようにすべてが贅を極め、世界的なレベルで富裕層をターゲットにする最高級ホテルのランクかというと、そうではない。極めてカジュアルなブランドとして、観光目的のゲストをターゲットに絞っている。
星野リゾートの異端児ともいえる個性派ホテル「OMO」。ブランドが誕生してすぐに宿泊した「OMO3 東京大塚 by 星野リゾート」は目から鱗の体験だった。さらに、2022年4月にオープンした「OMO7大阪 by 星野リゾート」で、まんまと「OMO」の魅力にハマってしまった。
そこで「OMO」誕生の秘話、人気の理由、ローカリズム、コンセプト、OMOレンジャーなどについて、星野リゾート代表・星野佳路氏に語っていただこうと、ホテルジャーナリストの目線で私、せきねきょうこが直球で問いかけた。
まずはブランド名「OMO」とはいったい何だろうか。造語であることは察しがつくものの、これは「面白いのおもか」と尋ねると、星野氏らしい冷静で、実質的な答えが返ってきた。
「“おもてなし”のおもか、“面白い”のおもなのかなどといろいろ言われているけれど、実際には商標が取れる、短くてわかり易い、日本人にも海外の人にも読んでもらえるという絞り込みのなかで出てきた言葉です。もともとのプロセスのなかでは、おもてなしの“おも”にしようという発想ではありませんでした」
星野氏は以前から“観光をヤバくする”と公言していた。その言葉からもわかるように、’18年4月28日に開業した「OMO7旭川 by 星野リゾート」に始まったOMOブランドは、’22年9月現在、あっという間に11施設にも増えている。では、“テンションあがる「街ナカ」ホテル”カジュアルなホテルとして、全国展開を続ける「OMO」の基本的な原則はいったい何だろう。
「例えば、OMO7大阪のようにあれだけの部屋数(436室)のホテルをつくる時は、さまざまなマーケットを組み合わせて行くことが大事なんです。インバウンドの多くは観光客なので、ひとり用の部屋ではなく、2~3人、4~5人が快適に泊まっていただける部屋(ツインにエキストラベッドを入れるのではなく)ってどんな部屋だろうと真剣に考えた結果です。もうひとつ私が意識したのはAirbnbなんですね。世界ではこれがものすごく伸びていて海外では需要がすごく高い。日本では民泊というサービスがありますが、法律がいろいろあって、本来のポテンシャルが活かされていません」
星野氏は続ける。
「民泊が伸びているということは、本来ホテルにとって脅威なはずですが、その背景をよくよく見ると、民泊を選ぶ人の理由は、Airbnbのような民泊を求めているのではなくて、ホテルに対する不満からです。つまりホテルに対する不満の裏返しが民泊のマーケットが伸びている要因だと理解しています。民泊を脅威に感じるだけではなくて、自分たちホテル側の怠慢じゃないかと思うことも。それが、我々が大阪を計画したひとつの発想なんです。だから民泊と戦う部屋をきちんと作ろうと考えました」
星野氏が言う“ホテルに対する不満”とは具体的に何だろうか。
「4人、5人、6人で泊まりたいという時に宿泊客はホテルに対して非常にネガティブです。お子さんが3~4人いらっしゃるご家族は、ホテルに泊まると最適な部屋がない。仕方がないからと3部屋、4部屋と複数部屋を予約すると料金が高くなってしまう。朝食やちょっとした食事でさえもレストランに行かなくてはいけない。簡単に部屋で食べるためのキッチン機能付きの部屋がない。このようなさまざまなホテル側の事情によるイノベーションや新しい発想の欠落が、民泊という市場を伸ばしてしまっていたんです」
星野氏によると、カフェやレストランなどのパブリックエリアのサービスは、民泊の利用者もウェルカムだという。
「一方で、民泊に対する不満もあります。それはパブリックのスペースがなく、ホテルのようなサービスもないという不満です。民泊もさまざまな課題を抱えていて、ただその需要が伸びている背景というのが、ホテルに対する不満なんです。そこを私たちホテルは解決できると思っています。ですから、民泊の成長をそのまま放置するのではなく、そこから学ばないといけない。OMO7大阪だけではなく、実は’21年にオープンしたOMO祇園はすべての部屋にキッチンをつけています。4人~5人泊まれる部屋をつくり、対民泊を念頭に置き、ホテル側としての成長・進化しようというのがOMO全体の考えです。’22年の5月にオープンしたOMO5金沢片町にもキッチン付きで、4人が泊まれる部屋を作りましたし、今計画している熊本にオープン予定のOMOも対民泊の部屋をテーマにしています」
OMOは「都市観光」への未来戦略のひとつ
急成長する民泊を意識し、ホテル側もそれに学ぼうと進化することを掲げる星野氏。こんな柔らかい頭脳戦略こそが時代を席巻する宿泊施設づくりのトップランナーである理由だろう。OMOでは果たしてどこまで理想に迫れるのか。そこで、星野リゾート全体として、OMOの存在、位置づけはどこにあるのかを尋ねた。
「OMOは今までのホテルとはまったくの別物です。たしかに、スキーに行く、温泉地に行く、そして有名なリゾート地に行くという需要もあるのですが、世界の観光需要というものを見てみると、都市観光へ行っている人はすごく多いんですね。いまだにサンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークというのは観光都市ですし、パリもそうだと思います」
確かにそのとおりである。
「フランスにもたくさんリゾート地はありますが、どこが最も観光客を集めているかというと、やはりパリなんですよね。都市に展開せずして“観光をヤバくする”ことも、観光のなかで戦っていくことも最終的にはできないと考えています。
したがって、私たちも最終的には都市で展開したいというのは、ここ20年間の課題でした。簡単に実現できることではないので、これまでにいろいろな調査や考察をしてきました。都市観光といっても、我々はビジネス客がターゲットではないので、観光客の皆さまに最適なホテル、部屋、サービスでありたいというのが『OMO』なんです」
なるほど、OMOのOMOたる部分が見えてきた。星野氏は都市ホテルブランド「OMO」をつくるにあたり、観光への深い考察と長い経験、星野リゾートの未来戦略、そして国内外の潮流を深堀しながら都市型ホテル「OMO」を誕生させたのである。
ラグジュアリーブランドの「星のや」、温泉旅館の「界」、ファミリー層にも人気の高い高品質リゾート「リゾナーレ」。しかし「OMO」はそれらとはまったくの別物で、星野リゾートのすでにあるホテルブランドの隙間を埋めるに相応しい都市型観光ホテルである。カテゴリーをわけた明確なホテルづくりは観光客にとってもわかり易く、目的に合わせて選択する際に困ることもないはずだ。
【対談の後編はこちら】星野リゾートはなぜ、大阪・新今宮にラグジュアリーホテルをつくったのだろう
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Yoshiharu Hoshino
1960年長野県生まれ。’83年慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程終了。’91年星野温泉(現・星野リゾート)社長(現・代表)就任。「星のや」「界」「リゾナーレ」「OMO」「BEB」の5ブランドを中心に、国内外に60ヵ所の施設を運営。
Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト。仏国アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地の観光案内所に勤務。期間中に3年間の4ッ星ホテルに居住。仏語通訳を経て1994年、ジャーナリズムの世界へ。ホテルの「環境問題・癒し・もてなし」の3テーマで現場取材を貫く。世界的ブランドホテル「AMAN」のメディアコンサルタント、他ホテルのアドバイザーも。連載・著書多数。