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2022.10.22

【羽生結弦】尽きぬ闘志の源泉

人間の限界に挑戦するアスリートたち。肉体と精神をギリギリまで戦い続けるからこそ見える世界がある。競技はもとより、その裏側で起こっている人生の一端に迫る不定期連載「心震えるアスリートの流儀」。今回は羽生結弦の闘志の源について。

羽生結弦

「僕だけのジャンプじゃない」

スポーツを始めたばかりの時、きっと誰もが応援される意味を知らない。成功や失敗、挫折や努力を重ねていく中で、自らが支えられる意味を経験的に知る。フィギュアスケート男子の羽生結弦が不出生のアスリートになった背景には、自らの理想を追い続けるストイックな姿勢だけでなく、周囲からの期待を痛いほど理解できる共感力がある。

2021年12月21日。人知れず、夢の大技クワッドアクセル(4回転半)に挑み続ける羽生がいた。五輪最終選考会を兼ねた全日本選手権へ向かう前の総仕上げの個人練習。「死ににいくようなジャンプ」への激しいアタックは1時間半にもおよんだ。
 
競技会を主戦場としたラストの21―22年、北京五輪シーズン。羽生は焦っていた。右足首の負傷や食道炎などで試合に出られず、一度は心も折れた。シーズン初戦が、いきなり大一番の全日本選手権。超大技4回転半の完成が近づく手応えもあるが、時間が足りない。実戦で投入する時が迫っていた。
 
不安や恐怖。その一方で超大技を回転不足ながら回った状態にまで持ってきており「これでいいじゃん」という一定の満足感もあった。これまで数多くの壁を乗り越えてきた自信やプライドもある。精神状態は「グチャグチャになりながら」の試行錯誤で、あることに気づいた。「やっぱり僕だけのジャンプじゃない」――。そして決めた。「跳ぶのは僕なんですけど。結局、言い出したのも僕なんですけど。でも、皆さんが、僕にしかできないって言ってくださるのであれば、それを全うするのが僕の使命なのかなって」。これまでの日々を信じ、勝負のリンクへ。きっと、この日は北京五輪へとつながっていく伏線の一日だった。
 
これまでリンク内外で数え切れないほどの恐怖や絶望と闘い続けてきた。その度に、応援される意味についても深く考えた。2011年3月、東日本大震災では仙台のリンクで練習中に被災。練習拠点を失い、全国各地を転々とした時に「スケートしていていいのかなという葛藤が常にあった」と振り返る。自らが勇気を持って立ち向かう姿が、被災地での人たちに少しでも前向きになるきっかけを与えられればいいと願っていた。
 
だが、同年の年末、手元に届いた多くの手紙を読み、年賀状を書いているうちに、その悩みは吹っ切れたという。「その手紙を見た時に、自分は応援するなんて、そんなおこがましい立場じゃないなと凄く思った。むしろ、こんなにも応援してもらえてるんだと」。改めて気づき、応援を受け止めていくことが恩返しになると理解した。
 
羽生は、応援される意味について語ったことがある。「期待に応えなきゃ、と呪縛みたいなものを自分でかけているところはある」。自らに注がれ続ける視線に真っ正面から向き合う。「そのプレッシャーという圧力は絶対、エネルギーの源。重く感じる、とかよく言いますけど、重く感じるってことはそれは力だと自分は思う。その力を重い方向に使うのではなく、上の方向に使ってあげればいい」。期待こそ尽きぬ闘志の源泉となっている。
 
競技人生を懸けた数々の競技会だけでなく、アイスショーでも人々を魅了してきた。全身全霊で舞う演技の裏には、周到な準備が欠かせない。会場の練習では照明の位置や観客からの視線、距離など全てを把握しながら振り付けを確認する。納得いくまで曲かけを繰り返す時もある。アイスショーでも決して手を抜かないストイックな姿勢は、国内外のスケーターの手本にもなっている。「誰かの前で演技をして、どこかの誰かが自分の演技を見て何かを感じ取ってくださっている瞬間が本当に素敵だなって思える。その幸せを常に感じていたらいいな」。その夢はまだ終わらない。
 
これからプロスケーターとして、新たな期待と向き合っていくのだろう。3度目の北京五輪を終えた会見で語った言葉が、羽生結弦という国民栄誉賞アスリートとしての本質を突く。「僕はやっぱりオリンピック王者だし、2連覇した人間。それは誇りを持って、これからもフィギュアスケートで2連覇した人間として、胸を張って、後ろ指を指されないように、明日の自分が今日を見た時に胸を張っていられるように、これからも過ごしていきたい」。自分が応援される意味を深く知る人間は強い。応援というエネルギーとともに、羽生は想像の先を行く。

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TEXT=大和弘明

PHOTOGRAPH=西村尚己/アフロスポーツ

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