PERSON

2022.08.14

【スプツニ子!】今こそ「女性活躍は逆差別」の間違いに気づくべき――イノベーターの子育て論

現在10か月になる娘の育児に奔走しながらも、2022年春、企業におけるダイバーシティ&インクルージョン推進をサポートする新規事業をリリースしたスプツニ子!さん。そこに込めた「日本の未来」に対する希望や想いとは? 連載「イノベーターの子育て論」とは……

スプツニ子!

生まれる前から性差バイアスの洗礼が!

生理を疑似体験できる生理マシーンとそのストーリーを描く「生理マシーン、タカシの場合。」で、アーティスト・デビューしたスプツニ子!さん。ジェンダーの問題は、彼女にとって、作品のみならず人生においても大きなテーマだ。

「ありがたいことに、出産祝いをたくさんいただいたのですが、圧倒的に多かったのは、ピンクだったりフリルのついたアイテム。それは、生まれてくる子が女の子だと判明した時からです。『あぁ、この子は生まれる前から、女の子はピンク、男の子はブルーが好きというバイアスの洗礼を受けているんだな』と感じました。こうやって、性差の洗脳というか、暗示にかかっていくんだなって。だから、私はあえてロケット柄やブルーのものを用意したんです。家庭のなかで“逆バイアス”をかけることで、バランスを取ろうと……」

2019年に起業した「Cradle(クレードル)」は、女性が、自分の能力を活かし、思う存分働ける機会を増やすべく、ダイバーシティ&インクルージョンの推進を目的としている。サービスとして今春リリースしたのは、企業を対象にした従業員向けのセミナーやヘルスケアサポート等の提供だ。生理やPMS、更年期障害、不妊といった女性の健康課題やライフプランについての理解を深めるようなオンラインセミナーを開催、日本全国の産婦人科・不妊治療・乳腺科などの医療機関と提携し、適切なサポートを促す。

「生理痛がひどくて仕事に打ち込めない人もいれば、更年期障害が理由で昇進をあきらめざるを得ない人もいます。ピルやホルモン補充療法などを活用すれば、そうした症状を和らげることは可能なのですが、日本では、まだまだ広まっていません。それは、すごく残念なこと。女性たちが、自分の身体のことを正しく知り、医療の情報をきちんと得られれば、もっと、働きやすくなるはずですし、ライフプランを立てやすくなるはず。『女性活躍』を実現するためにも、企業や社会全体でバックアップしてほしいと思います」

Cradleのサービスイメージ

2022年7月現在、資生堂やポーラ、NEC、ヤフーといった名だたる企業がCradleのサービスを導入。「お問い合わせもたくさんいただいていて、導入してくださる企業はさらに増える予定です」。

構造的差別の解消は、まずそれに気づくことから

「Cradleを通じて広めたいことは、もうひとつ。それは、特定の性別や属性に不利な状況を生じさせる、構造的な差別の解消です。2021年のジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位。個人が、『女性を差別しよう』という意思を明確に持って行うことはほとんどないと思いますが、現在の制度や風潮によって、無意識に差別していることは、少なくないと感じています。そうした構造を、今、変えなければ、娘が大人になった時も、同じ問題で女性たちが悩むことになるのではないでしょうか」

ピルに関していえば、日本で承認されたのは、働きかけから約40年後の1999年。これは、国連加盟国の中で最も遅く、バイアグラが半年足らずで承認されたのと比べると、異常な事態にも思える。理由のひとつは、「意思決定の場に携わっているのが、男性中心だからだと思います」と、スプツニ子!さんは分析する。

「女性活躍という言葉に対し、『それこそ逆差別だ』という反論があるのは承知しています。けれど、数年前まで医学部合格者の女性割合が故意に抑えられていたことをはじめ、男女の昇進格差や賃金格差は、確実に存在しているわけです。置かれている社会の構造に偏りがあるのに、『男も女も関係ない、平等だ』と言うのは『公平』ではないんです。性別を問わず、誰もが機会を得ることができる公平な社会にするために、まずは、多くの方々に、構造の偏りに気づいてほしいですね」

自身が出産したことで、“ワンオペ”の大変さがリアルに想像でき、女性が働く機会を持つための課題が、さらに発見できたとも言う。

「娘が成長するに従って、私自身、新たな悩みや問題にぶつかり、社会的課題に気づくかもしれません」

性差問わず、子供たちが、働く機会を公平に持てる社会。それを目指し、経営者、そして、母としてのスプツニ子!さんの挑戦に、今後も注目していきたい。

■「理系の秀才がアートの道を選んだ理由」(Vol.1)
■「幼い頃から“ゼロイチ”を経験させたい」(Vol.2)

Sputniko!
1985年東京都生まれ。本名・マリ尾崎。2006年、ロンドン大インペリアル・カレッジの数学科と情報工学科を卒業、英国王立芸術学院入学。MIT(マサチューセッツ工科大)メディアラボ助教授、東大大学院特任准教授を経て、現在、東京藝術大学美術学部デザイン科准教授。「生理マシーン、タカシの場合。」や「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」など、テクノロジーやジェンダーなどをテーマにした作品を多数発表している。2019年、ダイバ-シティ&インクルージョンの推進を目指し「Cradle」を設立、代表取締役社長を務める。

過去連載記事

連載「イノベーターの子育て論」とは……
ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=伊藤香織

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