アーティストや大学の准教授として活動しつつ、起業も果たし、2021年秋に第一子となる娘を出産したスプツニ子!さん。「新時代の子育て」について、3回に渡ってインタビューする。連載「イノベーターの子育て論」とは……
両親の策略にまんまとハマり、理系の道に
日本人の父とイギリス人の母との間に生まれ、イギリスの名門大学で数学と情報工学を学んだ後、アートの道に進んだスプツニ子!さん。異色の経歴を育んだ子供時代についてたずねると、「数学とコンピューターがいつも身近にあって、遊び道具にしていました」という答えが返ってきた。
「父も母も数学の研究者で、家庭での会話も、研究と論文が中心。学術的な話は自然と耳に入ってきましたし、ディズニーの『ドナルドのさんすうマジック』というビデオも好きで、よく観ていました。両親が使わなくなった古いコンピューターで、算数の問題を解くと前に進めるRPGをしたり、『my first Sony(ソニーが子供向けに販売したAV機器シリーズ)』で、アニメーションを制作したりもしていましたね。
今思えば、両親は、『理系に育てたい』という明確な目的に添って、おもちゃや本を選び与えていたのだと思います。父に将来のことを相談すると、『世の中には、医学があって、物理があって、電子工学も面白くて……。でも次はバイオテクノロジーがくると思うんだ』なんて、理系の進路しか示されなかったし(笑)。私は、両親の策略にまんまとハマっていました」
熱心に研究に取り組む両親の姿を間近で見ていたことで、「勉強は面白い」と、自然に思うようになった。
「小学生の時、学校で『なぜ勉強をするのか』について考えを述べる機会がありました。クラスメイトのほとんどが、『いい学校に入り、いい会社に勤めて、ちゃんとした大人になるため』と答えるなか、私は生意気にも(笑)、『人類は常に新しい知識を学び、新しいことを発見している。子供が勉強するのは、その準備だと思います』と答えたのを覚えています。両親の影響で、そういうマインドセットになっていたんでしょうね。今は、そのことに、すごく感謝しています」
未知の世界に進む方が、ときめきやワクワクが大きい
両親が整えた環境のなか、スプツニ子!さんは、理系の才能を順調に伸ばしていった。高校を1年飛び級し、ロンドン大学インペリアル・カレッジに入学、数学とコンピューターサイエンスを専攻した。両親に研究者として将来を嘱望されたものの、大学卒業後、英国王立芸術学院に入学。アートの世界へと、方向転換をはかることに。
「アートは、子供の頃から好きでした。理系は、正解に辿り着くための道筋がはっきりしているけれど、芸術は、過程が曖昧でありながら、最終的には美しい。それが、すごく面白いなと思って」
両親が期待した研究者ではなく、アーティストの道に。仲の良い家族だっただけに、両親に対して後ろめたさのようなものを抱いたのだろうか。
「両親を、がっかりさせてしまうだろうなとは思いました。でも、高校生の時に、『親の幸せは、子供が幸せになることのはず。ということは、親を幸せにするには、自分が一番好きなことを選択すべき』というロジックに至ったんです。クラスメイトにも、『親の言うことなんて聞かなくていいんだよ。自分が好きなこと、やりたいことをするのが、親の幸せなんだから』って、説いて回っていたくらい(笑)」
アートの道に進むことを決めた娘に対し、最初こそ戸惑いを見せていたが、最終的に両親はよき”応援団”になってくれたそう。そして今、子供を育てる立場となったスプツニ子!さんは、子育てにどう臨んでいるのだろうか。
■「幼い頃から“ゼロイチ”を経験させたい」(Vol.2)
■「今こそ”女性活躍は逆差別”の間違いに気づくべき」(Vol.3)
連載「イノベーターの子育て論」とは……
ニューノーマル時代をむかえ、価値観の大転換が起きている今。時代の流れをよみ、革新的なビジネスを生み出してきたイノベーターたちは、次世代の才能を育てることについてどう考えているのか!? 日本のビジネス界やエンタメ界を牽引する者たちの"子育て論"に迫る。