PERSON

2022.04.25

【アイヴァン】田中 泯「眼鏡をかけると“自分じゃなくなる”」Vol.42

1972年の設立以来、一貫して日本(福井県・鯖江)製の高品質なアイウエアを生み出し続ける「EYEVAN」。その眼鏡をかけた熱き男たちを写真家・操上和美が撮り下ろす連載「男を起動させる眼鏡」#42。

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ダンサー/田中泯

田中泯氏

田中泯氏が装着する眼鏡は、EYEVAN「Chandler」¥36,300

眼鏡姿がつないだ、父との思い出

「若い頃から視力はずっとよくて、今でも細かいものを読む時や運転の時くらいしか、眼鏡はかけません。サングラスも運転用くらいで、あくまでも実用品。自分をこう見せたいっていう意識はない。どっちかというと、素のままでいたいからでしょう」

踊りは言葉を持っていない時代から存在する身体表現であり、田中さんの肉体から放たれる力は見る者を圧倒する。衣装も必要最低限の場合が多いが、田中さんにとって眼鏡は仕事と密接な関係があるという。

「眼鏡がストーリーの一部になっていれば、眼鏡をかけて踊ることもあります。俳優の仕事の場合は、その役柄の身体になって演じたいと思っているので、衣装として眼鏡をかけることがスイッチになることもありますね。眼鏡をかけると“自分じゃなくなる”。その人がどんな人物なのだろうかと考えるのはすごく楽しいし、眼鏡をかけるというのもひとつのアイデア。眼鏡は何をかけるかで、その人の性格などいろいろなものを空想できるから面白いですよね」

今回選んだ眼鏡「Chandler」は、1950~60年代のフランスで製作されたヴィンテージ眼鏡の柔らかで美しいディテールとアイヴァンのデザインを組み合わさったもの。フレームもつるも甲丸の形状になっているが、これは職人による手作業で作り上げた表現となっている。鼈甲柄の丸フレームは個性的なので、上手に年齢を重ねてきた人に似合うだろう。

「今回、操上さんに撮っていただいた写真を見て、父に似てきたと思いました。父もこういう眼鏡をかけていたんです。初めにこの眼鏡をかけた時は、フレームも太いし、自分には似合わないと思っていましたし、プライベートでもこういうデザインの眼鏡は選んだことはありませんでした。もしかしたら、無意識に父の面影を避けていたのかしれません。撮影では、別の人格としてカメラの前に立ったのですが、そこにはいつかの父の姿がありました。父は怖い人で無口でしたが、とても尊敬していますし、たくさんの忘れられないことを教わりました」

写真に映る父に似た自分の存在は田中さんにとって、ちょっと気恥しくもあり、不思議な経験にもなったようだ。

「もう何年かしたら、普段の格好も全部着物にしようと思っていて、その時にはこの眼鏡をかけたい。そういえば父も時々着物を着ていましたね、こういう眼鏡をかけて……」

年を重ねても、人は新しい何かと出会える。眼鏡はそこに大切な役割を果たすこともあるのだろう。

Min Tanaka
1945年東京都生まれ。独自の舞踊スタイルを展開し、’78年のパリ秋芸術祭で海外デビュー。以来、世界的なダンサーとして活躍する。2002年『たそがれ清兵衛』で映画初出演。同作で日本アカデミー賞新人俳優賞、最優秀助演男優賞を受賞。現在は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にて藤原秀衡役を演じている。

問い合わせ
EYEVAN Tokyo Gallery TEL:03-3409-1972

【連載「男を起動させる眼鏡」はこちら】

TEXT=篠田哲生

PHOTOGRAPH=操上和美

STYLING=九(Yolken)

HAIR&MAKE-UP=横山雷志郎(Yolken)

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