PERSON

2022.04.01

【堀米雄斗】成功するために必要なこと<前編>

母国開催となった東京オリンピック2020。新競技のスケートボード・男子ストリートで金メダルを獲得し、世界的なスターとなった堀米雄斗。高校卒業とともに渡米し、スケートボードの本場で活動を続ける堀米に、アメリカを目指した理由、東京オリンピックでの重圧、スケートシーンの未来などについてお聞きした。3回にわたるインタビューの前編は、堀米が考えるスケートボードの本質と魅力。

「コンテストに勝つことだけがすべてじゃない」

――東京オリンピックで金メダルを獲得し、世界の頂点に立った堀米雄斗。だが、堀米は「コンテストに勝つことだけがスケートボードではない」と言う。彼が考えるスケートボードの本質とは。

堀米:スケートボードは僕が生まれる前から受け継がれているストリートカルチャー。コンテストに勝つことだけじゃなく、ストリートを自由に滑る「遊び」としてのカッコよさがあります。アメリカではどちらかというと、競技よりもストリートカルチャーとしてのスケートボードのほうが盛り上がっているなという印象。リアルな街中のストリートでは、コンテストとは違って自分のスタイルを自由に出すことができますから。

――競技としてのスケートボードと、遊びとしてのスケートボード。堀米はどちらに魅力を感じているのか。

堀米:どっちも好きなんですよ。僕はお父さんがスケーターで、スケートボードのビデオをたくさん持っていた。そのビデオを小さい頃から夢中になって見ましたね。最初に見たのがラカイの「Fully Flared」という作品。そこに出ているガイ・マリアーノ、エリック・コストン、アレックス・オルソン、マイク・キャロルがカッコよくて。彼らは映像を残すだけじゃなく、コンテストにも出場して活躍している。「僕もいつかこういうスケーターになれたらいいな」と思いました。

――彼らの背中を追いかけて、堀米は単身アメリカに渡った。

堀米:ビデオの撮影をしたいと思い、高校入学の頃から何度かLAに長期滞在。高校卒業後は活動の拠点をアメリカに移しました。渡米当初は交流があったプロスケーターのミッキー・パパの家に住ませてもらった。1年くらい経ち、少しずつ大会でいい成績を残せるようになって、アメリカのスケーターたちと家を借りました。ルームシェア生活の始まりです。

――その頃から堀米の快進撃は始まった。2017年、スケートボード・ストリート競技の最高峰コンテスト「ストリートリーグ」のバルセロナ大会で3位。ミュンヘン大会で2位。一躍、世界が注目するスケーターになった。

堀米:2017年はほかにも貴重な経験をさせていただきました。夏にナイキの「I-58ツアー」に参加させてもらい、撮影やデモ走行をしながら全米各地を巡ったんです。その中にはガイ・マリアーノをはじめ、憧れだったスケーターがたくさん。「なんか信じられないことが起こっているな」と。テクニカルなことだけではなく、スケートボードとの向き合い方や考え方など、大切なことを教えてもらいました。

――スケーターとして成功するためには何が必要なのか。憧れのスケーターとの日々を通して、その答えがはっきりと見えてきた。

堀米:成功の秘訣は、みんなと仲良くすることですかね。うまいスケーターはいくらでもいる。でも、それだけでは成功するとは思えないんです。ほかのスケーターたちをリスペクトし、基本的なことですけど、あいさつやふるまいを大事にするよう心がける。その積み重ねが大切だと思います。

――難しい人間関係の構築を、堀米はいとも簡単にやってのける。それも、国や人種を越えて。

堀米:僕の場合は、ラッキーだっただけ。いま振り返っても、ただラッキーだったなとしか思えないんですよね。アメリカへ渡ったばかりの頃は英語も全然しゃべれなくて、どんな質問に対しても「Yes」と答えていた。それがなぜかアメリカ人にウケて。みんなと仲良くしたいとは思っていたけど、自分からガツガツいけるタイプではないので、そこを周りの人がおもしろがってくれたんです。

――自分が成長できたのは周囲の人たちのおかげ。だから、「勝ちたい」という意識もおのずと強まった。

堀米:幼い頃から憧れだったガイ・マリアーノやエリック・コストンといったスケーターたちが食事に誘ってくれるし、面倒をみてくれる。本当にたくさんの人にかわいがってもらっているんです。だから、期待に応えたい。偉大なスケーターを超えるビデオパートを残したいし、コンテストでも勝ちたい。両方で結果を出したいですね。

そして、堀米雄斗は東京オリンピックを目指した。

※インタビュー中編「重圧がすごくて、東京オリンピックを最後にしようと思った」はこちら
※インタビュー後編「次代を担う子供や、その親世代に伝えたいこと」はこちら

YUTO HORIGOME
1999年1月7日、東京都江東区生まれ。スケーターであった父親の影響で6歳からスケートボードを始める。幼少の頃より3メートルもあるバーチカルランプを滑り実力をつけ、10代はじめからは国内の大会では常に上位にランクイン。海外経験も豊富だったが、高校卒業後に本格的な渡米を果たして以降さらなる才能が開花。2017年にスケートボードで世界最高峰のコンペティションであるストリートリーグへの挑戦権を得ただけでも快挙であった中、初参戦からいきなり表彰台を連発。2018年には見事初優勝を果たし、瞬く間に世界のトップ選手に君臨。世界のスケートボードは堀米雄斗の時代に突入した。2019年には上海でのX—GAMESを日本人として同種目初制覇、またロサンゼルスでのストリートリーグを制すると、世界選手権でも準優勝を果たした。2021年には世界選手権を優勝。東京オリンピックでは、スケートボード男子ストリート、初代金メダリストとなった。

堀米雄斗

『いままでとこれから』 ¥2200(税込) 著/堀米雄斗 発行:KADOKAWA
4月1日発売、堀米雄斗初の自伝フォトエッセイ。堀米雄斗の生い立ちからスケートに対する思い、さまざまな選択や決断、そしてこれからのヴィジョンを、本人が飾らない言葉で綴った。「自分の経験したことを覚えている限り全部書きました。この本を読んでくれれば、僕がどうやって生きてきたか、すべてがわかると思います」(堀米)

TEXT=川岸徹

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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