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2021.10.07

ハンカチ世代の遅れてきたエース。大野雄大が味わった大学時代の2つの挫折とは?

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。【第13回 鈴木誠也(広島カープ)】

2009年11月16日 明治神宮大会 対九州産業大(大学3年)
現在のプロ野球を代表する左投手の1人と言えるのが中日のエースである大野雄大だ。昨年は最優秀防御率、最多奪三振のタイトルを獲得すると、両リーグダントツトップとなる10完投も記録し、初の沢村賞にも輝いている。今年は援護にも恵まれずに負けが先行しているものの、それでもリーグ3位の防御率2.82をマークするなど安定したピッチングを見せている。

そんな大野だが、高校時代は決してプロから注目を集めるような投手だったわけではない。初めてそのピッチングを見たのは京都外大西の3年春に出場した選抜高校野球、対東海大相模戦だった。大野は背番号10ながら先発を任され、3回2/3を投げて1失点で降板し、チームも1対4で敗れている。当時のノートには「少し日本人離れした変則モーション」、「右肩が開いても腕が後ろに残り、遅れて出てくるためタイミングがとりづらい」、「故障が心配だが変則サウスポーとして面白い」などといった言葉が並んでおり、その投球は目立っていたものの、プロに進むような投手という印象は残っていない。ちなみに当時のプロフィールは180㎝、70㎏とかなりの細身で、ストレートの最速は137キロだった。

そんな大野の評価が一変したのが佛教大3年で出場した明治神宮大会、2009年11月16日に行われた九州産業大との試合だった。立ち上がりから相手打線を圧倒すると、3四死球は許したものの被安打はわずかに2で見事な完封勝利をおさめてみせたのだ。更に強烈だったのがその投球内容だ。投じた101球のうち変化球はわずかに10球で、実に9割以上がストレートだったのである。更に後で聞いた話で、リーグ戦でもほとんどこのようなスタイルで相手打線を抑え込んでいるという。この日のストレートは最速148キロをマークしたが、これだけストレートを続けても九州産業大の打者が全く対応することができず、ことごとく振り遅れているのが印象的だった。当時のノートにも「ステップが狭く右足が突っ張る独特のフォームは相変わらずだがストレートの勢い、コントロールともに高校時代と比べて格段にレベルアップした」というメモを残している。

翌年に出場した全日本大学野球選手権でも初戦で東北福祉大を相手に2安打完封。自分がこの大会で見たのは翌日に八戸大(現八戸学院大)に敗れた試合だったが、連投の疲れを感じさせないピッチングで4回までは相手打線をノーヒットに封じ込めている。またこの時はツーシーム、スライダーなど変化球の割合も増えていたが、しっかりコントロールしてストレートをより生かすことができるようにもなったいた。

プロ入り前の2つの挫折

ただ大野はこの大学選手権の後、プロ入りまでに2つの大きな挫折を味わっている。1つ目は大学日本代表からの落選だ。地方リーグ所属ながら3年春から3大会連続で全国大会に出場し、3完封をマークするなど大舞台での実績も十分だったにもかかわらず、4年時に行われた世界大学野球選手権のメンバーからは外れている。この年の4年生は斎藤佑樹(早稲田大)などいわゆる“ハンカチ世代”の好投手が多く、また1学年下にも藤岡貴裕(東洋大)、菅野智之(東海大)、野村祐輔(明治大)などがいたが、実力的には大野も決して引けを取らず、大学のネームバリューが影響したものと言われている。そして大野は、この後に左肩を故障。4年秋の最後のシーズンは一度もマウンドに上がることなく大学野球を終えている。ドラフトでは中日から単独で1位指名を受けたものの、当時は故障の回復具合を心配する声が多かった。

プロ入り後も1年目はリハビリが続いたが2年目の後半からは先発ローテーションに定着。2018年には0勝と苦しんだ時期もあったが、それ以降は冒頭でも触れたようにエースに相応しい投球を見せている。先日、斎藤が引退を発表したが、同期のドラフト1位で入団した大学生投手で最も勝ち星をあげているのは大野である。ここまで結果を残せたのも高校から大学にかけての急成長と、その後の挫折を乗り越えた気持ちの強さがあったからではないだろうか。今年で33歳とベテランと言われる年齢に差し掛かっているが、今後もそのストレートで相手打者を圧倒する投球を1年でも長く見せてもらいたい。

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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TEXT=西尾典文

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