時代を超えた至高のヴィンテージには、現存するだけの価値、いい物語が紡がれている。仕事人6名が愛でる、古き良き逸品とのグッドストーリーとはーー。ゲーテ10月号では「死ぬまでに一度は所有したい! 心震えるヴィンテージ」特集を掲載。
希少アートカーを後世へ、スーパーカーの一時預かり人
地上7階建てのとあるミュージアム。併設するレストランの窓からは世界文化遺産の姫路城が見える。ワールド・ヘリテージ、すなわちヴィンテージ中のヴィンテージ。その白い優美な姿を見上げることはあっても、最も美しいとされる南西の方角の高い位置からの眺望は珍しい。
姫路にオープンしたばかりの「トリノミュージアム」はヴィンテージカーの博物館。元は自走式立体駐車場で5・6階をミュージアム、7階と屋上をカフェ&レストランに、4階まではそのまま施設用パーキングに流用した。
オーナーの中村俊根さんは地元姫路でエンタメ産業や不動産業などを多角的に展開。幼い頃、映画で観た美しいクルマたちに魅せられて外国車に憧れた。大藪春彦の小説に登場するフェラーリが275 GTBだと知った時から中村さんの夢はイタリアンビューティを駆って走り回ることになった。(ちなみに“トリノ”という施設名は、伊カロッツェリアの聖地から拝借)。
初めて乗ったクルマは、いすゞ117クーペで国産車ながらイタリアンデザインだった。以来、乗りまくった。その数100台近く。初めてのフェラーリは308で、ランボルギーニやポルシェなど次々と乗り換えた。20年ほど前、売っては買うの繰り返しはもったいないとふと気づき、自宅ガレージを増築。そこから収集が始まった。
新たに買い入れるのみならず、手放したモデルももう一度ガレージに収めたくなるのがコレクター人情というものだ。そうこうしているうちに自宅ガレージにも収まり切らなくなり、コレクションも50台近くに。
「コレクションをまとめて収める方法はないものか。そこで思いついたのが所有していた駐車場を飲食店とミュージアムという新業態へとリノベーションすることでした。新型コロナの前でしたけれど、本業をしっかりと守ったまま、新たな挑戦をしたいと思ったわけです。それが少しでも地元姫路をさらに盛り上げるきっかけになれば、と」
地元に何か違うカタチで貢献したい。その思いが中村さんを突き動かした。
「ヴィンテージカーは芸術作品ですよね。私は今、一時的に預かっているだけです。いつかは誰かに引き継がなければなりません。だからこそ美しく、できる限りいつでも走り出せる状態にして、そのうえで多くの人に見ていただくことが大事だと思っています。ヴィンテージカーを集めることは私の趣味ですし、それが仕事への活力となることは確かで、そういう意味では自宅のガレージが空いてしまうと寂しい限りなのですが……」
ミュージアムには現在、30台ものヴィンテージカーが並ぶ。基本的には中村さんがデザインや性能、物語に惚れて集めたモデルで、フェラーリやランボルギーニといったイタリア車に限らない。ドイツのポルシェもあれば、日本のフェアレディZもある。アメリカのハマーH1だって飾られている。例えば元はリンゴ・スターの愛車だったシボレーや北野武が手がけたクルマなど、いずれの個体にも中村さんの心を惹く物語があるものばりかりだ。
お気に入りはランボルギーニミウラとフェラーリGTO。どちらも改めて買い直したもの。ミウラはレーシングカーのような走りが魅力で、GTOはグラマラスなスタイリングが好みとのこと。最後に今、最も欲しいヴィンテージをたずねてみる。
「メルセデスベンツ300SLガルウィングですね」
その日が待ち遠しい。