幾多の試練を乗り越えながら、着実にスーパースターへの階段を上り続けるメジャーリーガー・大谷翔平。現在は、新型コロナウイルスの影響でシーズンの開幕が不透明となっているなか、アメリカで準備を整えている。今だからこそビジネスパーソンが見習うべき、大谷の実践的行動学とは? 日本ハム時代から"大谷番"として現場で取材するスポーツニッポン柳原直之記者が解き明かす。
肉体と技術がかみ合う年齢
2020年7月5日。大谷翔平が26歳の誕生日を迎える。筆者が初めて取材した時はプロ1年目オフの19歳だった。月並みな感想で恐縮だが、時が経つのは本当に早い。あの大谷がプロ野球選手としてもう"バリバリの若手"とは呼べない年齢にさしかかっている。
プロ野球選手のピークはいつか。大谷に自身の考えを語ってもらったことがある。'15年1月1日付のスポニチで野球評論家の石井一久氏(現楽天GM)との対談が実現した時のことだ。石井氏に「僕がメジャーに行ったのは28歳だけど、自分の中ではタイミングが一つ遅かった。大谷君は自分のピークはどう考える?」と質問。大谷は「肉体的にはやっぱり26歳とか27歳なのかなと。でも、技術とかみ合うという意味では27歳から30歳くらいかと感じています」と答えている。
23歳でメジャー移籍し、1年目の'18年から投打二刀流で大リーグを席巻。右肘手術の影響で打者に専念した翌'19年は日本選手初のサイクル安打を達成するなど、目まぐるしい活躍に毎年、心が踊らされた。先輩記者に「大谷は凄すぎてもはや何が凄いのか分からなくなったな」と言われたことがあるが、まさにその通りだ。しかも、恐らく本人は満足していない。まだ大谷が語る"肉体的ピーク"を迎えていないことに改めて驚かされる。
さらに、この対談の続き。石井氏が「僕も(体力が)落ちたかなと思ったのは28歳の時くらい。27、28歳くらいの時はどういう選手になっていたい?」と質問すると、大谷は「やっぱり肉体的にはピークを迎えた頃だと思うので、そこに技術を間に合わせたいです。なかなか難しいと思うんですけど」と回答している。
コロナ禍の影響で開幕が遅れている大リーグは、大リーグ機構(MLB)と選手会の協議がまとまらず、16日(日本時間17日)時点でMLBのロブ・マンフレッド・コミッショナーはシーズン中止の可能性も示唆。全オーナーの75%以上に当たる23球団の賛成を得られれば、コミッショナー権限で50試合前後で強行開催できるが、選手会から異議申し立てされる可能性が高いなど、交渉は泥沼化の様相を呈している。
ここでは無事に開幕することを前提に、話したい。肉体的ピークを迎える大谷にとってシーズンの大半が失われるかもしれないが、悪いことばかりではない。一昨年に右肘手術を受け、本来、5月中旬復帰予定だった「投手・大谷」は開幕から万全に近い状態で投げられる。当初は年間の球数制限もあったが、ほぼ気にせず投げることができるだろう。かなりの短縮シーズンになるため、疲労軽減を目的とした「登板の前日、翌日は欠場」などこれまでの二刀流のルーティンを取っ払ってもいいかもしれない。
開幕が実現すれば大谷は一体、どんなインパクトを残すだろうか。知将で知られるジョー・マドン新監督の采配も気になる。そして、大谷の肉体的ピークの凄まじさに注目したいと思っている。