先日、誕生日を迎え55歳になりました。医学で多くの人の役に立ちたいと、臨床医から研究者の道に進んで20年以上が経ちます。アメリカ留学から戻ってきて、アメリカと日本の研究環境の違いから、うつのような状態になったり、大きな研究成果をなかなか出せず、その苦しさから研究者を辞めようとしたこともありました。辞めずに続けたからこそ、今があるわけですが、当時は約500名が所属する研究所の所長になるとは思いもしませんでした。
最終回「55歳を迎えて」
辞めずに続けたからこそ、今があるわけです。
ひたすらに走り続けてきた研究者人生ですが、今年でヒトiPS細胞論文を発表してから10年、ノーベル生理学・医学賞を受賞してから5年の節目を迎えます。科学の進み具合は予想しにくいのですが、iPS細胞研究についてはこの10年で予想を超えるスピードで進展しているように感じます。
研究者を志す若者が増えることを願う
ただ、iPS細胞を用いた新しい医療や薬の開発にはまだ時間がかかります。研究というのは努力を重ねたとしてもすぐに結果が出るわけではなく、失敗をすることも多いのです。研究者は忍耐力が必要ですし、年を重ねれば経験が増えていく一方、ひらめきやクリエイティビティがなかなか出てこなくなります。ですから、若手研究者が活躍できる環境が整い、研究者を志す若者が増えることを願っています。
目標であるiPS細胞の実用化までは長く険しい道のりが続きますが、患者さんへiPS細胞技術を一日でも早く届けることに全力を注ぎ、これからも実用化に向けて走り続けたいと考えています。また、プライベートでは55歳の抱負としてマラソンの自己ベストタイムをさらに更新したいと思っています。
また先日、治験が発表されたFOP(進行性骨化性線維異形成症)に続いて、パーキンソン病においても来年度の治験申請を目指しています。
1年続けてきた連載も今回が最終回です。連載を通してiPS細胞研究を少しでも身近に感じていただけたなら、うれしいです。これからもiPS細胞研究を見守り続けてくださると幸いです。
山中伸弥の今月のひと言。
来年1月31日(水)に<iPS細胞研究所支援 山中伸弥教授トーク&レイ・チェン ヴァイオリン・リサイタル(https://www.nmf.or.jp/news/2017/09/post_168.html)>が開催されます。ノーベル賞受賞から5年の節目に日本音楽財団がiPS細胞研究支援のためのチャリティコンサートを企画してくださいました。2012年ノーベル賞コンサートで最年少ソリストを務め、世界的に活躍しているヴァイオリニストのレイ・チェン氏によるリサイタルです。私も演奏の前にお話をさせていただきます。チケット代は全額が日本音楽財団を通じてiPS細胞研究基金に寄付されます。よろしければご参加をご検討ください。
Tポイントカードからのポイント寄付も可能なYahooネット募金でも引き続き、寄付を募っておりますので、よろしければご覧ください。
https://donation.yahoo.co.jp/detail/5113001/
iPS細胞研究所
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