2025年はイギリスに世界初の蒸気機関車による鉄道が開業して200周年となる。その間に約140の国々に鉄道が開業。鉄道写真家・櫻井寛氏が実際に乗って撮ったこれぞ世界一の鉄道をご覧あれ。【特集 クルーズ&列車の旅】

1.世界初の高速鉄道|東海道新幹線:1964年
東海道新幹線こそが高速鉄道のパイオニア
今から61年前の1964年10月1日、時速200kmを超える世界初の高速鉄道が東京~新大阪間に開業した。それが「東海道新幹線」だ。速さのみならず、他の鉄道や道路などをすべて立体交差とし、踏切を廃したことで安全性が極めて高く、開業以来今日まで、新幹線に起因する乗客の死亡事故はゼロ。この日本の新幹線の成功により、フランスのTGV、イタリアのETR、ドイツのICEなどの高速鉄道が開発された。つまり、日本の新幹線こそが高速鉄道のパイオニアだったのだ。ちなみに61年前の東京~新大阪間は4時間、現在は2時間21分に大幅に短縮!

2.世界最長の鉄道|シベリア鉄道:9,297km
鉄道旅行好きが唸る車中6泊7日の旅へ
世界最長の鉄道がロシアの「シベリア鉄道」。ウラジオストックからモスクワまで、全長9,297kmを約150時間、車中6泊7日かけて走破する。その間は来る日も来る日も列車の中、寝ても覚めても列車の中、という鉄道旅行好きには堪らない究極の鉄道旅が1週間続くのである。車窓風景の大半は連綿と続くタイガ(針葉樹林帯)だが、そんななか、ウラジオストックを発って4日目の朝、進行方向右側の車窓にオアシスが現れる。世界一の深さと透明度を誇る湖、バイカル湖が旅の道中、最も新鮮な気分にさせてくれるだろう。

3.世界最速の列車|TGV:時速574.8km
スピード魂を持つフランスが新幹線の最大のライバル
フランスはスピードの国だ。鉄道の開業こそイギリスの3年後だが、蒸気自動車はイギリスの蒸気機関車より30年早くパリの街を走った。鉄道では1955年に時速331kmの世界記録を樹立し(テスト走行)、1964年9月30日まではフランスの特急「アキテーヌ号」(時速200km)が世界一の高速列車だった(営業運転・在来線)。翌10月1日に時速210kmで開業したのが日本の新幹線。たった10km抜かれフランス人のスピード魂に火がつき、1981年にTGVを開発し一気に抜き去る。その速度、世界最速記録は2007年に達成した時速574.8km!

4.世界最長の鉄道一直線区間|インディアン・パシフィック号 シドニー~パース間:478km
360度真っ平らの平原を約11時間、疾走する
オーストラリアを代表する大陸横断特急が「インディアン・パシフィック号」。この愛称はインド洋岸のパースから、太平洋岸のシドニーまで結ぶことに由来。シドニー~パース間(逆方向あり)は4,352km、車中3泊4日かけて走破する。シドニーを発って3日目の朝、列車はナラボー平原に差しかかる。ここが全長478km、世界最長の鉄道一直線区間だ。この距離は東京~姫路間に相当する。その間、車窓風景は360度真っ平ら、気温40度を超える灼熱の砂漠地帯だが、カンガルーやエミュー、イーグルなどの野生動物が生息する。

5.世界一標高が高い鉄道|青蔵鉄道:標高5,072m
航空機の技術が用いられ各座席&寝台に酸素完備
鉄道の世界最高地点(標高5,072m)を走るのが中国の青蔵鉄道。青海省(ちんはいしょう)の省都西寧と西蔵自治区の都ラサを結ぶことから、青蔵鉄道と命名された。寝台車の枕元や各座席には酸素の吹きだし口がある。5,000mを超えるだけに車両には航空機の技術が用いられ、自動的に酸素が供給される。しかしながら標高5,000mの車窓風景には驚く。空はものすごく濃いブルーで木は一本もない。地面は岩がゴロゴロしているばかりでまるで月世界だ。宇宙が近いせいかディーゼル機関車の顔は映画『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーのよう!?

6.世界初の鉄道|ストックトン&ダーリントン鉄道:1825年
イギリスからスタート! 列車のロマンの原点
イギリスは鉄道発祥の国。1825年、世界初の鉄道「ストックトン&ダーリントン鉄道」が開業した。機関車はその名も「ロコモーション号」。最高時速は19km。この鉄道の乗客は人間ではなく石炭、つまり貨物鉄道だった。当時の人々は蒸気機関車に恐れをなし、同じ線路の上を走り馬が引っ張る「馬車鉄道」に乗ったからだ。その5年後の1830年に開業した旅客鉄道が「リバプール&マンチェスター鉄道」。最新の機関車の名は「ロケット号」。当時としては異次元のスピードの時速47km。輝かしい鉄道の時代が到来した。

7.世界最小の公共鉄道|ロムニー鉄道:線路幅381mm
大人ふたりが安全に乗れるれっきとした公共鉄道
世界一小さな鉄道が「ロムニー鉄道」。線路幅はたったの381mm(15インチ)。JR在来線の線路幅が1,067mm、新幹線は1,435mmなので、なんとも愛らしいサイズ。けれども、「ロムニー鉄道」は遊園地のミニ鉄道ではない。イギリスの運輸省監督下のれっきとした公共鉄道だ。路線は全長21.7km、最高時速も40kmなので立派なもの。この小さな鉄道の考案者はアーサー・ヘイウッド卿。彼は99年前の1926年、大人ふたりが並んで腰かけられ、安全に走行できる最小の鉄道づくりに挑戦した。その結論が線路幅381mmというわけ。

8.世界最大級の蒸気機関車|ビッグボーイ:総重量600トン
その名もビッグボーイ! へビー級王者が復活
アメリカの鉄道は何もかも巨大でパワフルだ。日本の25倍という広大な国土ゆえに、飛行機にその座を奪われ旅客列車こそ衰退してしまったが、貨物輸送は全米シェアの約40%を占め、コンテナを2段積みにした全長1マイル(1.6km)にも及ぶ大陸横断貨物列車を走らせている。大陸横断鉄道は2019年5月10日に開通から150周年を迎えたが、それを記念して世界最大級の蒸気機関車UP4000形「ビッグボーイ」が復活を果たした。全長40.7mはJR在来線車両2両分の長さに匹敵し、総重量600トンは日本最大の蒸気機関車C62形(145トン)の4倍というヘビー級の蒸気機関車である。

9.世界一長い鉄道トンネル|ゴッタルド・ベース・トンネル:57km
青函トンネルを全長、速度ともに抜き去る
2016年6月1日、アルプスを南北に貫く世界最長の鉄道トンネル「ゴッタルド・ベース・トンネル」が完成し、開通式典がトンネル北側のエルストフェルトにて開催された。その3日後の6月4日、祝賀列車でゴッタルド・ベース・トンネルの初乗車を楽しめるイベントも。新トンネルは全長57.09km、日本が誇る青函トンネルの53.85kmを3.24km上回り、世界最長のトンネルとなった。ちなみにトンネル内を走る速度は時速250km、一方、青函トンネルは時速160km。それまで世界一だった全長、速度とも抜かれてしまいガッカリ。

10.世界一急勾配の登山鉄道|ピラトゥス鉄道:勾配1000分の480
列車大国スイスの圧倒的な技術力
世界一急勾配の鉄道がスイスの「ピラトゥス鉄道」。どのくらいの勾配かといえば1000分の480。つまり1000m進む間に480mも上昇する。48%の説明書きもあるがこれは百分率。日本では鉄道の勾配は百分率ではなく千分率で表すので、48%は1000分の480となる。例えば、電車の全長が20mとすれば、電車の前後、つまり運転士と車掌の高低差は9.6m。うっかり床に物を置くと転がりそうだが、その心配は無用。床が階段状になっていて仕切りがあるからだ。それにしてもこの鉄道、136年も前に建設され、当時はSLだったとは!

この記事はGOETHE 2025年7月号「総力特集:豪華クルーズ船&列車の旅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら