世界に誇る豪華列車は日本国内を走る。なかでも各列車が誇る特等席をご紹介したい。上質感漂うスローな列車旅でこそ、これまで知らなかった日本の風景を味わえるからだ。今回は「ななつ星 in 九州」をご案内。【特集 クルーズ&列車の旅】

九州の魅力を凝縮したクルーズトレイン
「ななつ星 in 九州」の701号室。それは列車旅を愛する者なら、誰もが憧れる特等席だ。阿蘇のカルデラをスイッチバックで進み、長崎の海岸線に真紅の夕陽を望む。九州の色とりどりの景色を後尾車両にとりつけられた大きな窓から眺める。何せよこの窓は、701号室のゲストのためだけのもの。すべての景色を独り占めするあまりに贅沢な時間が流れている。
九州の7つの県それぞれの魅力を発信すべく、「ななつ星 in 九州」は2013年に日本初のクルーズトレインとして登場。
2022年には乗車定員を最大10室20名に減らし、茶室やバーを設置するなどより優雅に、そして濃密に、九州の風景に触れられるようになった。権威ある旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』の読者選考において3年連続1位を獲得するなど、世界中の旅人を虜にしている。
食事は九州各地で料理人が乗りこみ、土地の食材で腕を揮う。茶室では八女茶をはじめ、九州のお茶と甘味が厳かに振る舞われ、席数わずか4席のまるで隠れ家のようなバーも開店。ここは撮影不可、メディアやSNSにもその内部・メニューが非公開で、乗った者にしか明かされない世界だ。1組90分、その空間とバーテンダーを独占し、ゲストのその時の気分や体調に合わせてウイスキーやカクテルを楽しむことができる。
客室のある車両はすべて動力を持たず、先頭の機関車に牽引され線路を進む。時間帯によっては、701号室のある7号車が窓の向こうに見える機関車に牽引されるシーンもあり、時と場所ごとに変わる窓の風景から目を離すことができない。
コースによっては熊本や由布院で下車して散策したり、普段は人が降りることの少ない秘境駅に停車したり。極上の窓外を眺めながら回る九州は、いつもとは違う顔を見せてくれる。
この記事はGOETHE 2025年7月号「総力特集:豪華クルーズ船&列車の旅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら