メディアで目にすることや、身近な人からの体験談を聞くことも増えてきた昨今。もし、「興味はあるけれど、まだ乗ったことがない」というのなら、何を待つ必要があるだろう? 極上のリゾート体験が待つクルーズ旅に、さあ出かけてみよう。【特集 クルーズ&列車の旅】

“一生に一度”はもう古い
最近、クルーズ船が話題になることが多いと感じていないだろうか。東京や大阪といった大都市だけでなく地方の港にも海外の大型クルーズ船が寄港する機会が増え、「すごいね」「中はどんなだろう?」「どんな人が乗っているのだろう?」といった話題が、SNS上にも溢れている。かたや、実際に乗った人たちの優雅な船上バカンスの様子も憧憬とともに拡散され、これまで以上に多くの人たちのバケットリストに挙がるようになってきているというわけだ。
だが旅行関係者によると、日本はクルーズ後進国だという。たいていは1週間以上となるクルーズツアーに参加できるほど、長い休みが取れない人が多いこと、しかも海外で乗船するにはその移動日も余計に必要だから、なおさらだというのだ。それもあって、「定年退職を迎えた夫婦の、退職金を元手にしての“一生に一度”の記念旅行」という、日本ならではのステレオタイプが生まれてしまったのだろう。
だが、今やリモートワークも可能な時代。クルーズ船に実際に乗ってみると、プールサイドでリラックスしながら仕事に勤しむワーケーション姿も目に留まる。裾野も広がり、“一生に一度”ではなく“一年に一度”も夢ではないと思わせてくれるような、アフォーダブルな価格のツアーも増えてきた。
それもあってか、“おひとり様”需要も少なくないらしい。しかも乗船中は、出会いの機会となるダンスパーティや、おひとり様同士をマッチングさせるイベントなども数多く用意され、出会い目的の乗船者も一定数いるというから興味深い。
さて、ここまでは活況を呈しているクルーズ旅の近況や背景について触れてきたが、その実際の魅力、得られる体験とはなんなのだろうか。

どこに行くか、何をするかだけでない特別な体験がある
飛行機の旅は、ファーストクラスにでも乗らない限り、さほど話題にも自慢にもならない。だがクルーズ船の場合は、どこへ行って何をするかだけでなく、乗ること自体も旅の目的となる。
今回乗船したのは、世界で最も豪華なクルーズラインのひとつに数えられるリージェント セブンシーズクルーズの「セブンシーズ エクスプローラー」。船上での非日常体験を彩るのは、刻々と表情を変える美しきオーシャンビュー。いつどこで写真を撮っても、とにかく“映える”。そして乗っているだけで、なんなら夜寝ている間に、船は新しい港に着いている。つまり、旅の目的地が向こうからやってきてくれるような感覚だ。
普段の旅では、移動するたびにパッキングの手間があるが、クルーズ船の場合は一度乗ってしまえば、最終日に下船するまで、その面倒から解放される。寄港地では、バックパックひとつの軽装で、種類豊富な現地ツアーに参加できる。
送り迎えのクルマと添乗員がついたツアーなら、初めての場所でも安心だ。逆に、自由に歩き回りたいという人には、市街への送り迎えだけの手配もしてもらえる。文化系、スポーツ系、アドベンチャー系など、多種多様なアクティビティもプランニングされていて、複数日の停泊ならより多くのツアーを楽しむことができるのだ。
この手軽さと便利さ、安心感が、ふだんの旅よりも時間と心と体力のゆとりを生んでくれるから、リゾート体験の充足度が違ってくる。
「長い船旅で、退屈しませんか?」という声を聞くことがあるが、その答えは簡単。先述したような停泊地観光もあるし、クルーズ船自体が「動くリゾートホテル」であるから、退屈する暇など少しもない。

ふたりでも、ひとりでも。あるのは薔薇色の日々
多くの人にとって、旅の大きな楽しみといえば食事となるだろうが、クルーズ船には食の選択肢がありすぎて、決めるのに困るほど。「セブンシーズ エクスプローラー」にもフランス料理、イタリア料理、アメリカ料理(つまりステーキハウス)、日本食を含めたエスニック料理の専門店があるのに加え、予約なしでいつでも利用できるメインダイニングレストランまである。さらにはバーで楽しむ食前のアペリティフ、食後のディジェスティフなど、美酒に酔う楽しみも尽きない。
ちなみにたいていの場合、オールインクルーシブで楽しめるスタンダードのドリンクメニューに加えて、例えば誕生日や記念日などにオプション料金でオーダーすることのできる、とっておきのヴィンテージワインリストもあるから、そこも楽しみにしていただきたい。
そして、船内にはエンタテインメントコンテンツも目白押しだ。夜な夜なのパーティや、ジャズ、クラシック、ロック&ポップスといった多彩なジャンルのライヴ演奏、さらにはミュージカル並みのパフォーマンス、マジック、ダンスといったバラエティ豊かな内容のステージが用意されており、早く床についてはもったいないと思わせるほど。その余韻に浸るかのようにデッキに出ると、夜、陸地から離れた海上の空は驚くほど澄み渡り、無数の星が瞬いている。
昼は昼で、料理教室や絵画教室、クイズ大会、政治経済を学ぶセミナー、ウェルネス講座、麻雀やトランプなど、自由に参加できる催しが盛りだくさん。プールサイドやテラス席でゆっくりと読書を楽しむ人も多いが、持ってきた本を読み終わっても大丈夫。ライブラリーから新たに、お眼鏡に適うような本を借りてくればいいのだ。
船内では食べ放題、飲み放題、港に下りて、また現地の美味しいものに舌鼓を打つ──なんていうことをしていたら、太ってしまいそう!? なんていう心配もご無用。船内にはプールもあるし、広大なデッキをぐるっと周回するランニングコースやテニスコート、パットゴルフといったスポーツ施設が充実。
もちろん、各種トレーニングマシンを取り揃えたジムや、メンテナンス&リラクゼーションのためのスパ&エステも。オーシャンビューのデッキで行う朝ヨガなども、新しい一日を始めるうえでの理想的なルーティンとなるだろう。汗をかいて運動して、お腹を空かせて、また美味しいものを食べる──という幸福な無限ループが、ここでは乗っている間中、繰り返されるのだ。
最後に、クルーズ船に乗る際は、日本人代表としての意識も持って、率先してウェルドレッサーたるべきことを心がけてほしいものである。というか、海外の人たちの「ファッションも含めて、この瞬間を存分に楽しもう」という気合いは想像以上で、気を抜いていると圧倒されてしまうほどである。
どういうことかというと、日中はTシャツ、短パンだった夫婦が、夜は男性がタキシード、女性はレッドカーペットも歩けそうなスパンコールドレスで、腕を組んで颯爽とレストランに現れるのだ。先述したが、そこは「船の上」でありながら、世界屈指の「リゾートホテル」であると思って、ディナーやシアター、カジノに出かける時は、ぜひとっておきのフォーマルスタイルを楽しんでほしい。
それでは、あなたの処女航海が一生の思い出となる素敵なものになりますように。ボン・ヴォヤージュ!
この記事はGOETHE 2025年7月号「総力特集:豪華クルーズ船&列車の旅」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら