TRAVEL

2023.02.23

日本ハイアット代表を直撃! 富士スピードウェイホテルに見る、 "唯一無二"のブランディングとは

世界75ヵ国に1250軒以上のホテルを展開するハイアット ホテルズ コーポレーションが2016年に立ち上げたブランド「アンバウンド コレクション by Hyatt」が2022年、日本初上陸を遂げた。今回、ホテルジャーナリストのせきねきょうこが、日本ハイアット代表取締役副社長の坂村政彦氏を直撃! 2022年10月に開業した「富士スピードウェイホテル」をはじめとする新ブランドの魅力を尋ねた。

サーキットと富士山に囲まれた唯一無二のホテル

「アンバウンド コレクション by Hyatt」の国内第1号となったのは、日本の最高峰、富士山の麓に誕生した「富士スピードウェイホテル」だ。「モータースポーツとホスピタリティーの融合」をコンセプトに、日本を代表するサーキットのひとつである「富士スピードウェイ」に隣接。ホテル内には貴重なコレクションが一堂に集結する「富士モータースポーツミュージアム」が併設されている。モータースポーツの歴史、サーキットのワクワク感、ラグジュアリーなホテル滞在、さらに充実のモータースポーツミュージアムの存在という稀な集合体は、世界でここだけのオンリーワンの体験となるだろう。

まずは日本ホテル市場への初進出を果たした、日本ハイアット代表取締役副社長の坂村政彦氏に、ブランド初デビューの意気込みについて尋ねた。

せきね この度は開業おめでとうございます。「アンバウンド コレクション by Hyatt」の"唯一無二"というのは、具体的にどのような特徴があるのでしょうか?

坂村 ありがとうございます。「アンバウンド コレクション by Hyatt」は、ひとつひとつのホテルが全く異なる雰囲気なんです。都市型であったり、郊外型であったりとロケーションもそれぞれ。その土地の特性を最大限に活かした、そこでしか体験できないユニークさが特徴ですね。例えばフランス・パリにある「ホテル デュ ルーブル」は、もともとはナポレオン3世が作った歴史あるホテル。ある意味、パリの歴史を背負ったホテルとも言えます。「アンバウンド コレクション by Hyatt」は、宿泊の体験を、人に伝えたくなるようなホテルを目指しています。

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「アンバウンド コレクション by Hyatt」の国内第1号となった「富士スピードウェイホテル」。富士山側の客室からは、目の前に迫りくるほどの富士山が、富士スピードウェイ側の客室からは、つい感情が高ぶるほど間近にサーキットを拝むことができる。

せきね それぞれのホテルに華麗なストーリーがあるのですね。

坂村 はい。フランスの「ホテル デュ ルーブル」のほかにも、カリフォルニアワインの名産地の中心に位置するリゾート「カーメル バレー ランチ」。シャーロック・ホームズ小説などにも登場する世界的に有名なスコットランドヤードの建物がホテルになっている「グレート スコットランドヤード ホテル」など、ひとつひとつのホテルに興味深い物語が隠れているんです。そんななか、日本で「アンバウンド コレクション by Hyatt」を展開するのならば、どんなホテルがよいのだろう……と、悩みました。旅館の展開もありかな、とか、日本の伝統的ホテルチェーンや迎賓館的なホテルなど、いろいろと模索しました。

せきね 何をテーマにするのかは、重要なポイントですものね。

坂村 ちょうどそのタイミングでトヨタ不動産様からお話がありました。その内容は、トヨタグループとして静岡県にある「富士スピードウェイ」の周辺地域を"モータースポーツの聖地"にまで格上げしていきたいというものだったんです。日本の自動車産業界が世界に果たしてきた役割は計り知れません。さらに、「富士スピードウェイ」からは富士山が大きく臨めます。日本の第1号は、モータースポーツに関連した「富士スピードウェイホテル」だと確信しました。

せきね 先日、「富士スピードウェイホテル」を訪れて、ホテル内の素晴らしいミュージアムを拝見し、圧巻のスケールに驚き、随所で立ち止まってしまいました。豊富な知識の冨岡副館長が、歴史的なストーリーを次々に教えてくださり、面白くて見学の予定時間を大幅に過ぎてしまいました(笑)。

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ホテルには、「富士モータースポーツミュージアム」が併設され、世界各国の希少なクルマが展示されている。

坂村 それは嬉しい! 計画時は、モータースポーツの歴史を楽しみながら学べるホテルにしたい。多くの人に魅力を知ってもらいたいと話していました。日本で初めてF1を開催したサーキット場が「富士スピ-ドウェイ」でしたし、トヨタグループ様から、ミュージアムを一緒にやりたいと言っていただき、それこそ唯一無二だと思い、話が前に進んでいきました。

せきね 「富士スピードウェイホテル」のコアターゲットは、20代後半から40代前半のミレニアル世代と伺いましたが、私が宿泊した際も、家族連れを何組も見かけました。年齢的にはもっと上の人もターゲットになると思います。

坂村 以前は高級ホテルというと、大理石に白い壁。建物は洋風。レストランではフレンチ……というフォーマットがあったように思います。ですが、ミレニアル世代の方々は、それぞれに異なる価値観を持っていて、「高級・特別な体験」の幅がとても幅広くなったと感じるため、ミレニアル世代を仮想ターゲットにしました。ですが、時代とともに多様な価値観はどの世代にも広がっていると思っています。50代以上の方々は、F1に熱狂された方が多いと感じますし、あらゆる世代の方に足を運んで欲しいですね。

せきね 片山右京さんが全盛期の時代ですよね。

坂村 そうそう。中嶋悟さんとかアイルトン・セナさんとか。そういう人たちが大活躍した時代を知っている世代の人たちには、日本のモータースポーツの存在感はすごく大きかったと思います。

せきね 経済もよかったですからね。

坂村 「富士スピードウェイホテル」は、自動車産業をはじめ、日本が加速度的に経済成長した時代を知るいい機会にもなると思っています。私たちは、モータースポーツに興味があった世代の人たちは、さらに上質なものを求めると考えています。上質な滞在・料飲体験を同時に満たせるのがこのホテルなんです。モータースポーツだけでは満足しきれない、80年代、90年代にモータースポーツに熱中していた世代の人たちが、さらにラグジュアリー体験やウェルビーイングなどを求めるようになってきていると感じています。

せきね これまで世界中のホテルを取材しましたが、ホスピタリティーは一番難しくて、どのホテルも試行錯誤しながら、改善を重ねていると聞きます。専門知識の多いモータースポーツとおもてなしの融合は、かなりの知識量が必要になりますよね。新人のスタッフさんは少し苦労されている様子も見受けられました。

坂村 せきねさんのご意見はすぐにフィードバックします。モータースポーツと融合したホテルということで、お客様の期待値も高いでしょう。そんなお客様の心を掴むような、また訪れたくなるようなホスピタリティー体験を提供していきたいと思っています。

せきね ミュージアムについても冨岡副館長からは、「こういう説明をしたら本当に魅力が分かってもらえる」という心持ちや、クルマへの"愛"がひしひしと伝わってきました。ですが、「来館者がまだ少ない」と話していたんです。でも本当に素敵な場所だったので、単にまだ知られてないだけだと思います。もっと存在を世間にアピールしましょう!

坂村 そうですね。今の打ち出し方は、ターゲット層が限定的になり過ぎているのかも知れません。果たして世の中の何%の人が、御殿場まで足を運ぶほどモータースポーツに熱狂されているのか。このホテルのコンセプトは、モータースポーツとホスピタリティーの融合ですから、もっともっと裾野を広げていいと感じます。ホテルの施設で温泉、スパ、マッサージ、食事などを楽しんでいただきたい。さらにファミリーでも、女性同士でも、ゴルフを目的のお客様でも楽しめる。近くに御殿場プレミアム・アウトレットもあります。さまざまな目的で来られたお客様に、モータースポーツにも興味を持っていただけたら嬉しいです。

せきね まずは買い物でもいい、食事でもいいから一度来ていただくことですよね。お客様が増えれば、絶対ミュージアム入館者も増えるはずです。開業後は、お客様がスタッフを育てます。「富士スピードウェイホテル」らしいホスピタリティが出来上がるのを楽しみにしています。

坂村 まさに目指しているところであり、我々も1日も早くそこに達したいと思っています。「私自身が富士スピードウェイホテルであり、ハイアットであり、もしくは富士スピードウェイの一員なんだ」という、アンバサダーのような気持ちを強く持つことが大事なこと。是非そうなってもらいたいし、そんなホテルにしたいと思っています。

大きな窓が特徴的な約55㎡の客室からは、豊かな自然と雄大な富士山が望める。洗練されたインテリアや、深めのバスタブとレインシャワーのスタイリッシュなバスルームなど、ゆったりとくつろげる。

Masahiko Sakamura
1973年富山県生まれ。米ワシントン大学大学院修了後、ホテル運営会社などを経て2011年に日本ハイアット入社。現在は日本とミクロネシア地区におけるハイアットブランドのホテルについて新規の開発案件推進の中心的な役割を担う。

Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト。仏国アンジェ・カトリック大学留学後、スイスの山岳リゾート地の観光案内所に勤務し、3年に及ぶ期間、4つ星ホテルに滞在。仏語通訳を経て1994年、ジャーナリズムの世界へ。ホテルの「環境問題・癒し・もてなし」の3テーマで現場取材を貫く。世界的ブランドホテル「AMAN」のメディアコンサルタント、他ホテルのアドバイザーも。連載・著書多数。

TEXT=せきねきょうこ

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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