モロッコ・マラケシュの至宝ともいうべきホテル「ラ・マムーニア」をご存知だろうか。世界中のセレブリティが訪れる、人生に一度は訪れるべきホテルと謳われ、2020年10月に大改装を終えたという。コロナ以前、世界中を飛び回っていたコラムニスト、中村孝則さんがアフター・コロナで真っ先に訪れたいホテルとしてこちらをピックアップ。旅人の心を鷲掴みにするそのワケを明かしてくれた。アフター・コロナで真っ先に訪れたい珠玉の海外ホテル「ラ・マムーニア」第3回【街歩き編】。
Netflixで話題のドラマ『令嬢アンナの真実』の舞台にも
前回までは、“マラケシュの貴婦人”とも称される、モロッコを代表するホテル、ラ・マムーニアのホテルそのものの魅力についてレポートさせて頂いた。世界的な流行り病が一段落されたら、ぜひとも読者に訪れて欲しい! という理由もお伝えした通りである(第1回【客室編】はこちら。第2回【レストラン編】はこちら)。
と改めて思っていたところ、つい先日の2月11日にNetflixで公開されたばかりの話題のドラマ『令嬢アンナの真実』を観て驚いた。なんとドラマの重要なロケの舞台のひとつが、このラ・マムーニアなのである。ドラマの内容に関しては差し控えておくが、映像では、このホテルのエントランスから内部、プールや庭園までが象徴的なシーンとして登場している。このホテルの楽しみ方を事前に知る上でも、ぜひご覧いただければと思う。
そして、ホテルの最新情報ということで付け加えさせていただければ、2021年に発表されたコンデナスト・トラベラーのリーダーズチョイスアワードで、ラ・マムーニアがThe Best Hotel in The World に選ばれている。また、ホテル専門誌HOTERESより、GMのピエール・ジェエムが世界の独立系ホテルのベスト・ジェネラルマネージャーにも選出。リニューアルが功を奏し、ますます評判を上げているようである。
世界中の人々を魅了するマラケシュ観光
さて、今回はホテルから一歩繰り出して、マラケシュの街歩きの愉しみ方についてご紹介したいと思う。というのも、ラ・マムーニアはマラケシュ観光の中心地に位置し、徒歩圏内にも魅力的なスポットが目白押しだからである。
まずは、ホテルから徒歩5分ほどのクトゥビーヤ・モスクに出かけよう。このモスクは、12世紀終盤に建築された、マラケシュを代表する建築物として知られる。特に、高さ70mほどもある、ミナレットと呼ばれる塔は、セビリアにあるヒラルダの塔などと並んで、“世界三大美しい塔”として知られている。4面からなる凝った壁の装飾は、それぞれ違うデザインであるから、まずはぐるっと塔を鑑賞することをお勧めしたい。
この塔を過ぎて10分ほど歩くと、街の中心であるジャマ・エル・フナ広場に到着する。通称、フナ広場である。この広場は、マラケシュというより、モロッコという国を代表する観光スポットである。この広場の歴史は、11世紀くらいまで遡り、かつては公開処刑場であったこともあるらしいが、いまでは多くの屋台や大道芸人などがひしめき合う、マラケシュでもっとも賑やかな場所である。2009年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。
屋台のエスカルゴ、モロッコの伝統食、ハリラスープは欠かせない
一辺が約400m四方のこの広場には、様々な屋台が所狭しと並ぶが、果実から絞る生のフルーツジュースの屋台が有名だろうか。オレンジなどの柑橘類が中心だが、珍しいところでざくろの生ジュースもオツな味わいである。新鮮な魚介類を焼く匂いと、威勢がいい呼び込みで誘う海鮮料理の屋台も沢山あり、目移りすることだろう。色とりどりのスパイスを豊富に揃える屋台なども、五感をワクワクさせる。
が、個人的な一押しはエスカルゴの屋台である。広場の中心部に、おそらく10店舗近くあるのだろうか。筆者は仕事がら、世界の数多くの市場や屋台も取材するが、エスカルゴの屋台というのは珍しい。しかも、ここの素材は瓶詰めや缶詰や乾燥のものではなく、生きたままの新鮮なエスカルゴを使うのが特徴だ。
エスカルゴは、フランスやスペインでも食用される食材で、オリーブオイルなどで焼かれるのがポピュラーな調理法だが、フナ広場の屋台では大きな鍋で煮付けとして料理されている。エスカルゴ1個の大きさは直径5㎝ほどだが、写真のようにどんぶりにたっぷりと盛られて供される様は、なかなかの迫力だ。しかも一杯150円ほどと手頃である。
さっそく殻から取りだして口に入れると、食感はつぶ貝の煮付けに近いが、味わいはさらに淡白であり、とても美味である。エスカルゴの出汁が効いたスープは胡椒やスパイスで味つけされ、意外にもあっさりした味わいで、何個でも手が伸びてしまう。最初はちょっと勇気がいるかもしれないが、是非ともトライしてほしい、マラケシュならではの味覚である。
食べ物でいえば、モロッコの伝統食、ハリラスープも欠かせない。これは豆を主体にしたスープで、サフランやターメリック、クミンやパプリカで風味づけされ、時にレーズンやデーツ、イタリアンパセリなどのハーブが入ることもある。特に、朝は広場周辺の道々の屋台が出ているから、地元の人々と一緒に味わえば、旅気分をさらに満喫できるだろう。
美術館、庭園、馬車など、ホテル周辺は治安もいい
旅気分ということでいえば、必ず訪れてほしいのが、ホテルからタクシーで数分の距離にある、イヴ・サンローラン美術館である。この美術館は、ピエール・ベルジュ=イヴ・サンローラン財団によって、2017年に設立されている。マジョレル庭園と呼ばれる美しい庭園に面し、スタジオ・コーによって設計された美術館の建物も素晴らしい。
この庭園は、もともとサンローランと、そのパートナーのピエール・ベルジェが1980年に購入したもので、その後ベルジェが保全していたものである。4000平方メートルの庭には、珍しい木々や花が咲き、植物園のようである。館内には、財団が保有するサンローランのアーカイブ5000点の中から、時期に応じて展示内容がセレクトされる。館内は撮影禁止なのでご覧いただけないのが残念だが、洋服以外の展示物も多く、ファッション・マニアでなくても愉しめる内容になっている。
ホテル周辺の治安はかなりよく、何不自由なく歩いて巡ることができるはずである。気が向いたら、街のあちこちで待機する、馬車に乗るのも一興だ。値段は交渉次第だが、東京都内のタクシー代くらいなので、歩き疲れたら気軽に使ってみよう。記念写真の演出にもいいのではないだろうか。アフター・コロナの旅の候補の筆頭に、ぜひともマラケシュを加えてほしいと願っている。
Takanori Nakamura
コラムニスト・美食評論家。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅とホテル、ガストロノミー、ワインやシガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、企画、執筆、講演活動などを行う。2007年にフランス、シャンパーニュ騎士団のシュバリエの称号を、’10年にはスペイン、カヴァ騎士の称号を受勲。プライベートでは、「渋谷金王道場」に所属する剣士でもあり、剣道教士七段の腕前。「大日本茶道学会」茶道教授でもある。
第1回【客室編】はこちら。
第2回【レストラン編】はこちら。