TRAVEL

2022.02.26

この世で最も美しい地、モロッコ・マラケシュの最高峰ホテル「ラ・マムーニア」【街歩き編】

モロッコ・マラケシュの至宝ともいうべきホテル「ラ・マムーニア」をご存知だろうか。世界中のセレブリティが訪れる、人生に一度は訪れるべきホテルと謳われ、2020年10月に大改装を終えたという。コロナ以前、世界中を飛び回っていたコラムニスト、中村孝則さんがアフター・コロナで真っ先に訪れたいホテルとしてこちらをピックアップ。旅人の心を鷲掴みにするそのワケを明かしてくれた。アフター・コロナで真っ先に訪れたい珠玉の海外ホテル「ラ・マムーニア」第3回【街歩き編】。

美術館に隣接するマジョレル庭園は、サンローランと、彼と生涯をともにしたパートナー、ピエール・ベルジェが1980年に購入し保全してきたもの。公園内のこの建物は、元々は彼らの住居であり、今はベルベル博物館としてベルベル人の衣装や装飾品が展示されている。

Netflixで話題のドラマ『令嬢アンナの真実』の舞台にも

前回までは、“マラケシュの貴婦人”とも称される、モロッコを代表するホテル、ラ・マムーニアのホテルそのものの魅力についてレポートさせて頂いた。世界的な流行り病が一段落されたら、ぜひとも読者に訪れて欲しい! という理由もお伝えした通りである(第1回【客室編】はこちら。第2回【レストラン編】はこちら)。

と改めて思っていたところ、つい先日の2月11日にNetflixで公開されたばかりの話題のドラマ『令嬢アンナの真実』を観て驚いた。なんとドラマの重要なロケの舞台のひとつが、このラ・マムーニアなのである。ドラマの内容に関しては差し控えておくが、映像では、このホテルのエントランスから内部、プールや庭園までが象徴的なシーンとして登場している。このホテルの楽しみ方を事前に知る上でも、ぜひご覧いただければと思う。

そして、ホテルの最新情報ということで付け加えさせていただければ、2021年に発表されたコンデナスト・トラベラーのリーダーズチョイスアワードで、ラ・マムーニアがThe Best Hotel in The World に選ばれている。また、ホテル専門誌HOTERESより、GMのピエール・ジェエムが世界の独立系ホテルのベスト・ジェネラルマネージャーにも選出。リニューアルが功を奏し、ますます評判を上げているようである。

世界中の人々を魅了するマラケシュ観光

さて、今回はホテルから一歩繰り出して、マラケシュの街歩きの愉しみ方についてご紹介したいと思う。というのも、ラ・マムーニアはマラケシュ観光の中心地に位置し、徒歩圏内にも魅力的なスポットが目白押しだからである。

まずは、ホテルから徒歩5分ほどのクトゥビーヤ・モスクに出かけよう。このモスクは、12世紀終盤に建築された、マラケシュを代表する建築物として知られる。特に、高さ70mほどもある、ミナレットと呼ばれる塔は、セビリアにあるヒラルダの塔などと並んで、“世界三大美しい塔”として知られている。4面からなる凝った壁の装飾は、それぞれ違うデザインであるから、まずはぐるっと塔を鑑賞することをお勧めしたい。

この塔を過ぎて10分ほど歩くと、街の中心であるジャマ・エル・フナ広場に到着する。通称、フナ広場である。この広場は、マラケシュというより、モロッコという国を代表する観光スポットである。この広場の歴史は、11世紀くらいまで遡り、かつては公開処刑場であったこともあるらしいが、いまでは多くの屋台や大道芸人などがひしめき合う、マラケシュでもっとも賑やかな場所である。2009年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

フナ広場から臨む、クトゥビア・モスクの塔。70mほどあるこの塔は街のランドマークなので、目印にすると歩きやすいだろう。手前は、観光客用に馬車である。

フナ広場に続く道には、カフェやレストランが軒を連ねる。コーヒーやお菓子で一服しながら、ゆきかう人々を眺めるも旅の流儀だろう。

屋台のエスカルゴ、モロッコの伝統食、ハリラスープは欠かせない

一辺が約400m四方のこの広場には、様々な屋台が所狭しと並ぶが、果実から絞る生のフルーツジュースの屋台が有名だろうか。オレンジなどの柑橘類が中心だが、珍しいところでざくろの生ジュースもオツな味わいである。新鮮な魚介類を焼く匂いと、威勢がいい呼び込みで誘う海鮮料理の屋台も沢山あり、目移りすることだろう。色とりどりのスパイスを豊富に揃える屋台なども、五感をワクワクさせる。

時間によって表情を変えるフナ広場。朝は広場全体が見渡せるのでお勧めである。フルーツの屋台では、その場でジュースに絞ってくれる。

が、個人的な一押しはエスカルゴの屋台である。広場の中心部に、おそらく10店舗近くあるのだろうか。筆者は仕事がら、世界の数多くの市場や屋台も取材するが、エスカルゴの屋台というのは珍しい。しかも、ここの素材は瓶詰めや缶詰や乾燥のものではなく、生きたままの新鮮なエスカルゴを使うのが特徴だ。

エスカルゴは、フランスやスペインでも食用される食材で、オリーブオイルなどで焼かれるのがポピュラーな調理法だが、フナ広場の屋台では大きな鍋で煮付けとして料理されている。エスカルゴ1個の大きさは直径5㎝ほどだが、写真のようにどんぶりにたっぷりと盛られて供される様は、なかなかの迫力だ。しかも一杯150円ほどと手頃である。

さっそく殻から取りだして口に入れると、食感はつぶ貝の煮付けに近いが、味わいはさらに淡白であり、とても美味である。エスカルゴの出汁が効いたスープは胡椒やスパイスで味つけされ、意外にもあっさりした味わいで、何個でも手が伸びてしまう。最初はちょっと勇気がいるかもしれないが、是非ともトライしてほしい、マラケシュならではの味覚である。

食べ物でいえば、モロッコの伝統食、ハリラスープも欠かせない。これは豆を主体にしたスープで、サフランやターメリック、クミンやパプリカで風味づけされ、時にレーズンやデーツ、イタリアンパセリなどのハーブが入ることもある。特に、朝は広場周辺の道々の屋台が出ているから、地元の人々と一緒に味わえば、旅気分をさらに満喫できるだろう。

フナ広場のエスカルゴの屋台。ベンチが用意されているので、カップの大小を選び、その場で味わうことができる。

こちらは、小さい方のカップに守られたエスカルゴ。これで150円ほど。サザエから身を取り出す要領で一粒づつ殻から取り出して食する。エスカルゴはサザエと同じ巻貝であるので、食感も貝類のそれに近い。味わいはあっさりしていてオツな味だ。スパイスが仄かに効いたスープと共に。

こちらは、モロッコの国民食のハリラスープ。豆が主体で、様々な具材やスパイスのバリエーションがある。焼いたパンを添えるのが一般的。朝散歩の腹ごなしで体験してみては。

美術館、庭園、馬車など、ホテル周辺は治安もいい

旅気分ということでいえば、必ず訪れてほしいのが、ホテルからタクシーで数分の距離にある、イヴ・サンローラン美術館である。この美術館は、ピエール・ベルジュ=イヴ・サンローラン財団によって、2017年に設立されている。マジョレル庭園と呼ばれる美しい庭園に面し、スタジオ・コーによって設計された美術館の建物も素晴らしい。

この庭園は、もともとサンローランと、そのパートナーのピエール・ベルジェが1980年に購入したもので、その後ベルジェが保全していたものである。4000平方メートルの庭には、珍しい木々や花が咲き、植物園のようである。館内には、財団が保有するサンローランのアーカイブ5000点の中から、時期に応じて展示内容がセレクトされる。館内は撮影禁止なのでご覧いただけないのが残念だが、洋服以外の展示物も多く、ファッション・マニアでなくても愉しめる内容になっている。

ホテル周辺の治安はかなりよく、何不自由なく歩いて巡ることができるはずである。気が向いたら、街のあちこちで待機する、馬車に乗るのも一興だ。値段は交渉次第だが、東京都内のタクシー代くらいなので、歩き疲れたら気軽に使ってみよう。記念写真の演出にもいいのではないだろうか。アフター・コロナの旅の候補の筆頭に、ぜひともマラケシュを加えてほしいと願っている。

マラケシュのイヴ・サンローラン美術館は、ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団によって2017年10月に設立された。美術館エントランス前の円形の中庭では“YSL”のロゴが来場者を迎え、常設の展示スペースのほか、企画展のスペースも配し、イヴ・サンローランの創作の源流を探ることができる。

Takanori Nakamura
コラムニスト・美食評論家。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅とホテル、ガストロノミー、ワインやシガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、企画、執筆、講演活動などを行う。2007年にフランス、シャンパーニュ騎士団のシュバリエの称号を、’10年にはスペイン、カヴァ騎士の称号を受勲。プライベートでは、「渋谷金王道場」に所属する剣士でもあり、剣道教士七段の腕前。「大日本茶道学会」茶道教授でもある。

第1回【客室編】はこちら

第2回【レストラン編】はこちら

TEXT=Takanori Nakamura (中村孝則)

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