「他の人に任せられない」と悩み、仕事を抱え込む人が増えている。しかし、実は「任せないこと」が部下や組織のパフォーマンスを下げ、そして何より自分自身の成長を妨げる最大の要因なのだ。自分も相手もラクになる、正しい“丸投げ"とは? 「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024 マネジメント部門賞」などを受賞し、現在10万部を超えるベストセラーになっている話題の書籍『任せるコツ』(すばる社)より、一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】
「どうしても任せられない」理由。圧倒的に多いのがこちらです。
“自分でやったほうが早い”
プレーヤーとして優秀であればあるほど、こう思ってしまうのは当然のことです。
確かに、経験の浅いメンバーに依頼すると、その後でフォローすることも多く、手間がかかってしまいます。また、この「自分でやったほうが早い」には、クオリティの懸念も含まれています。自分で動いたほうがいい成果が予測できることも多いでしょう。
経験もあり、能力が高いからこそマネージャーをやっているのだから当たり前のことです。間違っていません。
ただ、そこには限界があります。
そのひとつのプロジェクトだけを見ればそうかもしれませんが、仕事を任せず抱え込むことは、長いスパンで見ればメンバーの成長の機会を奪い、組織として総力を高めていないことになります。
足し算ではなく掛け算で考える
私がマネージャーになったばかりのできごとです。上司の抜擢で大きなプロジェクトを任され、意気揚々とチームを編成しました。
ひと段落ついたところで、突然、後輩がチームから抜けたいと相談に来たのです。
「自分の企画は採用にならなかったし、あまり自分がいる意味がないと思うんです」
ショックでした。私にはリーダーの素質もないし、マネージャーにも向いていないんだなと落ち込んだのを覚えています。
せっかくチームをつくったのに、自らのアイデアを推進することに注力してしまいました。認めづらいですが、自分が主役でメンバーはサポート要員という認識があったのかもしれません。
結果的にその仕事は、平均点の成果とはなったものの、チームの相乗効果で想像以上のアウトプットになったとは、まったく言えないものでした。
このプロジェクトで、「マネージャーの仕事は、1+1=2ではダメなんだ」と痛感しました。
「1」だった若手が「2」にも「3」にもなり、さらにその掛け算で高いパフォーマンスを生みだすことが、マネージャーの使命でもあり醍醐味でもあります。
わかりやすくするために、ひとつの営業部がどれだけ新規の契約を取れるかで考えていきましょう。
マネージャーの能力が高く10件、10人のメンバーはそれぞれ1件。これだけ能力に開きがあれば、任せたり育成に時間を費やしたりするより、自分で動きたくなります。数字化すると、
“10+10×1=20”
次は、マネージャーが現場に費やす時間を半分に減らして、その分メンバーの育成に力を入れた場合。
本人の契約が5になったとしても、仮にメンバーひとりにつき2件となれば、契約数は増えることになります。数字化すると、こうなります。
“5+10×2=25”
はじめは、そううまくいかないかもしれません。
でも、長い目で見ればメンバーの能力は「2」が上限ではありません。「3」「4」と増え、「10」になり、マネージャーを超える可能性すらあるのです。
「自分でやったほうが早い」は今だけの話です。先を見れば、チームとしての総力は個人の力の比ではありません。
大切なのは、メンバーの可能性を信じること。
精神論のようにも聞こえますが、日々のマネジメント業務をしていて実感します。
成長していく実感を経験する
人は成長します。もし成長しないなら、自分に問題がある、と考えましょう。
あえて厳しい言い方をすると、「チームに任せられる人がいない」というのは、「私はマネージャーとして無能です」と言っているのと同義語です。
「自分でやったほうが早い」というのは、育成を無視し組織を弱体化させる罪です。
まずは、マインドチェンジをし、メンバーのポテンシャルを信じて、はじめての「丸投げ」を実施してみてください。その際、小さな失敗は目をつぶりましょう。
試してみて、どうしてもうまくいかなければ戻せばいいのです。成長を実感すると、さらに任せやすくなります。
好循環が生まれたとき、あなた自身も一歩成長したことを実感できるはずです。