ゲーテ読者に薦めたいとっておきの1冊をピックアップ! 今回は劉慈欣(りゅうじきん)の『白亜紀往事』をご紹介。
傑作SF小説『三体』のエントリーにも! 恐竜と蟻が織りなす超文明の栄枯盛衰の物語
中国SFの存在を世界に強烈に印象づけた『三体』の著者、劉慈欽(りゅうじきん)。本書は、『三体』出版前に発表された初期中編だ。「『三体』を読みたいけれど、大作すぎて手が出しにくい……」。そんな人の“劉慈欣エントリー”としてもお薦めの1冊である。
人類が生まれるはるか昔の6500万年前。知性を持ったふたつの種族、恐竜と蟻によって高度な文明が発達した白亜紀後期が舞台だ。知性は高いが前肢が大きく、精巧な作業ができない恐竜と、技術力はあるが知性と想像力に欠ける蟻。
文明は相互の補完関係によって成立し発展するが、しだいにふたつの生物は対立を深めていき、やがて世界中を巻きこむ"竜蟻(りゅうぎ)戦争"を引き起こしていくことになる。その始まりから最後の一日にいたるまで、ひとつの文明の壮大な栄枯盛衰の物語だ。
コンピュータや核弾頭、蟻のにおい物質や、「雷粒」という名の爆弾など、虚実入り混じる世界観に想像力を搔き立てられ、一気に物語に引きこまれていく。
現代社会への風刺に溢れている本書は、強烈に面白いエンタメであると同時に人類への警告でもある。一方で、想像力と文化の力は分断が進むこの世界をもう一度ひとつにできる、そんなメッセージを私は感じた。
Seitaro Yamazaki
1982年神奈川県生まれ。セイタロウデザイン代表。「社会はデザインで変えられる」という信念のもと、デザインブランディングを中心に多様なチャネルのアートディレクションを手がける。