35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力0.5レッスン「人のEnglishを笑うな」第140回!
Can I Will Smith him?
YouTubeでお笑いの動画を見ていたら、動画にそんなコメントがついていました。一瞬意味がわかりませんでしたが、声に出してみたら、なんとなくわかりました。
キャナイ ウィル・スミス ヒム……。
ウィル・スミスといえば、アカデミー賞の授賞式で、プレゼンターに奥さんのことをからかわれ、ステージ上でプレゼンターを平手打ちしたシーンがパッと思い出されます。
Can I Will Smith him?
つまり、Will Smithを「ぶん殴る」という意味の動詞として使っていて、動画でふざけていた人を見て、「こいつぶん殴っていい?」という意味のコメントです。
人名を動詞にしてしまうのが面白くて、先日ロサンゼルスに住むアメリカ人の方と日本語でスカイプしていた際にその話をしました。そうするとその方はこう言いました。
「ああ、もうウィル・スミスが、クリス・ロックを殴っているあの写真は、“ミーム”になってるから。あ、“ミーム”って日本語でなんていうの?」
聞かれても「ミーム」がなにかわかりません。スペルを教えてもらったらこういうものでした。
meme
知らなかったら、絶対「メメ」と読んでいました。これは本来「遺伝子とは関係なく、習慣などを通じて人から人へ伝わっていく情報」という意味の名詞なのですが、近年はこれを“Internet meme”として新しい意味が生まれているようです。
「だから、ミームって何?」
と再度私が聞くと
「“Will Smith meme”で検索してみなよ」と言われました。
みなさんもやっていただければわかるかと思います。
ウィル・スミスがクリス・ロックをひっぱたいている画像の上に、さまざまな人が勝手にいろいろなキャプションをつけていました。
なかでも笑ったのが、ぶん殴っているウィル・スミスの写真の上に“me”と書かれ、殴られているクリス・ロックの上には
“The ketchup bottle that’s almost empty”(ほぼ空のケチャップの瓶)と書かれているもの。
ほぼ中身のないケチャップの瓶、あとオムレツ1回分くらいあるかな、と思って瓶を叩いて中身を出す、ということをしたことが誰でもあると思います。つまりクリス・ロックがこの叩かれているケチャップの瓶で、叩いているウィル・スミスが私、ということ。
ネタを言葉で説明するのは無粋ですが、そういうことです。
つまり、“Internet meme”とは「ネタ画像」の意味でした。
その画像をネタに大喜利のようにそれぞれが面白いことを言う、そんなネット上のネタのやりとりです。
一方この“Internet meme”は世界的に問題も引き起こしていて、イギリスの国営放送BBCでは、「“Internet meme”で人生を狂わされた人」という特集も組んでいました。ネット上の広告にモデルとして出ただけなのに、誰かがそこに「整形」と書き込んだことで、人生をめちゃくちゃにされた、という人もいるそうです。
「こんなに“meme”になってるとさ、ウィル・スミスの奥さんもかわいそうですね。“meme”は犬の写真とか、アニメのワンシーンとか、そういう写真の方が傷つく人も少ないかもね」
とその方も言っていました。
“Can I Will Smith him?”で、名前が動詞にされてしまったことも含めて、ウィル・スミスのこのアカデミー賞授賞式でのビンタは、世界的にネタになっているということがよくわかりました。
ちなみに、数年彼氏がいなかった20代の頃、私の苗字が、「彼氏がいなくてずっと会社にいる」状態を示す言葉として、会社で一般的に通用するようになっていたことがあったな、とどうでもいいことを思い出しました。
Illustration=Norio
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