全日本スナック連盟の会長である玉袋筋太郎さんがスナックを巡り、プロの目線で、ママやお店の評価を下す連載「スナックミシュラン」。日本列島津々浦々、スナックは全国に7万軒もあるというのに「興味はあるけど行ったことがない」なんて人も多いはず……。玉袋筋太郎さんが、ママのキャラ、お店の雰囲気、つまみ、歴史、時にはお客さんの質まで、深い愛情を持って★をつけていきます。第13回は東京・歌舞伎町にある『橘』。
今回の取材は、歌舞伎町で4店舗目となる「橘」さん。若干25歳でショーパブを始め、たった7年で10店舗以上の飲食店を展開するという急成長をみせている。「人のため、社会のためにならなきゃ意味がない」。そう言い切るオーナーの橘マリーさんに生き方やビジネスに対する思い、これからの夢について話をうかがった。
ナイトワーカーを盛り上げたい
玉ちゃん さて、今日は歌舞伎町の新勢力として頑張っている橘さん。前に来た時はね、3畳一間くらいの店でさ、マリーは「若い子にチャンスをあげたい」って言っていて、「おもしろい子だな」って思ったんだよね。
マリー いやいや、恥ずかしいですね。よろしくお願いします。
編集部 (いただいたお名刺を見ながら)こんなに何店舗もやられているんですか? すごいですね。
マリー ありがとうございます。「新宿からナイトワーカーを盛り上げよう」という思いでやっているんです。
玉ちゃん 前に会ったの、いつだっけ?
マリー このお店をオープンして3年経つんで……
玉ちゃん そっか、じゃあ結構、会ってないんだな。でも、ここもだけど、前のお店も綺麗な内装の店だったよね。
マリー そうですね。歌舞伎町のイメージを変えたいと思っているので。歌舞伎町にはいろんなお店があるんですけど、キレイにも飲めますよって。
玉ちゃん どうして、そんな風に思ったの?
マリー 元々、音楽活動をしながらキャバクラで働いていたんですけど、どうして日本ではミュージシャンとかクリエイターは食べていけないんだろうって思ったんです。それで、そういう人が働ける場所を作ろうと思って、ショーパブを作ったんです。その1号店が歌舞伎町で、歌舞伎町に救われたという思いがあるんです。
玉ちゃん 今では、東京でもいろんな街がそれぞれの文化を発信しているけど、新宿って街も長く文化を発信してきた街だと思うんだよね。それは、今でもあると思うのよ。その尾っぽをマリーが掴んだって感じなのかな。
マリー そんな、大層な言い方してくれるんですか(笑)。でも、ほんとにいい街なんですよ。怖いとか危ないとか、そういうイメージもあると思うんですけど、それを変えたいですね。
玉ちゃん そりゃ、どうしようもない人もいるけどね(笑)
15歳で独立、人のために生きる
玉ちゃん じゃ、歌舞伎町にたどり着く前のさ、若い頃の話、聞かせてよ。
マリー え、どこから話します(笑)?
玉ちゃん とにかくマリーは子供の時から無茶苦茶だったんだから。
マリー 無茶苦茶? かもしれないですね(笑}。イタリア系アメリカ人とのハーフで、北海道生まれ、新潟育ちです。2歳の頃から絶対音感があって、感性を刺激されることに惹かれて、座って勉強していることが嫌になっちゃったんですよね。数学なんか、コンピュータが進化するから必要ないって思ったりして、学校にも行かなくなったんです。その後、中学が終わる頃、親に「高校行くの?」って聞かれて考えたんです。ウチ8人兄弟で、高校の学費は自分で出さなきゃいけないから、13歳から結婚式でオルガン弾くバイトしてお金貯めたりもしていたんですけど……高校に行くくらいなら自分の人生を見直したいなって。それで、ボランティアに行こうと決めて、15歳の頃にインドに行ったんです。そこで人生観が変わって、東京に戻って音楽やりながらボランティア活動を始めたんです。
編集部 親御さんもすごいですね。その破天荒な15歳の娘をサポートしたんですもんね?
マリー そうですね、ウチの兄弟は大体15、16歳で独立してるので。
玉ちゃん みんな? すごいね!
マリー はい、才能を活かして人のために生きろという教育方針だったんです。自分よりも人のために生きろって。
玉ちゃん 困っている人にお金で援助するっていうのも、稼がなきゃいけないし大変なことだけど、マリーは自分なりの形で人のために生きてきたんだね。
マリー 人にチャンスを与えたいなって思うんですよね。私も良い人に出会ってチャンスをもらって、そのおかげで今こうやって社会貢献できるようになったので。
託児所から介護まで
玉ちゃん その、マリーの描いたビジョンがさ、うまくいってるんだよな。もちろん試行錯誤、七転八倒ありながらのことだと思うけど、マリーの太陽のような明るさがあるからね。
編集部 そういう「いい思い」を持っているマリーさんだったら、賛同してくれたり協力してくれる人も多いんじゃないですか?
マリー そうですね。物件探しもすごくよくしていただいていますし、事業拡大も皆さん応援してくださいますね。いまは、ナイトワークしている方のために託児所とかデイケアセンターをやりたいという気持ちがありますね。
玉ちゃん 素晴らしいね。凝り固まってないマリーの独自の考え方って言うかさ、そういうのいいと思うよ。ほんと素晴らしいことだと思うよ。よし、乾杯しよっ!
マリー え? あ、ありがとうございます(笑)かんぱーい!!!
マリー 現役の子たちは20代が多いんですけど、その子たちが結婚するために辞めたのに離婚してシングルマザーになっちゃったとか、ずっとウチで働いて歳を重ねた後の受け皿がないとか、40代の方に提供する仕事がないとか、そういうとこもフォローしていきたいなって思うんです。
玉ちゃん 最終的には介護まで見据えてるんじゃない?
マリー そう、やりたいんですよ!
玉ちゃん 俺もやりたいんだよ。じゃ、パートナーってことで(握手)
マリー やりたいんですけど、まだ微力なのでコツコツ一歩ずつと思ってます。
玉ちゃん 出資者、募っちゃう(笑)?
マリー お願いしまーす(笑)
玉ちゃん 飲食店の利益だけじゃ大変だよね。
マリー そうなんですよ。できないことが多すぎるんです。
玉ちゃん おう、大企業にドンドン行け、ドンドン行け!だってね、俺が80歳になった時にね、近所にこうやって集まる場所がなかったら、多分、家で孤独死しちゃうと思うんだよ。そういう福祉から何から、人を救うパワーを持っているものの一つなんだよね、ナイトビジネスって。蔑まされた夜の商売じゃないってことを、世に堂々と言いたいね。
マリー 私もそう思います!!
玉ちゃん 俺も全日本スナック連盟会長として邁進するけども、お互い横道それずに頑張っていこうよ!!
編集後記(取材陣の感想)
マリーさんには、最近は耳にしなくなってきた「社会起業家」という言葉がぴったりだ。真っ直ぐな思いで、正直に地道に必死に頑張るマリーさんの姿は、多くの人を惹きつけるのだろう。取材時には、若い経営者が多く集まっていた。誰もがマリーさんの思いに賛同する仲間なのだ。託児所から介護施設まで、ナイトワーカーの人生を背負う「覚悟」を持って生きるマリーさんは、「まだまだスピードが遅い」と話すが、今後どんな事業を展開するのか、どんな世の中を作っていくのか、興味を持たずにはいられない。
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①For Social
★★★
「全ては社会のため。覚悟がすごいね。」
②Beauty
★★★
「マリーだけじゃなく、女性スタッフもみんな可愛いんだよね」
③Interior
★★★
「二日酔いでも歌舞伎町の重さが残らない、さっぱりとした綺麗な店なんだよ」
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橘
住所:新宿区歌舞伎町2-22-13 ADビル4階
TEL:03-6233-9276
営業時間:11:00~18:00/20:00~ラスト
定休日:土曜・日曜・祝日