今回はパッティングの距離感と方向性の安定感が増す、「お辞儀パッティング」を応用した練習ドリルを紹介する。

ショルダーストロークの基本は「胸郭の動き」にある
パッティングで「肩を回転させる意識を持つと良い」とアドバイスされた経験はないだろうか。これは「ショルダーストローク」と呼ばれる打ち方に関するものだが、肩を回しているつもりでも、実際にはうまくストロークできない人もいる。
ここでいう「肩を回す」という表現には注意が必要だ。
肩関節は複数の骨で構成されており、多くの人が意識しやすいのは、外側に突き出した肩峰(けんぽう)と呼ばれる部分だ。しかし、この肩峰周辺を動かしても上半身全体は回転しない。むしろ肩はアドレスの状態のまま保ち、実際に動くのは胸郭(きょうかく)、つまり肋骨や背骨、胸骨で構成される胴体部分である。
したがって、呼び方に惑わされがちだが、ショルダーストロークとは「肩そのもの」ではなく「胸郭を含む上半身全体」を回転させる動きが本質といえる。
ミッシェル・ウィーの「お辞儀パッティング」に学ぶ
上体の回転で打つパッティングストロークを身につけるうえで参考になるのが、ミッシェル・ウィーのパッティングだ。
ウィーはハワイ出身で、14歳のときに「全米女子アマチュアパブリックリンクス」を制覇するなど早くから頭角を現し、15歳でプロに転向。183センチの長身と圧倒的な飛距離を武器に世界の舞台で注目を集め、「天才少女」と呼ばれた。
2014年の全米女子オープンでは悲願のメジャー優勝を果たし、ツアー通算5勝を挙げたものの、2023年に惜しまれつつ現役を退いている。
そんなウィーが一時期取り入れていたのが、上半身を大きく折り曲げて構える「お辞儀パッティング」だ。
パッティングが不振に陥った際、「グリーンに近い目線のほうが有利」と考え、少しでも地面に近づこうと深い前傾姿勢でストロークを行ったという。体を90度近くまで折り曲げるその独特のフォームは、大きな話題を呼んだ。
胸を動かす感覚をつかむドリル
今回紹介するのは、この「お辞儀パッティング」を応用した練習法。実際に体を90度まで曲げる必要はないが、できるだけ前傾を深めてストロークすることで、上半身の回転を使ったパッティングを身につけやすくなる。
アドレスでは骨盤から前傾し、パターのグリップを胸に軽く押し当てるように構える。無理をすると腰や背中を痛める恐れがあるため、可能な範囲で構わない。
下半身を動かさず、両脇を締めたままこの動きを行うと、胸郭が回転する感覚をつかめるはずだ。
腕を意識的に振らなくても、胸郭を動かすことで上半身が自然に回転し、パターが動かされる。この感覚こそがショルダーストロークの本質である。
お辞儀パッティングを繰り返したあと、通常のアドレスに戻って同じ感覚でストロークしてみよう。胸郭を中心に動かす意識を持てば、「肩を動かす」という従来の表現の意味がより明確に理解できるはずだ。
アドレス修正にも役立つ「前傾と目線」の関係
このドリルは、単に胸郭の動きを習得するだけでなく、アドレス時の目線の位置を確認する練習にもなる。
前傾が浅いと目がボールの体側に位置して右を向きやすく、逆に前傾が深いと目がボールより前に出た状態となり左を向きやすい。前傾の深さによって視界がどう変化するのかを体感すれば、自分の傾向に気づき、アドレスの向きを修正するのにも役立つ。
お辞儀パッティングを試すことで、胸郭が動く感覚や、腕を使わずにパターが動く感覚など、これまでにないフィーリングを得られるだろう。
ショルダーストロークのイメージをこのドリルで養い、実際のコースでは通常の姿勢で同じ意識を再現できるようにしてほしい。胸郭を使ったストロークが身につけば、パッティングの安定性は格段に高まるはずだ。
ショルダーストロークの動画解説はコチラ
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。