2025年PGAツアーはシェフラーの圧倒的支配と初優勝ラッシュで沸いた。その陰で注目を集めたのが「クローグリップ」。優勝者が実践した握り方を、動画解説付きで紹介する。吉田洋一郎コーチによる最新ゴルフレッスン番外編。

数字が物語るシェフラーの圧倒的支配力
PGAツアー2025年シーズンはプレーオフが終わり、舞台はシード権争いが激化するフェデックスカップ・フォールへと移った。今季を語るうえで外せないのは、スコッティ・シェフラー(29歳)の圧倒的な強さだ。
プレーオフ第2戦・BMW選手権ではシーズン5勝目を挙げ、3勝のローリー・マキロイ(36歳)を突き放した。勝利数以上に際立ったのは、その“支配”ぶりである。
シーズン平均ストロークは68.140と、ツアーで唯一の「69切り」を達成。主要スタッツの多くで1位を占め、2024年シーズン77位にとどまっていたパッティングも20位へ大幅に改善した。
ドライバーの飛距離と精度、切れ味鋭いアイアン、グリーン周りの粘り強さ、そして進化したパットが完璧にかみ合い、他を寄せつけなかった。
出場するたびにリーダーボード上位に名を連ね、19試合中16試合でトップ10入り(84%)を記録。25位以下は一度もなく、上位にいないほうが違和感を覚えるほどだった。
もはや「誰が勝つか」ではなく、「シェフラーが勝つか否か」という視点でシーズンを見てしまうほどの存在感を放った。
その強さを象徴したのがメジャートーナメントでの戦いである。
全米プロゴルフ選手権では、前年に逮捕騒動で注目を浴びた舞台でリベンジ。さらに全英オープンではキャリア通算4つ目のメジャータイトルを手にし、残すは全米オープンのみとなった。
キャリアグランドスラム達成に王手をかけたことで、2026年の全米オープンは、彼のキャリアのみならずゴルフ史全体にとって特別な意味を持つ大会となるだろう。
初優勝者たちが刻んだストーリー
もっとも、シーズンを彩ったのはシェフラーだけではない。2025年は実に12人もの初優勝者が誕生し、それぞれが異なる物語を刻んだ。
なかでも最もドラマチックだったのはベン・グリフィン(29歳)だ。チューリッヒ・クラシック・オブ・ニューオーリンズでアンドリュー・ノバクと組んで初優勝を飾ると、わずか数週間後にはチャールズ・シュワブチャレンジで個人戦でも勝利。難易度の高いコロニアルCCでショートゲームを武器に粘り勝ちを収めた。
かつてゴルフを諦め不動産会社に勤めていた男がツアーに戻り、夢をつかんだというストーリーは、シーズンを象徴するエピソードとなった。
PGAツアーで7度の2位を記録してきたキャメロン・ヤング(28歳)もついに歓喜の瞬間を迎えた。
これまで幾度も優勝争いに絡みながら涙をのんできた飛ばし屋は、ウィンダム選手権で悲願の初優勝。ツアー1000人目の初優勝者となったその勝利は、本人にとってもキャリアの新たな扉を開く記念すべき一歩となった。
そしてシーズンのフィナーレを飾ったのが英国のトミー・フリートウッド(34歳)だ。
PGAツアーにおいて163試合にわたり勝利に届かなかった名手は、プレーオフ最終戦のツアー選手権という最高の舞台でついに悲願を成就させた。しかも優勝と同時に年間王者にも輝き、1000万ドルのビッグボーナスを獲得。初優勝の舞台がプレーオフ最終戦というドラマは、ファンの胸を熱くした。
このほかにも、プエルトリコ・オープンを制したカール・ビリプス(24歳)は、コーンフェリーツアーから昇格3試合目にして堂々の勝利を挙げ、オーストラリアの新星として将来性を強く印象づけた。
さらにロケットクラシックを制したドライビングディスタンス1位(327ヤード)のアルドリッチ・ポットギーター(20歳)は、世代交代の波を象徴する存在となった。
2025年のPGAツアーは、シェフラーの圧倒的な支配という不動の軸がありながら、グリフィンやヤングの初優勝、そしてフリートウッドの歓喜といった人間ドラマが重層的に展開した一年だった。
スター選手の存在感と新しい選手たちの台頭が交錯し、ツアーの厚みと魅力は一段と増したといえる。2026年シーズンはシェフラーが全米オープンを制してキャリアグランドスラムを達成するのか、2025年活躍した選手たちがどこまで飛躍するのか、そして悲願を果たしたフリートウッドが新たなステージへと進むのか。
PGAツアーから目が離せなくなるだろう。
プレーオフ勝者3人に共通する「クローグリップ」
2025年シーズンのプレーオフを振り返ると、初戦を制したジャスティン・ローズ、第2戦のスコッティ・シェフラー、そして最終戦で悲願を達成したトミー・フリートウッド。この3人のパッティングに共通していたのが「クローグリップ」である。
3人の共通のパッティングコーチであるフィル・ケニオンの指導によるものかもしれない。
右手を指先で軽く添えるクローグリップは、手先の余分な力を抜き、体全体を使った安定したストロークを可能にする握り方だ。
上から挟む形は自然なフェース回転を生み、下から支える形はフェースの開閉を抑えるといった特性があり、プレースタイルに応じて選べる利点がある。
今季のプレーオフで優勝した選手がそろってこの握りを採用していたことは、その効果を裏付けるものだ。勝者の握り方として、来季はさらに注目されるだろう。パッティングに悩んでいる人は、ぜひ一度試してみてほしい。
クローグリップの動画解説はコチラ
◼️吉田洋一郎/Hiroichiro Yoshida
1978年北海道生まれ。ゴルフスイングコンサルタント。世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。『PGAツアー 超一流たちのティーチング革命』など著書多数。