米シニアゴルフツアーのPGAツアーチャンピオンズで、圧倒的な強さを見せているスティーブ・ストリッカー。彼に学ぶピッチショットのコツを、プロコーチの吉田洋一郎が解説する。
米シニアツアーで無双ぶりを発揮するスティーブ・ストリッカー
スティーブ・ストリッカーが凄い。今シーズン開幕戦の勝利を皮切りに、2023年5月に行われたシニアツアーのメジャー初戦、リージョンズトラディションで2022年に続く連覇を果たした後、メジャー2戦目のキッチンエイド全米プロシニア選手権でも優勝。メジャー2連勝でシニアメジャー5回目のタイトルを獲得した。その後に行われたアメリカンファミリーインシュランス チャンピオンシップでも勝利し、今シーズン4勝を挙げて賞金ランキング1位を独走。米シニアツアーでアンタッチャブルな存在となっている。
原因不明の病から回復し、シニアツアーを独走
ストリッカーは2023年1月に行われた今シーズン開幕戦、三菱電機選手権で2日目に12バーディー・ノーボギーの60を記録したほか、最終日も65で回り、2位に6打差をつけて圧勝。後半の14番パー5では、約15メートルのパットを沈めてイーグルを決めるなど絶好調だった。
今シーズンメジャー初戦のリージョンズトラディションでも、首位タイで迎えた最終日に65で回り、アーニー・エルスやロバート・カールソンらを突き放して2位に6打差をつけた。この大会は2022年も初日から首位を走り、2位に6打差をつけて完全優勝しており、2年続けて余裕を見せての連覇となった。
全米プロシニアゴルフ選手権は、それまで勝利した2戦とは違い、パドレイグ・ハリントンを追いかける展開で最終日を迎えたが、3アンダーでホールアウトしてハリントンと並び、2人でのプレーオフを制した。
その後、ストリッカーの地元ウィスコンシン州マディソンで行われたアメリカンファミリーインシュランス チャンピオンシップでは、ホストプロとして大勢のギャラリーの声援を受けながら順調にスコアを伸ばし、2位に5打差の18アンダーで圧勝した。今大会でパープレーよりも良いスコアでラウンドする連続記録を55に伸ばし、それまでタイガー・ウッズが保持していたPGAツアー記録52ラウンドを更新した。
6月29日からはウィスコンシン州で開催される全米シニアオープンも控えており、万全の状態でメジャー3連勝を目指す。
ストリッカーの妻のニッキーさんは、学生ゴルフの経験がありキャディを務めるが、全米プロシニア選手権でバッグを担いだのは、高校生の娘のイジーさんだった。実はリージョンズトラディションの最終日がイジーさんの誕生日で、優勝後にストリッカーが「全米プロシニアでキャディをやらないか」と持ち掛けたそうだ。イジーさんも高校のゴルフ部で活躍していて、ゴルフを続けるため、ウィスコンシン大学に進学予定だという。
経験の浅い高校生の娘がキャディでも優勝を果たすあたり、判断の秀逸さに、ショットやアプローチの正確さ、安定したパッティングを合わせ持つストリッカーの面目躍如といったところだろう。もともとパッティングには定評があり、タイガー・ウッズや同郷のジェリー・ケリーも教えを請うほどで、プロの間でも一目置かれている。ライダーカップでキャプテンを務めるなど、人望も厚い選手だ。
今は好調を続けているストリッカーだが、2021年秋のライダーカップでキャプテンを務めた後、原因不明の発熱や倦怠感に見舞われ入院。「現代の医学では解明できない難病」と診断された。2度の入院を経て、一時は10キロ以上体重が落ちるほどの体調悪化を経験したが、すっかり健康を取り戻したようだ。
プロでも難しいピッチショット
ストリッカーは100ヤード以内のコントロールショットであるピッチショットの名手として知られており、特にパー5の3打目でピンに絡むシーンを多く目にする。全米プロシニア選手権の初日には残り80ヤードから直接カップインするなど、毎回のようにピンをデッドに狙うショットを放っている。ストリッカーはピッチショットでいとも簡単にボールをコントロールしているが、実はピッチショットはプロでも緊張した場面で自信を持って打ちづらい、ゴルフの中でも難しいショットの一つだ。
ピッチショットの難しさは、距離に合わせてスイングの大きさを調整しなければならないことにある。距離を合わせるために振り幅の大きさを調整するのだが、インパクトの強さで距離を調整しようとすると距離の調整が難しい。力加減で距離を調整しようとすると、クラブヘッドが減速しながらインパクトを迎えやすくなり、ダフったりトップしたりすることがあるのだ。アマチュアゴルファーはバックスイングを大きく上げて、インパクトで減速しながら打つ傾向があるので気を付けたい。
ピッチショットをうまく打つポイントは構え方にある。ピッチショットはボールを飛ばす必要がないため、右足への体重移動はせず、最初から左足に体重をかけて左軸で回転する。体が回転しやすいよう、左のつま先をやや開くといいだろう。
ボール位置は真ん中からやや左寄りに置くといい。右に置くとリーディングエッジが地面に刺さってしまいダフリの原因になる。手の位置は左太ももの内側あたりにくるようにして、若干ハンドファーストにする。
距離によって振り幅を調整するが、バックスイングばかりに意識がいくと、フォロースルーがおろそかになりがちなので、スイングをする際はフォロースルーを意識することが重要だ。バックスイングよりもフォロースルーを大きくするように心がけてヘッドを加速させながらボールをとらえてほしい。初級者や中級者だと、ボールを打って終わりという感じになる人がいるので気を付けたい。
また、腕と体の同調性が重要なのはピッチショットも変わらない。両脇を締めて、体の動きによって腕が動くようにして、腕だけで振らないことが大切だ。
ピッチショットをマスターすれば、パー5の3打目や短いパー4で自信を持ってプレーできるようになる。100ヤード以内の正確性の向上は、スコアアップに直結するので、是非ピッチショットの練習をしっかりと行ってほしい。