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FASHION

2023.12.23

NYストリートファッション界の重鎮が手がける「ノア」、その社会的責任とは

ストリートファッションの雄「ノア(NOAH)」創業者夫妻へのスペシャルインタビュー。ブランドの成り立ちと、ファッション上級者をも虜にするクリエイションに迫る。

ストリートファッションの重鎮

「ストリートファッション」とカテゴライズされるスタイルが、世界のファッション業界を席巻して久しい現在。その名の通り、本来は都会のストリートを闊歩するキッズたちの装いだったが、いまやパリやミラノのランウェイを彩るラグジュアリーブランドまでもが採り入れるメインストリームとなった。そんな現在のストリートファッションの立役者のひとりと言えるのが、米国ニューヨーク発のファッションブランド「ノア(NOAH)」の創業者、ブレンドン・バベンジン氏だ。

1994年にニューヨークで誕生したストリートファッションの先駆的ブランド「シュプリーム(Supreme)」に、1996年より参画。約14年間デザインディレクターを務めながら自身のブランドであるノアを手掛け、ストリートファッションに多大な影響を与えてきたブレンドン氏。ノアの新店舗「ノアシティハウス」を2023年11月16日韓国・ソウルにオープンさせるにあたり、共同創業者のエステル氏と立ち寄った東京・原宿の店舗「ノアクラブハウス」にて、ノアについて、そしてファッションビジネスの展望について話を訊いた。

「私がファッションに興味をもったきっかけは1976年、5歳のときに始めたスケートボードです。とはいえ、スケートボードがファッションへ直結していたわけではなく、最初はどうやったらスケートボードを誰よりもスタイリッシュに乗れるかを考えていました。そして乗る際のアクションを研究するようになり、やがてその動きが最も美しく、格好良く見える服や靴はどんなものかを考えるようになったのです。思い返すと、それが私にとってのファッションの原点になったと思いますね」

まずはこのようにファッションとの出合いを語ったブレンドン氏。いわゆる“格好”からではなく、アクションスポーツとしてのスケートボードの格好良さから入る点に、クリエイターとしての気質が垣間見える。それはこんな言葉にも表れているようだ。

「スケートボードも、またパンクロックやサーフィンといったその他の私の原点も、重要なのは格好、つまりファッションではありませんでした。私はそれらをファッションとして捉えたのではなく、あくまでサブカルチャーとして捉え、熱中していたのです。今も昔も、サブカルチャーをメインストリームとなる前に経験するのが、たまらなく好きなのです。やがてそれらが自分自身のファッションを構成するいち要素となり、ビジネスへと繋がったのです」

2度目で見えたブランドの使命

スポーツや音楽をファッション、つまり格好や体裁だけではなく、カルチャーとして捉える。至極当然に聞こえるが、それは物事を表層的にではなく、本質的に捉えるということ。そう、これこそがブレンドン氏のクリエイターとしての気質といえるだろう。そもそもサブカルチャーとは、路傍(ろぼう)から自然発生的に生まれる、生々しく本質的なカルチャーであり、表層的に模倣し、コマーシャライズされたメインカルチャーとは対極的なもの。それはノアの世界観を構成する、揺るぎない支柱ともなっているのだ。では、そんなノアはどういった経緯で立ち上げられたのだろうか。

「実は、ノアはビジネスとしては2度、立ち上げています。1度目は2002年。シュプリームのデザインディレクターを務めながらでしたが、当時の私はクリエイションに集中するだけで、ビジネス的なマインドやプラン、ヴィジョンは持ち合わせていませんでした。そのため、やはりビジネスとしてはうまくいかず、5年あまりで頓挫してしまったのです。その後は再びシュプリームでキャリアに磨きをかけ、2015年に2度目の立ち上げに挑戦しました。当時はビジネス的なノウハウを身につけた自信もあり、エステルとも出会い、ふたりで話し合いながらブランドとしてのヴィジョンやコンセプトを明確にしていったのです」

ストリートファッションの中心的ブランドのクリエイションを長年担ったブレンドン氏だが、ブランディングや経営術は当然別物である。だが、起業家として挫折を経験し、エステル氏という公私にわたるパートナーを得たことで、世界的成功を果たした現在のノアがあったのだ。その成功の秘訣は、成すべきことをしっかりと見定められたことにあるようだ。

「再チャレンジする際にブランドコンセプトをエステルと話し合ったのですが、スケートボードやサーフィン、パンクロックなどさまざまな要素があり、ひとつには絞り込みませんでした。ですが、ファッションブランドとして成すべきことはひとつであるということに行き着いたのです。それは、ノアというファッションブランドとしての社会的責任をどう果たすかということ。そして私たちに課せられた社会的責任とは、果たして何かということを常に自問自答することなのです」

シュプリームの隆盛期を支え、ノアによって新境地を切り拓いたブレンドン氏は、ストリートファッションの最重要クリエイターのひとりだ。

社会的責任という名のコンセプト

現在の企業にとって、社会的責任(CSR)は経営に不可欠な要素のひとつである。だが、ブランディングの中心に据えるブランドは皆無だろう。そこにこそ、ノアの成功の秘訣があり、ファッションブランドとしての独自の立ち位置やアイデンティティがあるのだ。それはエステル氏の言葉にも裏付けられている。

「現在のファッションブランドにとって最も重要な社会的責任は、やはりサステナビリティ(持続可能性)です。しっかりと取り組んでいるブランドもありますが、業界全体としてはまだまだ少ない。こうした現状は、カスタマーを危険な方向へ導く誤ったメッセージとなっているように感じます。ノアとしては、サステナビリティを含め、何を社会的責任と捉え、どう取り組んでいるか、または取り組めていないのかを発信していく義務があるように思うのです」(エステル氏)

ノアの共同創業者であるエステル氏。英国の名門セント・マーチンズでファッションを学び、ノアでは店舗内装や空間演出など、インテリアデザインを担当。

大規模な綿花栽培による環境汚染や皮革素材の調達におけるアニマルウェルフェア、縫製工場の劣悪な労働環境、そして大量生産が引き起こす余剰生産品の廃棄や古着の処理問題など。現在のファッション業界が抱える解決すべきサステナビリティ問題は、まさに山積み状態である。ノアはリサイクル素材を積極的に活用し、ペットボトル代わりとなるステンレス製の水筒を定番アイテムにするなど、さまざまな取り組みを実践する。悪名高いファッション業界にあって、そうしたノアが掲げる社会的責任への取り組みは、人々の心に力強く響くのである。

「私たちのような小さな会社が、世界を変えられるとは思っていません。ですが、ノアというブランドにしかできないことは、きっとあるはずです。そのひとつとして取り組んでいるのが、製品の品質をできる限り上げることです。それが環境問題を解決する大きなきっかけになると信じています。製品のクオリティがアップするということは、長期間着られるということであり、カスタマーの購買数も減り、不必要な生産や消費の削減につながります。つまり、ノアのカスタマーには、製品を数多く買ってもらうよりも、厳選した良い物を末長く着続けてほしい。こうした私たちの身の丈にあった、私たちだからこそできることにきちんと取り組み、ブランドのフィロソフィーとして社会に周知していくことが大切なのです」

ノアというブランド名は「ノアの方舟」に由来し、赤十字は十字軍から着想したそう。その社会的責任感から、あたかもファッションの救済者を思わせる。

問い合わせ
ノアクラブハウス TEL:03-5413-5030

TEXT=竹石安宏、EDIT=大内康行

PHOTOGRAPH=木村心保

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