連載「I Don’t WEAR Jewelry. I WEAR Art」。今回は、ミニマルななかに、完成された美を生みだした「ディオール」。
それぞれが異なるからこそ、全体の輝きは増す
シンプルなデザインこそ難しい。ディオールが2021年に生みだした「ジェム ディオール」は、華美な装飾ではなく繊細に高級感を表現する、そんな美意識を感じさせる。ファインジュエリーのクリエイティブ ディレクター、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌが手がけたコレクションは、大きさの異なる長方形をランダムに紡いでいるのが特徴。
このリングでは、イエローゴールドとホワイトゴールド、そしてさらにダイヤをセットしたタイプもローンチされる。各パーツの形状がランダムになっているため、輝きは多方に放たれ、大きさ以上の存在感を醸しだす。シンプルなデザインは難しい、だからこそ美しいのだ。
反射による輝きを駆使した、計算されたシンプル
ブレスレットを形づくる幅の異なる長方形状の各ピースは、ディオールのアトリエに貼られた生地見本にインスピレーションを得たもの。それらを鉱物の地層のように解釈した結果、アシンメトリーなデザインにたどりついた。
各ピースの幅を違えるだけでなく、上下をズラしてレイアウトしている点にも注目したい。それによりそれぞれのピースの表面こそ一様にフラットでなめらかだが、しかし光が当たった際の反射は、リズミカルともいえる多彩な輝きを見せてくれる。
だからこそ細身でも存在感は大きく、重ねづけならさらに手元を華やかに見せてくれる。ダイヤモンドが加われば、なおのことだ。揃っていないからこそ生まれる美しさに、ブランドの意匠を感じる。
■連載「I Don’t WEAR Jewelry. I WEAR Art」とは……
時にファッションとして、時にシンボルとして、またはアートに……。ジュエリーを身につける理由は、実にさまざまだ。だが、そのどれもがアイデンティティの表明であり、身につけた日々は、つまり人生の足跡。そんな価値あるジュエリーを紹介する。