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FASHION

2022.09.02

「シンプルだけど固定概念を壊す」デザイナー榎本光希が前代未聞のショーで伝えたいこと

ATTACHMENT、VEINのデザイナーを務める榎本光希氏。対極ともいえる2ブランドを合同で発表するという、珍しい形でのファッションショーを完成させたデザイナーは今、それぞれのブランドの表現に何を思うのか。【前編はこちら】 連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」とは……

enomoto

2022年7月に、異例のランウェイショーが開催された。榎本光希氏がデザイナーを務めるATTACHMENTとVEIN、2ブランド合同のショーだ。会場は代々木第二体育館のエントランス。両ブランド合計で40体のルックが発表され、対極といえるほどコンセプトが異なる2ブランドが交差した。2ブランド合同ランウェイショーを経た榎本氏に、ショーやブランドの表現に対し思うところを聞いた。

“静と動”。相反するふたつを表現するデザイナー

――今回のファッションショーの、ATTACHMENTとVEINそれぞれのテーマを聞かせてください。

今回ATTACHMENTでは、アグネス・マーティンという女性アーティストをインスパイアし、テーマに置いていました。手描きのグリッドや線ばかりを描いている女性なんですが、この方が「何故線を書くんですか」という質問を受けている記述を読んだことがあって、そこで彼女は、「私は線を描いているつもりはない。私の作品には対象や空間、線すらない。形態がないものを書いている。例えば、海が形であることを意識したことはないでしょう。それぐらい私は自然のものを書いてる」と答えていたんです。

これはすごくATTACHMENTに思考が近いと思いました。ATTACHMENTが作る服に、ATTACHMENTという主張はない。でも、主張がないことが僕らは美学だと思ってやっている。なんで主張がないんですかっていうと、それは着る人が主役だから。そこに行き着くんです。

そこから、彼女の手書きの線やカラーパレットが、スッとATTACHMENTのコレクションに入るイメージが膨らんでいきました。見えるところだと、カラーパレットとか線のテクスチャーを入れてたりとか。

コレクションのディティールで言うと、デニムのブルゾンはLevi’sの3rdをイメージしてるんですが、一番特徴的なあの切り替えをなくしてしまったり、フラップポケットをなくしてしまったり、ボタンも隠してしまったりとか、大事なところをわざと出さないようにする。例えばもし、levi’sのあの切り替えが入っていたら、「古着っぽいものが好きなんだな」と思われると思うんです。そういったディティールをなくすことによって、アメリカンテイストがなくなっていったり、何物でもない服になっていき、無国籍な服になっていく。そうすることで着る人自身の人間味が出てくる、という解釈でやっています。

大事なディティールを削いでいくことによって、服そのものの匂いを消していく。そしてすごく無機質なものになる。それがATTACHMENTらしさだと僕は思っています。そういったことを、コレクションのなかでもやっているのが今シーズンです。

また、15年くらい前にリリースしたカーブしたデニムパンツや、シュリンク加工のシャツなどについては、単純に今やったら面白いなという気持ちもありますが、それを今風にアップデートすると、さらに面白いと思いました。デニムパンツは、当時はすごく細くてストレッチも入っていなかったものを、ワイドにしてストレッチも入れる。シャツに関しては、当時は細かったサイズ感を、ちょっとゆったりさせたり、現代版にアップデートしていく。

ATTACHMENTのレガシーのような部分もアップデートしながら表現していくことを意識していました。スタイルとカラーパレットに、アグネス・マーティンのテンションがよく出てるかなと思います。

対して、VEINのテーマはアンフォルメル。アンフォルメルは、フォルムを壊していくといった意味です。フランスの画家ジャン・フォートリエという方をモチーフにやっていました。第二次世界大戦中に活動していた、捕らわれた人質などをモチーフにした、割と抽象的な絵を描く画家です。

当時抽象画自体は全く流行っていなかった。そんななかで、ジャン・フォートリエは絵画的表現を壊す。その壊す作業すら、人間の暴力性を表現している。これを普通に描いてしまうと、その暴力性が伝わらない。殴り描くことによって、「人間の暴力性」や「戦争とは」といったテーマを描いていた画家なんです。

ちょうどこのコレクションを考え始めた時期も、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったりして、自分にとってとてもショッキングでした。そして2001年のアフガニスタン紛争を思い出したんです。だからアフガンストールをモチーフにしたものがコレクションにあったり、ダメージがあったり。僕は’01年には高校生でしたが、9・11もショッキングな出来事として心に残っています。それで、ツインタワーから、ダブルジップにしてみたり。そういったことがディティールとしてニュアンスに含まれているんです。

今回VEINでは、そういうことすらちょっと楽しいことに、ポジティブに捉えられるように、ファッションに置き換えて表現していくことをやってもいいかなと思いました。固定概念を壊すといった部分で、普通はやらないけど、やった方が面白いことができるのかな、という考えから始まっています。

静と動という言葉で表すと、ATTACHMENTは静、VEINは動です。ATTACHMENTは、あくまでも着る人が主役。シンプルなものであり、無機質なものになっている。VEINは、人間の感情的な部分や衝動を乗せることができるブランドだと思っています。

ファッションショーの様子

チームで共有した裏テーマ

――ショー全体のテーマはどんなものでしたか。

今回2ブランド別の表現をするショーでしたが、担当スタッフは、基本的に各パートを一人にお願いしていました。スタイリストも演出家も、どの担当も基本は一人ずつ。そして、僕が表現しようとしていることを皆さんにも共有してもらっていました。そういった裏テーマのようなものは共有していて、そのときには「エトスとパトス」という言葉をずっと使っていたんです。

エトスは、個人や社会集団の特性や、道徳的な慣習、予定調和。それが僕はATTACHMENT的だと思っています。パトスは、人間の制御できないまでに激しい感情。これがVEIN的だと思っている。表現する上で、自分のなかには2つのブランドにそれぞれの感情があり、コレクションを進めているんです。今回のショーも、もしタイトルを付けるのであれば、「エトスとパトス」というタイトルになるといいなと、漠然と4月ぐらいには思いながら進めていました。

――榎本さんは冷静な方という印象を受けますが、実際はどうなんでしょうか。

洋服を作るということに関しては、意外と激しい感情があるみたいですね。結構淡々としている方だと自分では思っているんですが、作り出すと少し違う感覚を感じることもあります。今回、両方のブランドを一緒に発表することを決めてからは、割と振り切れるようになりました。ATTACHMENTがATTACHMENTらしく、VEINがVEINらしくなるという感覚が作っている最中からあり、それがすごく心地良かったんです。

VEINの服を作るときに、あえてスタンダードな方向に置きにいくことも、たまにはあるんですが、今回においてはほとんどそれはしませんでした。ATTACHMENTについても、普段は「もうちょっとコレクションピースをやらなきゃ」とか、ひとつのブランドで、どうしても緩急を表現しようとしてしまう面があるんですが、今回はあまりなく進むことが出来た。それがものすごく心地良かったんです。それは多分、2ブランドを同時に発表すると決めてから、全体のショーとしての起伏があればいいという感覚になれたことが一番大きかったんだと思います。全然別物を一緒にやる面白さを感じました。

――今回の合同ランウェイショーを経て、感じたことはなんでしょう。

まず、どうやって受け取られるのかという部分は多少気にしながらやってましたね。2つ同時にやることってあまりないですし。比較対象にするショーもなく、例を見ることもできなくて、自己表現としてどうアウトプットしたらいいのか、すごく悩んでたんです。ただ、とても手応えはありました。それをみなさんがどう受け取るかっていうのは、やってみないと分からない部分がかなり多かったですし。結果的に、どちらのブランドも、「らしさ」を感じてくれた反応が多かったので、すごく良かったと思っています。

2つのブランドの振り幅を単純に楽しんでもらえたら良いなとは思ってたんです。どっちが好き、嫌いというのは人それぞれあると思いますが、「こんなに普通のものを作っている人が、こんなにぶっ飛んだこともやっちゃうのか」みたいな、その振り幅によって何かを感じてほしかった。「みんなあんまり感情を押さえる必要ないよ」と。

何かに抑圧されて、自分の感情を抑えて生きなきゃいけない瞬間って、我々大人にはあるじゃないですか。本当はこっちがやりたいのにできないという瞬間が。でも本当は、そんなことはないと思うんです。どっちもやればいいと思う。たまたま僕はどちらもやれる状況に置かれているので、そんな気持ちを持つ方の背中を押すようなコレクションになれば良いかなと思っています。どっちも正解なんだよと伝えられれば。どっちも自分なんだよと。そしてショーを通じて、「榎本光希らしさ」を感じてくれたら嬉しいですね。

■前編「ATTACHMENTとVEINという対極ブランドのデザイナー榎本光希とは?」

Koki Enomoto
1985年東京生まれ。ATTACHMENT、VEINデザイナー。2006年にATTACHMENTに入社。6年間の経験を経て、’12年からUNDERCOVER、’13年からJULIUSを経て、’19年にATTACHMENTに復帰。22-23AWシーズンからデザイナーを務めながら、自身のブランドVEINのデザインも手掛ける。

連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」とは……
東京が誇りに思うべき、“今”を生きるデザイナーに迫る本企画。彼らの表現方法やこだわりを深く追求する。コロナ禍という状況をを乗り越え、世界に発信し続けるブランドたちの現在とは。新たなクリエイティブと向き合い続ける、デザイナーの脳内に迫る。

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COMPOSITION=中里俊介(ゲーテ編集部)

TEXT=荒谷優樹(ゲーテ編集部)

PHOTOGRAPH=中森 真

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