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FASHION

2022.09.01

ATTACHMENTとVEINという対極ブランドのデザイナー榎本光希とは?

今回は東京コレクションでのランウェイも大成功を収めた、ATTACHMENT(アタッチメント)とVEIN(ヴェイン)2ブランドのデザインを務める榎本光希氏の考えに迫る。連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」とは……

榎本氏

引き継がれるレガシーとスタンダードの破壊

2000年代の東京メンズブランドを牽引したブランドのひとつである「ATTACHMENT(アタッチメント)」。23年間デザイナーを担当していた創業者の熊谷和幸氏が、22-23AWシーズンから後任に抜擢したのが、熊谷氏のもと長年アシスタントを務めていた榎本光希氏だ。榎本氏は'19年からデザイナーを務める「VEIN(ヴェイン)」とともに、2つのブランドのデザインを手がけ、'22年7月には2ブランド合同ランウェイショーを開催。それぞれのブランドにどんな想いを注ぎ込むのか、榎本氏の表現の核に迫る。

――榎本さんの経歴を教えてください。

20歳から6年間ATTACHMENTにいました。その間、'08年からパリで3回ほどショーを経験し、アシスタントとしてしっかり下積みをさせてもらった後、少し他の環境も知りたくなり、26歳でUNDERCOVER(アンダーカバー)に入りました。その後JULIUS(ユリウス)へ移った6年目くらいの時に、熊谷さんから「戻ってこない?」という話があったんです。そしてATTACHMENTへ復帰した後、「新しいブランドをやらないか」という話があり、VEINを始めたという流れになります。

――ATTACHMENTとVEINそれぞれの違いを教えてください。

ATTACHMENTは、前任の熊谷(ATTACHMENT創業者 熊谷和幸)がやっていた23年という歴史があるので、「服は着る人の付属品である」という哲学はブラさずにやっています。僕自身すごく好きな言葉でもあり、憧れて入ったATTACHMENTだったので、そのリスペクトを大事にしながら、現代におけるシンプリシティみたいなところを追求していこうかなと思っています。

対してVEINのテーマは構造表現主義。とってつけたようなデザインというよりは、服の構造自体がデザインとなり得るという部分に重きを置いています。例えばインサイドアウトみたいなデザインや、裏地が見えていたりというのが、僕にとっては構造が表に出るデザインであると思っています。あまり意味のないデザインはせずに、服の構造を表に出すことでファッションとしての面白さが伝わるといいなという意味を込めています。

それぞれこだわるポイントが違って、ATTACHMENTはどちらかというと「過程」。ものが出来上がる過程にこだわりを持っています。それは糸からオリジナルで生地を作ったり、シルエットだったり、着心地、洗いを生地で入れるのか製品で入れるのか、じゃあ柔軟剤は何がいいんだとか、すごく細かいことを一個一個選択してやっているんです。でもある意味、それがデザインになっていると思っていて、すごくシンプルなんだけど、構築的な過程を踏んでいると思っています。

逆にVEINはどちらかというと普通じゃないものが多い。普通じゃないものに付加価値をつけていくという作業。こんなことできるのかな、あんなことできるのかな、といった妄想から始まったりするので、スタートや大事にしてるポイントがまったく違う。だから、自分の中できれいに棲み分けられているなという印象を持ちながらATTACHMENTとVEINをやっています。

2022年7月代々木第二体育館にて、2ブランド合同ランウェイショーを指揮する榎本光希氏。

復帰したATTACHMENTへの想い

――一度ATTACHMENTを抜けた時の心境は?

良くも悪くも恵まれた環境にいて、ハタチそこそこでパリに行ってショーをやって、しっかり役回りも与えられて、いろいろやらせてもらっていても、熊谷さんを越えることはたぶん無理だなって思っちゃったんです。デザイナーになるには、何か他の要素が必要だろうという部分がずっと悶々とあって。いろんな会社を見て勉強しようかなと。この先ファッションでやっていくために、色々経験したかったという感じですね。

なにか物足りなくなった瞬間や、これでいいのかという感情があったし、20代後半ってそういう感情があるじゃないですか。どういう30代になりたいということを考えた時に、甘えちゃダメだなと思って。

ショー舞台裏の様子

本番へ向け着々と準備を進める舞台裏の様子。

――戻ってきた時に見たATTACHMENTは変わっていましたか。

まったく変わってなかったですね。うちの会社は結構離職率が低いんです。僕が前に居た時の人はほとんど残っていて。戻ってきて、はじめましての方が1人しかいなくて。メンツも変わってなければ、もちろんマインド的なものも変わってない。ただ僕がいた頃より規模感は大きくなっていて、ATTACHMENTというブランドの立ち位置は多少変わっていると感じました。やはりパリコレでガンガンやっていた頃とは印象が異なっていたんです。

ショーの様子

――自分自身が変わったと思った部分はありましたか。

年数を経てATTACHMENTに戻った時に、変わらないことがカッコいいなと思ったんです。特に、自分たちが自分たちであるためにプライドを持ってプロダクトに向き合っている部分が。そう感じることが出来るようになっていたことは、自分自身が変わったというか、当時は気付けなかったなと思う部分でしたね。前に在籍していた時には理解し得ない部分があったことを改めて感じたのが、再びATTACHMENTに戻ってきた時ですかね。

――一度抜けた経験が、今に活かされていると感じますか。

そうですね。現状維持をしようとすることは、結局現状維持にならなかったりするじゃないですか。そういう意味ではスイッチを入れなきゃいけなかったし、戻ってきたからにはと感じる面も大きいです。ショーという形もそのひとつですし、ウチにはなかった風を入れなきゃいけないという意識ではやっています。でもその風は全然知らない風じゃなくて、むしろ「ATTACHMENTがATTACHMENTであるために」というところを改めてやっている感じ。他からどう思われようと、自信を持ってやっていく。そういった意思表示のようなことをこの2シーズンは意識してやっています。

Koki Enomoto
1985年東京都生まれ。ATTACHMENT、VEINデザイナー。2006年にATTACHMENTに入社。6年間の経験を経て、’12年からUNDERCOVER、’13年からJULIUSを経て、’19年にATTACHMENTに復帰。22-23AWシーズンからデザイナーを務めながら、自身のブランドVEINのデザインも手掛ける。

■後編「シンプルだけど固定概念を壊す」デザイナー榎本光希が前代未聞のショーで伝えたいこと

連載「世界に誇るべき、東京デザイナー」とは……
東京が誇りに思うべき、“今”を生きるデザイナーに迫る本企画。彼らの表現方法やこだわりを深く追求する。コロナ禍という状況をを乗り越え、世界に発信し続けるブランドたちの現在とは。新たなクリエイティブと向き合い続ける、デザイナーの脳内に迫る。

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COMPOSITION=中里俊介(ゲーテ編集部)

TEXT=荒谷優樹(ゲーテ編集部)

PHOTOGRAPH=中森真

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