役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2024年11月8日公開の映画『ベルナデット 最強のファーストレディ』を取り上げる。
カトリーヌ・ドヌーヴの存在感たるや。それに尽きます。
今回紹介する映画は『ベルナデット 最強のファーストレディ』。主人公のベルナデットを演じるのはフランスを代表する女優、カトリーヌ・ドヌーヴ様。ルイス・ブニュエルの名作『昼顔』で貞淑な妻と大胆な娼婦を同居させる女性を演じたのは半世紀前。
物語は1995年、シラクが大統領になった瞬間から始まります。就任の挨拶という晴れの舞台。シラクはそれまで陰で支えてきたベルナデットが自分の横に並ぶことを嫌がります。なぜ? 一番大切にしないといけない人! 不穏な空気にそわそわしてしまう。全身ピンクのシャネルのスーツやデコラティブなドレスなど、ひと昔前のゴージャス感をいまだ纏(まと)う妻を古臭いと避けているのか……。私は好きですけどね。伝統、歴史を感じます。
さらに私設秘書を務める次女はもっと露骨で、母の世間への露出を抑えようとしてくる。なんでパパの味方? パパのママへの態度はあなたが改めさせなさいよ!
大統領になった途端、「俺と結婚してよかっただろ」って。それ、絶対言ったらいかんだろ! コイツ、ヤバい。何様? ベルナデットの政治活動中には、「ねぎのスープとカキとどっちを食べたほうがいい?」。どっちでもいい! しょうもない電話かけてくんな! どうしようもねえな! ん? これは滝藤もあるな……。食べ物も服装も奥様に決めてもらうことよくあるな……。自分もこんな風に「うざい」「自分で考えろ」「自立しろ」って思われているのかもと徐々に背筋が凍ってきましたよ。
それにしてもシラク大統領、これでもかってぐらいいいとこなし。素晴らしい功績をいくつも残しているとはいえ、これが史実なら、一国の元首としてどうなんだろうと思わざるをえませんでした。
ああ! カトリーヌ・ドヌーヴの素晴らしいとこいっぱい書きたかったのに! 心の声が止まりませんでしたよ。ベルナデット、こんな仕打ちを受けているだけでは終わりません! シラクをギャフンと言わせるべく、華麗な復讐劇が始まります。兎にも角にも痛快です!
『ベルナデット 最強のファーストレディ』
レア・ドムナックの長編デビュー作。1995年にシラクが仏大統領に就任してから2期目を務めた2007年までを描く。冒頭のミュージカルシーンでコーラス隊に事実をベースにするが、脚色したと注釈を歌わせ、コミカルに知られざる大統領夫妻の日常を見せていく。
2023/フランス
監督:レア・ドムナック
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ドゥニ・ポダリデスほか
配給:ファインフィルムズ
2024年11月8日より新宿ピカデリーほか全国公開
https://bernadette-movie.com/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在、映画『若き見知らぬ者たち』が上映中。2024年12月27日に『私にふさわしいホテル』が公開される。